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我が言うと説得力があるじゃろ


「ヨコヅナ、いるか!」


 少し慌てた様子で控え室に入るケオネス。


「っ!?」


 そこで見たのは試合で見せた構えで闘気を発しているヨコヅナだった。

 その迫力にケオネスも気圧される。


「少し待ってやってくれぬか」


 ケオネスは邪魔にならないように控え室にいたカルレインの側に行く。


「改めて間近で見るとこうまで力強いものなのだな」


 初見では異様な構えに気を取られて意識してなかったが、肥満体型のように見えながらその下半身にははっきりと筋肉の盛り上がりが見て取れる。

 だからこそ凄まじい突進力を生み出せるのだろう、あの威力を目の当たりにした後では対面に立つのも恐ろしくて出来ない。


 それから少ししてヨコヅナは大きくゆっくり息を吐いてから立ち上がる。


「お待たせして申し訳ないだ」

「次の試合に向けて気合が入っているのは頼もしい限りだ」

「…次のと言いますか、さきの試合での立合いでズレがありましただ、だから」

「ズレ?」

「少しの遅れと当てる角度が。やっぱりこういう場だと違いますだな」

「完璧な一撃にしか見えなかったが」


 ケオネスはそう言いながらも実際は速すぎてよく見えていなかったのだが。


「完璧なんて程遠いですだ」


 立合いでの見切りから攻撃への移行は、スモウにとって基本であり奥義だと親父から教えられていた。

 完璧だと思っても本当の完璧は遥か先だと考え鍛錬を怠るなと。


「ケオネスは何か用があって来たのではないのか?」

「ああ、そうだ。ソニード対ヂャバラの試合は見ていたか?」


 ケオネスの言葉に首を横に振るヨコヅナ。


「…そうか」


 普通次の対戦相手の試合ぐらい見るだろうと思うところだが、仕方ないと考え話を続ける。


「試合の勝者はヂャバラだ、だから二回戦で戦うことになるだが」



 第二試合の結果は無残なものであった。

 ソニードの会心の一撃を喰らいながらも、組み付き投げ倒して馬乗りになったヂャバラは、力任せに拳を振り下ろし続けた。

 ソニードは腕を交差させて防御するも、ヂャバラに豪腕の前では意味をなさない。

 骨は砕け、顔面が潰されて血だらけになってもヂャバラは拳を止めなかった。

 審判が止めに入るのがもう少し遅ければ命を落としていただろう。


「ひどい奴もいるものだべな」

「コフィーリア様が言うには」


『戦いのさなか、熱くなりやりすぎることはよくあること。審判が止めるのを聞かずに攻撃を続けたならともかく、出場する以上この程度、覚悟して試合に望んでもらわなければ困るわね』


「とのことだ」

「わははっ!ヨコも覚悟しておくのじゃぞ」

「そんな覚悟してないから、怪我しない内に棄権するだべかな」


 冗談ではあるがちょっとそれも良いかもとか考えるヨコヅナ、しかし…


「悪いがそれはさせれない、問題はこの後だ。勝利宣言のあと闘技台にヂャバラ選手のセコンドが上がったのだ」




 そのセコンドは女性であった。

 女性は腰まである黒髪で片眼鏡をしており白衣を羽織っていた。

 選手でない者が闘技台に上がったので、審判や警備の者が動こうとするが、


「王女殿下少しお時間を頂いても宜しいでしょうか?」


 女性がそう王女に問いかけた。


『構わないわ』

「ありがとうございます。申し遅れました、私の名はツルーナと申します。ヂャバラのセコンドであり彼を鍛えたのも私です」


 ツルーナは観客、特に王女や他のお偉いさんに聞こえるよう声を張って演説する。


「鍛えたと言っても格闘を教えたわけではありません。私は研究者ですので」

『研究者、ね。その研究成果がヂャバラのあの筋力と頑丈さかしら』

「さすがは王女殿下、聡明でいらっしゃる。その通りです!」


 ツルーナは両手を広げて自慢するように、いや実際自慢しているのだろう。


「元々彼は貧困街で暮らす、その日の食事にも困るようなやせ細った青年でした。しかし!私の研究成果により今では格闘の技など効かないほどの屈強な肉体を手に入れたのです!」


 大胆な宣言ではあるが、つい今しが行われた試合がその言葉を真実たらしめていた。


「それだけではありません。え~と、ソニード選手でしたか、彼があの格闘技術を身につけるのに厳しい鍛錬を何年も行ってきたのでしょう、5年?10年?もっとかもしれません。しかし!ヂャバラは半年です!たった半年でこれほどの強さを身につけることができたのです!」


 これには会場が響めく、「まさかそんな」「ありえない」と、だがコヒィーリアはそれが事実なのだろうと推測する。

 でなければこんなところでそれも王女の前で演説などするはずがない。


『…なるほど、言いたいことは解ったわ。つまりあたなを雇い入れれば屈強な兵士を短期間で鍛えあげることができるという事ね』

「まさにその通り!!私の研究成果を活かせば、わずか半年で今までにない最強の軍隊を作り出すことが出来るでしょう!」


 要するにツルーナの目的は売り込みであった。自分を高待遇で雇ってもらうためにこの場を使っているのだった。


「いかがでしょう?王女殿下」


 言葉は疑問形であるが、ツルーナは断れるなど一切思っていない表情を浮かべている。


『そうね。……次の試合、二回戦を勝てればあなたを雇いましょう』


 コフィーリアは少し考えた後そう答えた。


「二回戦……」


 ツルーナが二回戦でヂャバラと戦う相手、ヨコヅナの事を思い浮かべる。


「体格が大きく上回る者との戦いも見たいというわけですね。……しかし二回戦を勝つことが条件なのは良いのですが」

『なにかしら?』

「別に、優勝しても構わないのでしょう?」

『…ええ、出来るならね』




「なんでオラを巻き込むだ?」


 とんだとばっちりに苦い顔をするヨコヅナ。

 ケオネスも疑問に思い聞きに行ったのだが、コフィーリアは質問には答えず、


「ヨコヅナに伝えて、勝ちなさい。と」


 伝言(命令)を言われたのだった。


「だから何故だべ?」

「私にもコフィーリア様の真意はわからない」


 王女の行動に振り回されるのはいつものことなのだが、条件をヨコヅナに勝つことにしたり、そしてヨコヅナには勝つように伝えたりと、やっていることがバラバラのように思えた。


「気にするでない」


 頭の上に?を浮くべる二人にカルレインが言った。


「王女もそのセコンドの女も関係ない。一試合目の前にも言ったじゃろ、ヨコはいつもどおりスモウをすればよい」


 その言葉を聞いて、ケオネスは気付かされる。

 自分はヨコヅナに余計な重圧をかけてしまっただけだと。


「その通りだな。戦うヨコヅナのことも考えず余計なことを言ってしまった、すまない」

「い、いえ、大丈夫ですだ」


 そんなことで頭を下げるケオネスに慌てるヨコヅナ。


「もし負けてもコフィーリア様のことは私が何とかする。だから先ほど言ったことは忘れて戦ってくれ」

「分かりましただ。ところで、さっきの試合の話ですだが」

「ヂャバラのか」

「そのヂャバラという選手は、相手に組み付いて投げ倒すような戦い方をしていただか?」

「ああ、殴るように拳を振り回してもいたが、狙っているのは組み付くことのようだ。予選でもほとんどが組み付いて倒し、上になって殴りつけるという勝ち方だったらしい」


 予選でヂャバラと戦ったほとんどの選手がソニードと同じ運命を辿っていた。

 

「私が見た予選決勝ではヨコヅナと同じぐらいの体格の相手を投げていた」


 凄まじいパワーだったので印象に残っている。名前までは覚えていなかったが、あんな不気味な選手は他にいない。


「あの怪力では、ヨコヅナでも組まれれば危ないかもしれないぞ」

「それなら大丈夫ですだ」


 ヨコヅナの言葉は今までにないほど自信に満ちたものだった。


「なにか対策でもあるのか?」

「ヨコヅナは倒れないから()()()()なんですだ」


 ケオネスにとっては質問の答えになってない答えを言うヨコヅナ。

 ケオネスがさらに問いかけようとした時、控え室の扉がノックされた。


「失礼します」


 現れたのはケオネスの護衛の者だ。


「ケオネス様まもなく第八試合が始まります」

「わかった、ご苦労」


それだけ伝えて護衛の者はまた部屋を出ていく。


「第八試合は注目されている一戦だ。ヨコヅナも見ておくといい。決勝で戦うとしたらこの二人の内どちらかだろう」


 気の早いことを言うケオネスだが、決勝まで行きたいと思っていないため乗り気でないヨコヅナは、どうしようかとカルレインの方を見る。


「その次はヨコの試合なのじゃ、通路で見ていればよかろう」

「……そうだべな」


 そして控え室をでるヨコヅナ達。


「ん?」


 丁度その時部屋の前を通った者がいた。

 通路は薄暗いため、はっきりとは見えないが、その者の顔は幼く体格はとても小柄だった。


「ここは選手と関係者以外立ち入り禁止だぞ」


 ケオネスが迷いこんだ子供だと思い、そう声をかけたのだが。


「僕は選手だ」


 子供のように高い声で冷たく言い返された。


「そ、そうか。すまなかった」


 その者はケオネスの謝罪を無視してすぐに背を向けて行ってしまった。一瞬ヨコヅナの方に視線をやってから。


「あんな子供も出場してたんだべな」

「子供だと舐めてると痛い目みるぞ」

「強いだか?」

「わはは、まぁ戦えばわかるじゃろ」


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