結果は変わらぬよ
ヨコヅナが姿を表すと会場の観客達がザワつく。
ニーコ村は王都から遠く離れているため、ヨコヅナのことを知っているのは予選決勝を見てた者だけ。
さまざまな噂は飛び交っているおり、推薦選手ではあるが声援も少なく、期待はされていない。
実際に非公式試合賭博での倍率は高くなっていた、相手が名の知らた格闘流派の選手なのが理由でもあった。
『続いて東方より登場するのは、ケンシン流の三拳士が一人、重戦車のごとき圧倒的なパワーで勝ち上がってきた、セ ガ ル ド~!!!』
東側の入口から表れたのはヨコヅナに勝るとも劣らない体格をしており、ケンシン流と書かれた白を基調とした服を着た短髪の男。
その後ろに同じデザインの服を着た男が二人付き添っていた。
セコンドで選手でもある同じケンシン流の二人だ。
「落ち着いていけ、セガルド」
「ケンシン流の力、見せてやれ!」
「わぁってる、俺があんな素人に負けるかよ!」
予選決勝での戦いぶりを見ていたセガルドは、ヨコヅナを身体がでかいだけの素人だと考えていた。
「油断するな、何か奴は不気味だ」
「心配性だな、てめえは俺との決勝だけ心配しとけ」
「はっ、それはないぜ2回戦で俺と当たるからな」
「ああ、2回戦でぶっ飛ばしてやるぜ」
ヨコヅナの事など眼中になく、すでに次の試合のことを考えている。
そうなっても仕方がない要因はあった、ヨコヅナの態度は誰が見ても田舎者で大会などに慣れておらず、予選も初めは緊張で動けなくて攻撃を喰らい、力任せに振った手がたまたまタイミングよく顎に当たって倒したと思う者も多い。
今もオドオドした態度で闘技台に立っている。
「それじゃ、さっさと終らせるとするか」
ヨコヅナとは対象的に堂々とした態度で闘技台に上がっていくセガルド。
『さぁ、両者揃いました! 出場者の中でも大柄な二人、迫力ある試合が繰り広げられそうですね!姫様はこの試合どう予想されますか?』
『そうね。…情報のほとんど無いヨコヅナがどのような戦い方をするのかが見物ね。予選決勝では一撃で相手を失神させ勝利したそうよ』
『一撃ですか!?』
『ええ、ヨコヅナがただの力自慢であればセガルド有利かしら。ケンシン流は多く広まっているだけに地力があるわ』
「なるほど。大方はセガルド有利との予想ですか、面白い試合になりそうです!!では審判の説明も終わったようですし、間もなく第1試合開始です」
審判から予選と同様の説明をされ、両選手が開始線につく。
そして審判の手が振り下ろされる。
「はじめ!」『ドドンッ!!』
声と共に太鼓を叩く音がなる。
『さぁ、始まりました!いったいどのよう…おっとなんだ!?』
実況のステイシーが声を止めたのは、ヨコヅナの行動にあった。
股を広げて腰をおろし、そこから片足を高々と上げ、力強く地面を踏みつける。
カルレインからいつも通りと助言を受けたヨコヅナはまず四股を踏んだのだ。
大地を揺らすような轟音が会場に響き渡る。
『ヨコヅナ選手開始早々、大きく足を上げて床を踏みつけた!これは挑発的な行為でしょうか?』
『……どうかしら?そのわりに洗練された動きに見えたわ』
そして腰の低い状態から前傾姿勢になり床に拳をつける。
その姿はまるで、
「蛙のような体勢になりましたね。…構え、でしょうか?」
「…そうでしょうね」
ヨコヅナの見たこともない行動や構えに、実況も疑問の言葉しかでない。
「ぷはは、なんだありゃ」
「蛙の構えってなんだよ!」
「真面目にやれ!!」
観客からは失笑や野次が飛ばされる。
「あんな構えから何が出来んだ?」
「…あるとすれば」
ヨコヅナの構えの意図に気づく者は少ない。
「遊んでんならこっちからいくぜ!」
『セガルド選手前にでた!』
ヨコヅナの行動がパフォーマンスと考え一気に前に出るセガルド。
「不用意に突っ込むな!」
セコンドから声が飛ぶも止まらない。
迫ってくるセガルドを構えのまま待ち受けるヨコヅナ。
「ぶっ飛べやぁ!!」
蹴りを放とうと強く踏み込む。
闘技場に響く激しい衝突音と共に、巨体が宙をまう。
『ぶっ飛んだぁー!!?』
『セガルドが、ね』
ほぼ中央から闘技台際まで飛んだセガルド。
その信じられない光景に観客も息を飲む。
今は立った状態になっているヨコヅナ、倒れているセガルドに追い打ちをかける様子はない。
審判がセガルドに詰め寄る。
『いったい何が起こった!!?』
『あら、実況なのに見てなかったの』
『い、いえ、見ていたのですが、ヨコヅナ選手の動きが速くて』
『そうね。あの体格からは想像出来ないほどの速さだったわ』
『ぶつかりにいったようにしか、体当たりでしょうか?』
『間違ってはいないわ。相手にあたっていたのは額だけだから全体重を乗せた頭突きとも言えるわね』
『初撃で頭突きですか!?』
『ええ、ほんと面白いわね……次も楽しみだわ』
闘技台ではセガルドの様子を見た審判が、両腕を頭上で交差させている。
『審判が試合続行不能の合図をだした!!早くも勝敗が決しましたぁ!!』
「勝者ヨコヅナ!!」
ヨコヅナの腕を持ち上げて勝利者宣言がされる。
『一回戦第一試合!勝者は大方の予想を覆しヨコヅナ選手だ!!まさかの瞬殺劇!誰がこんな結果を想像したでしょう!?』
『予想してたとしたら、あのセコンドとケオネスぐらいかしら』
その頃カルレインは「わははっ!当然の結果じゃ」と笑い、ケオネスは「も、もちろん!そ、想定通りだとも!」と周りに無理矢理作ったドヤ顔で言い放っていた。
『姫様、今の試合どう観られました?』
『短い試合だったけど解説点は多いわ』
『あの蛙のような構えとかですか?』
『そうね、一見動きづらく闘いに不適切な構えに見えるけれど、体重を乗せた突進力ある一撃を繰り出すためと考えれば理に適っているわ』
『なるほど!今まで見たことはなかったですが、闘いにおいて有効な構えということですか』
『そんなことはないわ』
『え!?』
『他の者が真似をしても無駄よ。毎日あの構えから攻撃する鍛錬を積まなければ、初めに言ったようにただ動きづらい構えでしかないわ』
コフィーリアにとっては異質な構えや巨体を弾き飛ばす威力にではなく、そこに視える積み重ねられた鍛練にこそ瞠目に値した。
『あの速さに加え、相手との間合いの絶妙な見切り、…何らかの格闘技なのでしょうね』
『姫様も知らない格闘技ですか!?』
『ええ、ケオネスも面白いの人材を見つけて来てくれたわ』
『正体不明の格闘技ですか!次からのヨコヅナ選手の試合も楽しみですね!!』
『本当にね。……もうひとつ、さきの試合の事で言っておくと』
『何でしょう?』
『セガルドの油断よ。ヨコヅナを格下と決めつけ、異質な構えに無策に飛び込んだ。その時点で勝負は決していたと言えるわ』
『…油断がなければ結果は変わっていたと?』
『そこまでは言わないわ。だた相手が無名だからと言って格下と侮ってはいけない。と、これから闘う選手達に伝えたかっただけよ』
『そうですね。選手のみなさ~ん!油断せず頑張って下さい!!では間もなく一回戦第二試合が始まります!』




