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次に戦う相手の試合じゃが…


「ちっ、ケンシン流の恥さらしが」


 担架で運ばれるセガルドを見て、そう吐き捨てるセコンドを務めていた一人ソニード。


「奴は三拳士の中で最弱、所詮はでかいだけで勝ち上がってきた男だ。あの田舎モンには二回戦で俺が本物のケンシン流を教えてやる!」

「まずは一回戦に集中しろ、セガルドの二の舞になるぞ」


 セコンドだったもう一人ダンバートが諭す。


「…わかっている。俺の相手も無名だが、不気味さは田舎モンの比じゃないからな」


 ソニードは予選決勝で見た一回戦の相手を思い出す。


「ソニード選手まもなく入場の時間です」

「わかった」


 係員の声を受け、ソニード達は通路へ進む。




「続いて東方より登場するのは、速きこと風の如しとはまさにこの男!ケンシン流三拳士の二人目!ソ ニ ー ド~!!!」


 ソニードが入場した時には対戦相手はもう闘技台に立っていた。

 身長はさほどでもないが、はち切れんばかりの筋肉が目立つ。肌が異様に黒く血走ったような赤い目の男だ。


『早くもケンシン流の二人目ですね、対するは無所属だが屈強な肉体のヂャバラ選手。姫様はどう見ますかこの試合』

『…ソニードは速さと技を合わせ持ち、予選もほぼ無傷で勝ち上がっきてる、逆にヂャバラの闘いは多く攻撃を受けながらも丈夫さと怪力で勝ってきているわ。…ソニードが有利のように思えるけれど』

『けれど?』

『不気味…と言うより不自然と言うべきかしら』


 コフィーリアが言う不自然とはヂャバラの筋肉の付き方にあった。

 鍛えれば筋肉は大きくなるが、格闘には格闘の、肉体労働には肉体労働の筋肉の付き方というものがあるが、ヂャバラはどのタイプにも当てはまらず、どのように鍛えたのか分からない不自然な姿であった。


『…まぁ、見た目の感想は置いておくとして。解説としては離れて戦えばソニード、掴まえればヂャバラと言ったのところね』

『なるぼど!戦い方がまるで違う二人の試合!どのような展開になるのか!?まもなく開始の合図です。』




 開始線で睨み合うヂャバラとソニードの間で審判の手が振り下ろされる。


「はじめ!」『ドドンッ!!』


「があぁぁぁああ!!」


 合図と同時にヂャバラが獣の如き咆哮を発しながらソニードに向かって走り出し、腕を大きく振りかぶって殴りかかる。

 小刻みに連続した打撃音がなる。

 ヂャバラの拳が当たったわけではない。

 ソニードは振り下ろされた拳を難なくかわし、体勢が崩れた隙に連撃を繰り出したのだ。

 ヂャバラは攻撃をくらいながらも組み付こうとするが、すでにソニードは距離をとっていた。


『お~っと!開始と同時に殴りに行ったヂャバラ選手ですが、ソニード選手素速い動きでかわし連続攻撃、前評判通り目にも止まらぬ速業です!!』

『ヂャバラは動きはほとんど素人ね』


「うがあぁぁぁ!!」


 またもヂャバラは吠えながら突撃し攻撃を繰り出すが、


「そんなのろい攻撃じゃ俺には当たらねぇよ」


 ソニードは攻撃をかわしカウンターで鳩尾へ先ほどより強く突きを出す。


「っ!?」


 まるで効いていないかのように掴みにくる手を掻い潜って距離をとる。


「…硬ぇな」


 突いたときの拳の感触が人と思えない硬さに驚く、だが冷静に対抗策を考えるソニード。鍛えた筋肉に守られているなら、


「鍛えられないところを殴るまでだ」


 そこからの攻防はほぼ同じ事の繰り返しであった。

 ヂャバラが突撃し、ソニードが攻撃をかわしつつカウンター、そして距離をとる。

 変わったのはソニードの攻撃が頭部、正確には眉間、こめかみ、顎に集中していることだ。

 眉間、こめかみ、顎は鍛えられない急所、そこを攻めればどんな頑丈な奴でも倒せる。

 頑丈な相手を攻めるには定石だが


「くっ! タフな野郎だ」


 何度繰り返してもヂャバラを倒すことが出来ない。


『ヂャバラ選手どれだけ殴られても倒れない!ほんと頑丈ですね』

『頑丈なのもそうだけど、ソニードが掴まるのを警戒して踏み込みが半歩甘いわ』


 ソニード自身もそれは分かっていた、常人相手であれば十分な威力であっても、ヂャバラを倒すには至らない。


『このまま試合が長引き過ぎると』

『判定もあり得るわね』


 この大会では判定での決着も存在していた、明確に試合時間が決まっているわけではないが、経過した時間と内容で考慮して審判が試合を止める。

 本来はお互いに負けたくない気持ちが出すぎて泥仕合を長々やる者達への処置だが、本選では判定の決定権はコヒィーリアに一任されている。


 ソニードはこのまま判定になっても勝てる自身はある、当然だソニードは無傷で、ヂャバラの顔は腫れ上がっているのだから。


 しかし、判定決着はソニードの望む勝ち方ではなかった。

 セガルドのつけたケンシン流の汚名を払拭しなくてはいけないし、このままでは自分の拳が弱いと周知される。

 それは許せない。


「ぜってぇ倒してやる」


 倒すまでには至らないがダメージは確かにある、不死身の化物ではないのだから。


「があぁぁぁああ!!」


 今までと同じように突撃してくるヂャバラ。

 ソニードはこれまでの攻防でヂャバラの間合いはほぼ完全に掴んでいた。

 大振りされた拳を半身になって反らし、そこから相手に背中を向けるようして半回転、遠心力をのせて強烈な肘打ちを繰り出す。


「はぁッ!!」


 肘は的確にヂャバラのこめかみにヒットした。

 ヂャバラの膝がカグッと落ちる。


 勝った!その不確かな確信がソニードの足を止めさせた。


「なッ!?」


 ヂャバラが崩れながらも、ソニードの腰に組み付いたのだ。


「このヤロぉ!」


 慌てて肘を打ち付けるも、ヂャバラの筋肉で覆われた背中では効果が薄い。


「うがあぁぁあ!!」


 ヂャバラは吠えると同時に引っこ抜くようにソニードを持ち上げ、凄まじい勢いで床に叩きつける。


「ぐはっ!」


 闘技台は石造り、投げの威力は絶大だ。

 激しい衝撃で動けなくなるソニード、その隙を逃さずヂャバラは馬乗りになる。


「があぁぁぁああ!!」


 獣のような咆哮が闘技場にこだまする。


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