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呪われた子どもと葛藤

「第一王子殿下ですか。噂にはきいてますよ」

 夕暮れ時。アマーリエの私室には窓から茜色の夕陽が影を伸ばしていた。

 フェリクスは紅茶を飲みながら答える。なんでも、とそこで声をひそめた。

「呪われた王子だとか……」

「呪われた?」

 フェリクスは手元の紅茶に視線を落としたまま、匙でカップの縁を小さく叩いた。カチ、カチと規則的な音が、静まり返った私室に冷たく響く。

「そういう噂です。実際に見たわけじゃない。見れば発狂し、触れば病に倒れるという……まあ、皆、面白がって噂しているだけですよ。一体、どうしたんです?」

「実は――」

 アマーリエは昼間の出来事をフェリクスに話した。フェリクスはソーサーにティーカップを置いて真剣な顔をした。

「まさかと思いますけど、姉さま。お城に上がろうなどど考えてはおられないでしょうね?」

「まさか……」

「賢明です。姉さまにはクラウスさまを育てる責任と、ご自身の子どもを産む責任があるんです。いかに王家であろうとも、よその子どもにかかわっている場合ではありません」

「そう……そうよね。だけど気になるの」

「そんな時間があるのならエルヴィスさまとの時間に当ててください。子どもはまだですか、父さまが首を長くして待ってますよ!」

「こればかりは神さまの思し召しなのだから仕方ないでしょう! デリカシーがないわね!」

「姉さまに呪われた王子に時間を割いている暇はありません。エルヴィスさまと絆を深くして1日でも早く子どもを産むことが姉さまの役目です」

「わかってるわよ……」

 そう言いながらも、アマーリエは気にかかるのだ。呪われた隠された王子が――。


 寝室では、銀の月明かりがシーツを白く照らしていた。

「エルヴィスさま。私、フィリップ殿下にお会いしてみようかと思うのですが……」

 そう言うと、エルヴィスのアマーリエの亜麻色の髪を撫でる手が止まった。時刻は夜中を過ぎている。夫婦の寝室でふたりで横になり向き合っていた。

 エルヴィスは首を振る。

「お会いしてもどうにもなるものではない。いくら君が子どもの面倒を見慣れていると言っても無理だ」

「そんな……」

「クラウスやユリウス殿下とは違う。それに1度会ってどうする? 君の心が蝕まれでもしたら?」

「そんな言い方……」

「君が優しいのはわかる。けれどその優しさを履き違えないで欲しい。君が愛情を与える子どもはクラウスと、これから生まれてくる子どもだ」

 もっともすぎて答えに詰まる。エルヴィスは体を反転させると、そっとアマーリエに囁いた。

「アマーリエ、愛しているよ」

「私もです。エルヴィスさま」

 アマーリエは、エルヴィスの背に震える指を回した。

 重なる肌の熱を感じるほどに、冷たい石の床で震えているだろう幼子の肌を思ってしまう。

 「呪い」を恐れる理性より、「ただの一度も抱きしめられたことのない子ども」が頭を過る。

 アマーリエの心からその子どもの影は離れなかった。



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― 新着の感想 ―
これ30と内容一緒だけど話抜けてるの?
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