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月光と甘い苦味のハーブティー

「弟君とはたくさん話しをできたかい?」

 エルヴィスに尋ねられて、アマーリエは微笑んだ。実家から取り寄せたハーブティーを片手に夫婦の寝室のソファで談笑している。クラウスはぐずりながらももう眠ってしまった。

 ハーブティーの香りが優しく室内に広がる。

 月明かりが窓から差し込んで、明かりがなくても仄かに辺りを照らしていた。

「ええ。ありがとうございます。援助して下さったおかげで、実家の皆も元気だそうです」

「それは良かった。何よりだ」

「エルヴィスさまのおかげです。本当にありがとうございます」

 アマーリエは心からそう言って頭を下げた。豊かな髪がさらりと肩から落ちる。

 本当に明日の食事も事欠くほどだったのだ。エルヴィスにはどれほど感謝してもしきれない。

「いや、私の方こそ感謝しているんだ」

 エルヴィスはそう言ってハーブティーを一口飲んだ。そして瞳を伏せる。

 あの時、どん底の淵で彼女を「乳母」として買い叩いたのは自分だ。没落寸前の貴族の弱みにつけ込み、契約という鎖で繋ぎ止めた。それなのに彼女は自分を許し、凍てついたこの屋敷に温もりを灯してくれている。

「あの時、君と会わなかったら、私は本当に最悪な選択をしていたかもしれない。本当に感謝している」

「エルヴィスさまは追い詰められていっぱいいっぱいだったのですから、仕方ないですよ。反省なさって、ちゃんと改善もなさっています。それで良かったじゃないですか」

「それは、君のおかげだ……」

 アマーリエが夜眠る時間も、仕事をする時間も、こうして息抜きする時間も作ってくれている。アマーリエの言葉は裏表がなくてはっきりしていて、真っすぐ自分に届く。彼女の言う通りにすれば、気負いなく過ごせることにエルヴィスは驚いていた。

 乳母になって欲しいと最初に言ってしまった。その後で結婚して欲しいとは言ったが、クラウスと夜一緒に寝ていることもあって、未だになにもなく清い関係だ。

 そのくせ、クラウスのことや自分のことに気を配ってくれている。これはずるいのではないかと、自分でも思っていた。

 アマーリエをちらりと見る。ハーブティーを飲んでいた彼女は、目が合うと微笑んだ。月光が彼女を淡く照らしている。裏表なくはっきりしている性格は、令嬢らしくないのかもしれないが、エルヴィスには好ましく思えた。

 アンゼルムにも言葉にしなくては伝わらないと言われた。それはわかっている。わかってはいるのだが、アマーリエを前にすると、まるで少年のように言葉がなぜか出てこない。

「さあ、そろそろ寝ますか?」

「あ、いや。ハーブティーをもう一杯もらえるだろうか」

「良いですよ。エルヴィスさまもおかしな方ですね。自家製のハーブティーより紅茶の方が美味しいのに」

「そんなことはない」

 エルヴィスはアマーリエの瞳を真っ直ぐに見つめて言う。

 そんなことはない、君が淹れてくれることに意味がある。君が淹れてくれたハーブティーはなによりも美味しい、と口に出しかけた時に、クラウスの起きた声がした。

「あらあら。クラウスさま、寝ぼけているのかしら」

 アマーリエはそう楽しそうに言うと、ソファから立ち上がって寝台の方へ歩いていってしまった。

 エルヴィスは出せなかった言葉を噛み締めながら、そっと指を組み項垂れると自分だけに聞こえるため息をついたのだった。

 

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