任せよ
フリードがハイネに殴られ半泣きで帰っていった日から幾日がたったある夕食時、ヨコヅナは建国祭の屋台用に作ったちゃんこをハイネに試食してもらっていた。
「調理工程を簡略化したと言っていたな」
屋台では大量に同じ味で作らなければいけないため、ヨコヅナが納得できる味の範囲で手間を省いたちゃんこ鍋。
「あと少しだけ薄味にしただ、そのほうがみんなが食べやすいかと思ったべがどうだか?」
「へっちゃふまいのひゃ!」
「カルはなんでもうまいって言うだよ」
「ほんはほほはいひゃほ」
「カルの言う通り美味しいよ、これなら売れると思うぞ」
「それは良かっただ」
いつも作っているちゃんこ鍋だが、売れる物にするため色々試考錯誤を重ねて頑張ったからいつも以上に嬉しい言葉だった。
「爺や達は昼に食べたのだったな、どうだ味の感想は」
爺や、マツ、婆やは昼食時に試食してもらって感想を聞いている。
カルレインも昼食時に食べていたのだが、今も食べている。
マツの感想は「こりゃうめぇぜ!ヨコヅナ、なんつうかこう…すげぇうめぇぜ」と終始うめぇと言って沢山食べていた。
婆やの感想は「美味しいですよ、私はこれぐらいの味の濃さ丁度いいです。食材の下準備を丁寧にしているからでしょう、とても食べやすく優しい味です」とこちらも絶賛だった。
「私も婆やと概ねで同じ感想です。薄めの味を好む者には丁度良いでしょう。歳の割に濃い食べ物を好むマツもいくらでも食えそうだと言って実際大量に食べていましたので味の濃さはこれぐらいがベストかと」
「確かにもっと食べたいと思える味だ」
「ゴクンっ、いくらでも食べれるのじゃ」
「カルは何でも沢山食べるだよ」
「そんなことないじゃろ」
「ですので問題は値段の設定かと」
屋台で売るなら値段設定も大事になってくる。
お祭気分で皆財布の紐が緩くなるが、ちゃんこ鍋は名の知られていない料理だ。
味が良くとも食べてもらわなくては意味がない。
「値段はまだ決めてないのか」
「安い方が売れると思うだか、オラが決めた値段は駄目だと言われただ」
「原価割れしておりましたので」
「それは駄目だな」
「ねはんははへひまはへふはよひ」
「カルに任せて良いだか?」
「ゴクンっ、うむ、前に食べまわった時に大体の屋台の相場は把握しておる」
確かに闘技大会でカルレインは沢山の屋台をまわっていた、金を出していたのはケオネスだが。
「じゃあ任せるだよ」
「ははへよ」
口にちゃんこを詰め込みながら自信満々に言うカルレイン。
残念な顔なのに何故か頼もしい。
「ハイネ様、旦那様が本格的にちゃんこ屋を開業する時は是非協力したいとおっしゃっておりました」
「父上が……家の力は借りないと言ったはずだが」
「あくまで投資という形です。それに本音は」
爺やはハイネに耳打ちするように小声で伝える。
「ヨコヅナ様のちゃんこ鍋を気兼ね無く食べたいのが一番の理由でしょう」
「ふふ、なるほどな。ヨコヅナが私の屋敷に住むことを反対しなければ、いつでも食べにこれるものを」
その言葉を聞いて、(あ、やっぱり反対されてるんだべな)と思うヨコヅナ。
「ヨコヅナ様の王都での生活をサポートしたいと思う気持ちは旦那様も同じです。……これもそのサポートの一つです」
爺やはそう言って厚紙の束をテーブルに置く。
「なんだこれは?」
ハイネは束の上の一つを取り、二つ折になっていた厚紙を開いてみると中には女性の写真と簡単なプロフィール。
「……お見合い用の写真に見えるが」
「お見合いのという程畏まった物ではありませんが、…ヨコヅナ様もどうぞご覧下さい」
ヨコヅナの前にもお見合い用のプロフィール写真を置く。
「旦那様や奥様がコクマ病の治療薬の発明に協力し、コヒィーリア王女とも親しく仕事の依頼も受けているヨコヅナ様の話をしたら是非会ってみたいという方々がおりまして」
大層な言い方だが決して嘘ではない、さらにヘルシング家が懇意にしているとなればそうなるのは当然。
「ヨコヅナ様は未婚で特定の相手がいらっしゃらない様ですので、これもサポートとなると考え、少し勝手かとも思いましたが御用意させて頂ました」
「さすがに急すぎるだろ、ヨコヅナはまだ若い…」
「若いからこそ、これだけの女性が会いたいとおっしゃってくれているのです。さぁヨコヅナ様もご覧下さい、決して見たからといって会わなければいけないということはありませんので」
笑顔でプロフィール写真を進める爺や。
恋愛事に関してならヨコヅナが乗り気であればいかにハイネに思うところがあったとしても文句は言えない。
だからハイネに報告すると同時にヨコヅナに写真を見てもらえるようこのタイミングに話題をだした。
田舎から出てきた若い男からすれば是非もない話、ヨコヅナの性格からしてがっつくようなことはなくとも興味はあるはず。
少なくとも仲介するヘルシング家を気遣って会うぐらいはしてくれるだろうと考える爺や。
その場にいた皆の視線が集まる中、ヨコヅナはお見合い写真の束に手を伸ばし、
「お断りしますだ」
中を見ようともせず押し返した。




