第一章 02-05
「ちょっとーお父さん、キタナイ!
だ・か・ら、お兄ちゃんどこ行ったの?
旅行だったらかわいい妹たちのためにお土産や葉書送ってきそうでしょ。
遠足や修学旅行でもちゃんとみんなの分買ってきてくれたし。」
と三女。
「私もね、気になっていたの。だってもう3ヶ月もたつのに連絡無しなんでしょ。
欧州に留学しているってお父さんは言っていたよね。
確かに英語は堪能だったけど、他の言葉どうなんだろう。病気とか大丈夫なのかな。」
と長女。
「欧州ってことはヨーロッパでしょ。お兄ちゃんロースト深い豆嫌いだよ。
絶対エスプレッソ苦手だよ。薄めて飲んでいるのかな。
コーヒー豆としょうゆ送りたいから住所教えてよ。」
と次女。
三人の娘たちに総攻撃されて、父親はしばし絶句した。みんなの目は真剣でごまかされないぞという意気込みが感じられる。父の伊達眼鏡の中の瞳がふらふらと宙をさまよっている。
「んー今どこって言っていたかな。確かイギリスあたりだと思うけど。」
「イギリスのどこよ。だいたいなぜ親が行き先把握してないのよ。」
「えっと、スコットランドの方かな。」
「ちょっとーそれ寒いとこじゃない。風邪ひいちゃうよ、肺炎なっちゃうよ。」
「アイツは丈夫だから大丈夫だよ。」
「お芋と豆ばっかりだよ、絶対食べ物苦労しているよ。住所どこ。」
「えっと、どこだっけな。前聞いたんだけどな。」
「え?連絡取れているの、電話できるの。話したいよ。」
「いやぁ昼夜逆だし...。今は無理だろ、それより学校の時間だぞ。車乗れ。」