ピリピリしとるぞ
「守る為…だべか」
ヨコヅナとしてもオリアを守る為なら協力したいところではあるが、ヨコヅナはそんなに暇ではない、勝手に決めてはラビスに何を言われるか分かったものではない。
どうしたものかとヨコヅナが悩んでいると、
「お待たせ」
「お茶入れ直して来たっす」
オリアとエフが戻ってきた。
「美味しく入れれたかい?」
「バッチりっす」
「エフは見てただけでしょ。はいヨコ」
「ありがとうだべ、オリア姉」
「二人で何話してたの?」
短い時間とはいえ、知らない場所で今日会ったばかりのデルファと二人っきりは、気まずい空間だったのではと今更思い至ったオリア。
「ボーヤをうちに誘ってたところだよ」
「え!?、ちょっと、そんな大事な話、私がいない時に進めないでよ!」
「ヨコやん入るっすか!」
デルファの言葉を聞いて二人が騒ぎ出した時、応接室の扉がノックもなく開かれる。
「入るぜ」
「デルファ戻ったわ」
返事も聞かず、応接室に入ってくる男女。
パンチパーマの体格の良い男と、その男と腕を組んでいる、ピンク色の髪をした扇情的な格好の美女。
男には混血の証は見られないが、女には細くて黒い尻尾が生えていた。
「エチギルド、アイリィ、客がいるから後にしな」
「客ぅ?」
エチギルドと呼ばれた男がヨコヅナを睨みつけるように見る。
「そんなの後にしとけよ、こっちは重要な話だぜ。おい、入んな」
エチギルドの呼びかけに更に二人の男が応接室に入ってくる。
「……誰だい?」
「へへっ、俺の舎弟みてぇなもんだ。ゴロツキに襲われたと聞いてな。マ人の戦力がもっといるだろ。まずは二人だけだが俺が本気で声をかけりゃ、もっと集めれるぜ。まぁ条件次第ではあるがな」
エチギルドは先ほどまでデルファとヨコヅナが話していた、ロード会が金で雇っている強いマ人の協力者といった存在だ。
そして、今は話してるのは「もっとマ人の戦力を集めてやるから仲介料をよこせ」という提案だ。
「オリアも危ないところだったんだってな~、戦力が増えりゃお前も俺が直々に守ってやるぜ、へへっ」
エチギルドは下品に笑いながらオリアの肩を抱こうとするが、
「必要ない」
オリアは冷たく言い捨てて、エチギルドの腕を避けて距離を取る。
「戦力ねェ…、使えそうには見えないがね」
「弱そうっす」
「何だとゴラァ、混じりがナマ言ってんじゃねえぞ!」
デルファとエフの歯に衣着せぬ物言いに、怒鳴る舎弟①。それも『混じり』呼ばわりしたため、空気がピリつく。
「あーしが使えるかどうか試してやるっす」
「ワテは混じりの女に容赦なんてせぇへんぞ」
爪を見せて威嚇するエフに、懐に入れているナイフを抜こうとする舎弟②。
「おっと、待てよ。こいつらはマ人に対する戦力だ。混血の相手して怪我されちゃかなわねぇぜ。お前らも雇用先の相手に蔑称使ってんじゃねえよ」
「「すいやせん」」
間に入って仲裁するエチギルド。
「雇うなんて決まってないっす」
「こんな奴ら雇う必要なんてないよデルファ」
『混じり』の言葉でオリアも怒りを顕にしている。
「そう怒んなよ。それに戦えないオリアが意見出来る事じゃねぇ。お前みたいに弱い混血を守るために、他の派閥と繋がりがない戦力を金で雇う。当たり前だろ」
「くっ」
悔しいがエチギルドの言っている事自体は間違ってはいない。
「それともお前が戦力を用意出来んのか?」
「それは……」
「ちょうど今、オリアに紹介してもらってたところさ」
オリアが何か言う前にデルファが答える。
「このボーヤはオリアの弟分でね。戦力として雇う話をしてたところなのさ」
「ズズズっ……ん?オラのことだべか」
一人呑気にお茶を飲んで「良い葉って言ってたから、ちゃんと入れたら美味しいだな」とか考えてたヨコヅナ。
「おいおいこんなデブのガキをかよ、目が四つもあるのに全部節穴か」
「私の目が節穴なのを証明出来たら、あんたの提案を言い値で飲んでやるよ」
「……へへっ、イイじぇねえか、もう取り消せねぇぜ」
「反故になんてしないさ。…さてどうしようかね。採用試験として、あんたの舎弟とボーヤに素手ゴロでもしてもらうのが手っ取り早いんだけどねぇ」
そもそもヨコヅナは雇われることを了承してはいないのだが、勝手に話が進んでいく。
「そんなの駄目よ!デルファ」
デルファの提案に反対の声を上げたのはオリアだ。
「何でだい?オリアも自慢してたじゃないか、闘技大会で準優勝した『ニーコ村の怪物』だとか」
「それとこれとは話が別よ。ヨコは喧嘩しか能の無いこいつらとは違うの。商売でしっかり稼げてるのよ」
「商売で?……なるほどね、そういう事かい」
「ああ?何意味分かんねえ事、」
「ちょっと待ってエチギルド」
言葉を遮ったのは、これまでエチギルドの隣で傍観するだけだったアイリィだ。
「……彼が作ったって言うのオリア?あの清髪剤を」
「ええ、そうよ」
信じられないといった顔するアイリィ。
オリアから、清髪剤にはニーコ村にある植物が使われていて、最近王都に引っ越してきた弟分が作った品だと言う話は聞いていた。
しかし、ヨコヅナの見た目からは女性に大人気の美容商品を作れるとは想像も出来ない。
デルファも同様だが、「商売で稼いでいる」と聞くまで清髪剤と結びつけれなかったのだ。
アイリィはロード会のメンバーの一人で遊館を任されている経営面でのデルファの片腕のような人物だ。
職業柄、常に美を意識しているだけに、この中で一番清髪剤の価値が分かっていると言える。
「清髪剤?余計なことで話をそらしてんじゃねぇよ。…要は戦うのが本職じゃないから、腕っ節に自信がねぇてことだろ」
「馬鹿言わないで。ヨコが本気を出せばあんた何かよりずっと強いわよ」
「ほぉ~、だったら本気出してもらおうか。俺が直々に相手してやるよ」
「そんな事をする必要が無いって言ってんのよ!」
オリアとしてはヨコヅナにロード会に入って欲しいとは思ってなかった、事務所まで案内して全て説明したのは、関わらないで欲しいと言いたかったからだ。
「でも、それはオリアが決めることないんじゃないかい。どうだいボーヤ?」
そこでようやくヨコヅナに意見を聞かれる、本来一番最初に聞くべきではないのかと思いもするヨコヅナだが、
「手合わせはここですぐ出来るだが?」
「…力を見せてくれるってこと良いんだね」
「逆だべ」
デルファの言葉に首を横に振るヨコヅナ。
「オラが見てやるだよ、オリア姉を守れる力があるかどうか」
「…ふふふっ、隣に広い部屋がある、すぐに始めようかね」




