第一章 03-05
「私は転送したり交信したりすることはできるが、私自身を転送することはできない。
異世界での魔物の動きはこちらで事前に予測することは可能で、指示を出すことができる。少し聞こえたかもしれないが、次は敵が二手に分かれているのであいつも少し苦戦するかもしれない。ただ、異世界に行くと、現実世界の今の状態とは比べ物にならないくらい体力や技術力等がパワーアップする。怪我などの治癒速度も極端に早いし、なんといっても魔法が使える。また一段落したら交信するので、そのときにはお前たちもこの場に呼ぶとしよう。」
「そんな悠長なこと言ってていいの?」
長女のコヤネが大きな声で切り出した。
「一人で未知の世界で戦っているのよ。それもへんな怪獣みたいなのと。」
続いて三女のマヤが叫ぶ。
「ユウ兄ちゃん、すごく怪我してたよ。魔法かなんかで治るっていっても絶対痛いよ。」
二女のウズメが言った。
「本当に大丈夫なの?絶対に死なない?こっちに戻ってこれる?」
確かに、絶対死なないという保証はない。父親自信も理解できていない部分がいまだに多いのである。この使命はどのような終焉になるのか、いつ息子が帰ってこれるのか。助ける手立てはないのか。
父親は言葉に詰まり、普段は吸わない煙草に火をつけ、口に運びかけた瞬間にコヤネがテーブルをバンッとたたいて立ち上がった。
「私を転送して。手伝ってくる。」
「私も!怪獣やっつける。」
「私は怪我の手当てをするわ。」
3人が口々に言い、父に詰め寄った。
手にした煙草を口にせず、そのまま灰皿に押し付けて火を消し、父親はしばらくうつむいて目を閉じた。
窓からの月明かりが少し雲にさえぎられ、冷たくなった夜風は書斎机の上のメモ帳をぱらぱらとめくった。沈黙の中に時計の秒針の音が大きく聞こえる。
ちょうど秒針が一周した後、父は目を開けて3人を順番にしっかりと見つめた。
「よし、わかった。」
父は立ち上がり、窓の前に立ち雲をかぶった月を見た。




