人気者は辛いの
『いよいよ一回戦最後の戦い、第八試合の始まりです。まず西方から登場するは、前大会準優勝者にして今大会優勝候補の推薦選手!ケンシン流三拳士最後の一人ダ ン バ ー ト~!!!』
ダンバートが姿を現したことで会場に大きな歓声が響き渡る。
「頼むぜダンバート!ケンシン流の力見せてやれ!」
「今年は絶対優勝だ!!」
「ダンバートさんガンバって~!!」
前大会の準優勝者という実績があり、ケンシン流の他二人が負けてしまった為、流派の期待を一身に受けていた、またダンバートは推薦選手でもあるため、推薦したお偉いさんの面子もかかってくる。
無骨な選手が多い中、精悍で整った顔立ちをしているダンバートには女性の声援も多かったりする。
だがダンバートにとってそんなものは関係ない。
そもそも三拳士という呼ばれ方も好きではなかった。あれはケンシン流の経営の人間が、本戦に残れた三人をケンシン流の宣伝としての効果を上げるためにつけたものだ。
そんな呼び名に何の意味もない。自分は自分の目的のために戦い、優勝を目指す。
「あいつと戦うためにもまずは一回戦だな」
先を見据えながらも、堅実に油断しないよう自身に言い聞かせるダンバート。
『続いて東方より登場するは、で、でかーい!!今大会最大の体格をほこる推薦選手。冒険者ザ ン ゲ フ~!!!』
現れたのは予選決勝でジゲロと共にいた大男ザンゲフ。
「やったれやぁ!ザンゲフ!!」
「お前こそ優勝候補だ!」
「あのいけ好かねぇ、クール顔を潰したれ!」
ダンバートに比べて野太く柄の悪い声援が多い、知り合いの冒険者達だ。
二十歳のザンゲフは期待されている若手冒険者だ、見た目おっさんだが、
先輩の冒険者仲間も多く応援に来てくれていた、先輩の方が若く見えるぐらい見た目おっさんだが、
十五歳の時から冒険者として生き抜いてきたその実力は本物だ、十五の時も見た目おっさんだったが、
「けっ、なにが三拳士だ!他の二人はあっさり負けてんじゃねぇか。所詮ケンシン流なんぞ役に立たねえお遊戯なんだよ」
顔に見合った悪役っぽい台詞をはくザンゲフ。
『一回戦で最も注目の試合と言われている推薦選手同士のこの試合。お互い声援も大きい!!見た目だとイケメン格闘家が悪者退治をするようにしか見えません、ダンバート選手勝てるのでしょうか!』
『実況が片方を贔屓にしてはダメよ』
『あ、すみません』
『ダンバートが優勝候補と言われるだけの実力を持っているのは事実だけれども、今大会は予想を覆す展開が多いように試合は何が起こるかわからない。ザンゲフも冒険者としてなかなかの実績を持っているわ』
『なるほど、この試合も何が起こるかわかりません!!観客の皆さんも見逃さないように注意してくださいよ!ではまもなく試合が開始されます!』
「俺も運がいいぜ、お前のような奴を潰して優勝したほうがより泊がつくってもんだからな!」
「そうか」
「降参は早めにしてくれよ、こんな大勢の前で殺しはしたくねぇ!」
「同感だ。私も殺しはしたくない」
「へっ、言うじゃねぇか」
審判の説明を聞きながら、挑発するような台詞をはくゼンゲフとそれを真っ直ぐ見て返すダンバート。
両者が開始線につく。
「はじめ!」『ドドンっ!!』
先に動いたのはダンバートの方だった。
開始の合図と同時にダンパートの姿がぶれたかのような速さで攻撃の間合いまで移動する。
反応できないザンゲフの鳩尾へ拳を叩き込む。
さらに下がってきた顎へ強烈な一撃。
『おぉ~!目にも止まらぬ速さでダンバート選手先制攻撃!!昇る龍の拳が顎に決まった~!!』
ザンゲフの頭が跳ね上がる。
『もしやこれで終わったか!』
『いえ、まだよ』
並の者ならこれで終わっていただろうが、ザンゲフは並では無かった。
後ろに倒れそうなほど反り返った状態から、戻す反動を使って両腕をダンバートに向けて振り下ろす。
「ぐっ」
両腕をクロスして受け止めるも、重い攻撃に片膝をつくダンバート。そこへザンゲフのでかい足が蹴り上がってくる。
『ぎゃあ!ダンバート選手蹴り飛ばされた!!』
『…半分自分から飛んでるわ』
ダンバートは自ら後ろに飛んでダメージを軽減させる。
すかさずザンゲフが追い打ちをかける、でかい拳を下から振り上げるような一撃。
当たれば場外まで吹き飛びそうな勢いの拳を、ダンバートは紙一重で交わす。
振り上げる攻撃の為、ガラ空きになったゼンゲフの脇腹へダンバートの後ろ回し蹴りが突き刺さる。
「げぅっ」
痛みに体をくの字に曲げるザンゲフ。
頭が下がったザンゲフのこめかみにダンバートの手が添えられる。
ダンバートは強く踏み込み、膝、腰、肩のひねりで力を掌底として叩き込んだ。
「がはっ!」
ザンゲフ選手の巨体が崩れるように倒れる。
『頭部への一撃でザンゲフ選手ダウン!!』
審判が慌てて駆け寄る。
「お、おい」
「寄んじゃねぇ!まだ戦える」
伸ばされようとしていた手を払い、立ち上がろうとするザンゲフ。
『あれを受けて立ち上がるなんて!?』
『…意識を保っているだけでもたいしたものね。でも』
震える足で立ち上がったザンゲフは、前に出ようとするがまた膝をついてしまう。
立ち直す前にザンゲフの顔面に向けてダンバートは蹴りを放つ。
しかしその蹴りは顔面直前でピタリととまり、そのままダンバートは離れる。
『どうしたのでしょう!?ダンバート選手蹴りを顔前で止めてさがった!』
『……味なことをするわね』
「て、てめぇ、なんつもりだ」
「今の蹴りの意味が分からぬ程、愚か者ではないと判断したのだが」
その言葉を聞いて、ザンゲフはダンバートを睨みつける。
「ちっ!……分ったよ、俺の負けだ」
ゼンゲフの言葉を聞いて審判がダンバートの腕を取って持ち上げる。
「勝者ダンバート!!」
会場に歓声と拍手が舞い上がる。
『やりました!ダンバート選手勝利です!!』
『見事な試合だったわ』
『ほんとですね!!……ダンバート選手があそこで蹴りを止めたのは』
『「今の蹴りで殺れた」と言いたかったでしょう。冒険者として普段から命を懸けているザンゲフにも、それが分かったから降参したのでしょうね』
『なるほど。しかし蓋を開けてみればダンバート選手の圧勝でしたね』
『そうとは言えないわ。初動で見せた瞬歩、頭部に放った発勁、どちらもケンシン流の奥義とされている技よ。全力でなければ負ける強敵と判断していたのでしょうね』
『ケンシン流の奥義を使えるなんてすごい!さすがダンバート選手!!』
『私が言いたかったのはそこじゃないのだけど、…まぁいいわ、次から二回戦ね』
『はい!まだまだ大会も中盤!!観客の皆さん興奮しすぎて倒れないように気をつけてください!』
『あなたもね』
実況と解説のやり取りを聞きながら通路で観戦していたヨコヅナに、控え室へと戻るダンバートが近づいてきた。
ケンシン流の仲間を倒しているため、目の敵にしているかと思ったが、
「決勝まで上がってこいよ」
楽しみにしているといった顔で、ヨコヅナの肩をポンと叩き通り過ぎていった。
恨まれてはいないようだが、その言葉を聞いて苦い顔をするヨコヅナ。
「……なんでみんな、勝手にオラに期待するだかな」
「わははっ、人気者じゃな」




