↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/21

じゅうはち。

修正いたしました。29.3.5

 世の中には重い病を患い生きたくても生きられない生を背負っている人がいる事を知っている。


 けど、私はその人たちの事なんて関係ないと言わんばかりに容易く『死』を選んだ。


 とても母を愛していると微笑む父と、父の想い出しか知らない綺麗な母を穢れさせないため――私のあの時、どうしても死ぬことしか自分と両親を守れないと思った……そう、アーリは呟く。


 代わり映えもなく大学も女性に囲まれながら日々を過ごしていた。それは何時までも変わることがなく、ふと恋はいつすればいいのだろうとぼんやり男前な友人と笑いながら話していた時だっただろう。


 友人と別れた帰り道、息苦しさに意識を手放してしまった。後からあれは眠らされたのだろうと憶測する。


 目覚めたら少し狭い部屋にいた。その部屋はとても気持ち悪い部屋で恐怖する。


 なぜなら隠し撮りしたとしか思えないアングルの写真が壁にところ狭しとアーリの写真が張ってあったのだから。


 知らない服を着たアーリも映っていたがこんなに張られていては細かい事など考えられない。



「今なら分かります。知らない服を着ていた私は、母だったんです」

「そんなに似ていたのか?」

「私を生んで母は亡くなったので、私には分かりません。けど、父が言うんです。母の若い頃にそっくりだ、と」



 その部屋は他にもなぜかアーリが使っていた種類の物などが置かれていた。知らないものまであったがアーリが無くしたと思っていたお気に入りの髪飾りを見つけた時、あの男が現れて理解する。


 それがなぜかこの部屋にあるのか。嬉しそうに己の行いを語る男に寒気がした。すべてがアーリに関連している事柄で……行動を把握されている――と分かるから余計に気持ち悪い。


 最初はそれだけで死のうとは思わなかった。生理的に受け付けないものはあったが、死んで終わらせようとは思えなかったのだ。


 しかし……縛られたわけではなかったが薄暗い中完全に閉ざされた部屋は日に日に怖くなる。


 会えるのはアーリを監禁した男だけ。開く扉の奥はいつも真っ暗で先が見えない。


 毎日かかさず「愛しているよ」「僕の光里さん」と母の名を呼ぶ。ねっとりと甘い囁きはとくに鳥肌もので近づいてくる男を何度突き飛ばしたことか。


 やって来る男は不定期で待ち構えて殴り倒す計画は早々に諦めざる終えない。そこまで気を張っていられなかったからだ。


 では昏倒させてその隙に逃げようかと考えるが殴り付けたくても武器はないし押し退けたくても男の体格はがっしりとしていて逃げ出すことは無理だった。


 それに何より……した事がない、された事がない未知の行いが怖かったのだ。


 男は抵抗しないアーリに「照れているんだね」と自分の都合のいいように解釈して追い詰めていった。


 唯一助かったと思うことは――その男が、慎重すぎる男だったからだろう。因みに部屋の鍵は外側に三つ付けてあるからと言う自慢を男から直接聞いている。


 男のポリシーなのか、アーリには分からなかったが男は監禁しておいて無理矢理や怒る事はしなかった。だからアーリは綺麗なままこちらに来られた。


 じわりじわりと恐怖と絶望を植え付け支配しようとする男。父はどうしているのだろうと聞きたくても、やんわりと話を反らされてアーリが求める答えは何も返ってこない。


 突っぱねながら唯一外の世界がわかる男は全く取り合ってくれない――そんなジレンマが二ヶ月を過ぎた頃だろうか。男が律儀にもこう言ったのだ。



『そろそろ結婚しようか。だから光里さんはあいつと離婚してくれるよね?そうだ。あいつと離婚するために子どもを作って見せてやろう。そうしたらあいつは光里さんと離婚せざる終えないよね』



 そんな訳がないだろう。喉に突っかかった言葉が息を止めさせる。



『だから、今日から子作りしなくちゃね。絶対にあいつを諦めさせよう。俺たちはこんなにも愛し合っているんだから』



 ムードが必要だよね、と男は夜から始めようと言ってきた。これが怖くないなんて、言えますか?アーリは力一杯イルグルムの手を握る。


 男として、アーリが握った手はそれほど痛くはなかった。ただ、心は痛みを訴えアーリから視線を反らせずにいた。


 アーリが言う男は相当狂っている奴だったのだろう。好きな女を重ね監禁し、己の欲を強要するなどこの世界でも罪である。


 まるで愛玩動物のように檻を作り身動きを制限し躾のように洗脳していく。最後は子作りに飛躍し関係を結ぼうとするなど完全なる制圧だ。意味が分からない。


 女性としての尊厳を奪い愛し合えるなどたかが知れている。アーリが無事でよかったと、イルグルムは自然に答えた。


 男に心配されるのは父以外で初めてであったアーリは目を真ん丸として真っ直ぐイルグルムを見つめる。


 仮面を外しているのでイルグルムの素顔は無表情に近いと言えど、瞳は語っていた。


 イルグルムが口にしなくても――大丈夫かと窺う、本当に心配している瞳。それはあの男の瞳より綺麗だとアーリは思う。


 最後にアーリは体を差し出すくらいなら死ぬ!と決断して舌を軽く噛み壁を蹴った弾みで床に渾身の飛び込み頭突きをしたらこちらに来たと言った。


 一瞬、イルグルムもミシィも「ん?」と一部分がどうも理解しづらかったがあえて聞き返さなかった。それで死ねるのだろうかとかは考えない。何をやっているのだとも聞き返さない。今はそれどころではないのだ。


 よほど怖かったのだろう――色々と吐き出したおかけでアーリは今まで溜めていた涙をはらはらと溢しドレスにシミを作り出した。声をも殺して堪える。


 そんな表情をされて黙っているなんてイルグルムには出来ないと行動に移す。


 今までの自分ならこんなこと、思いもつかなかっただろう。どうしてアーリといると感情が浮き立ち心がざわめくのだろうか。



「泣くな」



 女とは欲に目が眩んだ醜い生き物だと少しは思っていたイルグルムはその感情をも忘れてアーリの涙を親指の腹で拭う。


 馴れ親しんだミシィや義母に拒絶の思いはほとんどない。しかし他の令嬢となればどこかいいところに、金があるところに嫁ぎたいと思うのが親と子の心情だ。


 幸いにしてイルグルムは禁忌のせいで縁談はほぼなくなり自由に振る舞えている。


 若干一名の令嬢は昔に見合いでひどい醜態を晒したにも関わらず未だにイルグルムと結婚を迫っているがイルグルムは知っている。


 金の亡者と詠われる侯爵の娘ならどこへ嫁いでも良さそうだが、その侯爵家の血縁者はほぼと言っていいほど金、地位、権力が好きだ。


 だからラージェリオス公爵(・・)に関わらず王家(・・)も欲していると。皆が知り得ること。


 今この王家で新たに側妃を迎えられる人物は王太子ただ一人。婚約者は隣国の第二王女。側妃は空席だ。


 この二人は国としての政略的結婚だが、お互いを知りとても仲睦まじく愛し合っているので今のところ側妃を、と言う話は聞かない。


 ましてや、今側妃の話を持ち出すのは両国の協定に大きく反しているので側妃など大問題であり横やりを入れようとする輩は忠義に反するため独房入りだ。


 女がこれほどまで将来の瑞光を欲すると知れば屈強な男だって逃げたくなるだろう。


 しかし、だ。確かに女は~と思えどイルグルムはアーリに対して別の感情が動いていると自覚していた。


 それは未だに分からないものだが、静かに泣くアーリの姿を見てしまったがためイルグルムは一つだけ決心する。



「もう泣かないでくれ。私はアーリ嬢の味方だ」

「……どうして?」

「アーリ嬢には、泣いてほしくない」

「私は、怖い……」

「何が怖い?」

「本当の味方が、分からないの。表面では一緒に楽しく笑っていても、本当は嘲笑っている」

「私は笑えない」

「それは……どうなの?」



 確かに笑えないのはどうだろうか。しかしイルグルム自身もここ最近で笑った事があっただろうかと首を傾げる。


 まず何か楽しいことがあったのだろうかと思い浮かべるが淡々とした日々を送っているので“ 楽しい ”と言う思い出が浮かんで来ない。


 では別に笑っていなくてもいいのではないか?と極論に至るイルグルム――ついにはミシィから介入が入った。



「アーリ様。こちらで涙を拭いてくださいませ。イルグルム、貴方はもう少しアーリ様を包む抱擁力をつけて下さい」

「抱擁力?」

「抱擁力と言うと……」



 さっきのシリアスな雰囲気はどこへやら。一瞬にして話がとんでもない方向に雲散霧消してしまいミシィは己の失敗を呪う。


 こうだろうか、などと言ってイルグルムがアーリを抱き締めるのだがそれはどう言った想いで行動を起こしたのか問い質したいし、アーリはアーリで恥ずかしかったのか頬を真っ赤に染めて抗議しようと顔をあげたらイルグルムの顎に頭突きをしてしまった。


 ここに来てそんなコントのような芸をされるとは思ってもみなかったミシィ。表情はなんとか平静を装って耐える。


 狼狽えるアーリと顎を押さえ痛みに耐えるイルグルム。もう何が何やら……



(いっそそのままキスして恋に目覚めてくれないかしら……)



 近い距離にいるのにも関わらず進展がない二人に恋愛は難しいと思い知るミシィ。


 これをどれから報告すればいいのだと今日も悩み――時間がくるまで二人の手がずっと絡まったままだった事が唯一の奇跡だったとミシィは今日の報告をまとめ始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。