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38度のセントポーリア

「結生ちゃーん、どうしたの?なんか顔色悪いよ?」


とある金曜日の生徒会室で、渚がそう言いながら心配そうに顔を覗き込んでくる。


実は朝から喉が痛い。


(最近、急に寒くなったし、風邪かな)


「いえ、何でもないですよ、平気です」

「本当?あんまり無理しちゃ駄目だよ?」

「はい、ありがとうございます」


(今日は母さんも家に帰ってこないし、帰ったらすぐに寝るか…)





*38度のセントポーリア*





ピピピピッ ピピピピッ


【37.9】


「はあ…やっぱりひどくなっちゃったか…」


その日の夜7時頃。

ふらつく頭を抱えるようにして自宅まで辿り着いた結生は、念のためと挟んでみた体温計に表示された数字を見て深くため息をついた。


「風邪薬…どこにあったっけ…」


今日に限ってあいにく、母は北海道に単身赴任している父に数ヶ月ぶりに一人で会いに行っていて、今日中には、というよりこの土日中には帰ってこない。


(薬…切れちゃってたかな…見当たらないや)


熱はどんどん上がっていっている気がするのに、最悪だ。


かといって、こんなふらっふらの状態で薬局まで走るわけにもいかない。


(なんかもう、どうでもいいや…)


立っていることすらしんどくて、適当にそこらにあった毛布をひっつかんでそれにくるまりながらソファーに横になると、それまであまり気にならなかった頭がドクドクと痛み出した。

それを紛らわすかのように、ソファーに置いてあったクッションに顔を埋めた、そのとき。



ピンポーン



訪ねてきた人物に結生は目を見開いた。


***


「ちょ、本当に大丈夫ですから!」

「ああ!?んなわけねーだろ、いいからおとなしく休んでろ!」

「大丈夫なんですって!とりあえず家あがるのはやめてください!もし誰かに見られたら問題になります!」

「んなこと言ってる場合かあほ!生徒が倒れかけてる緊急事態だ!看病しにあがって何が悪い!」

「だから…!ちょっと、本当に大丈夫…げほっげほっ」


突然の訪問者の正体は他ならぬ敦賀だった。

どうやら、この土日中に仕上げてほしい会計の書類がいきなり見つかってわざわざ家まで訪ねてきた、ということらしい。


玄関先に出てきたふらふらの結生を見て事情を聞き、慌ててそばの薬局まで薬を買いに走ってくれたーーーところまでは良かったのだが。

その後、玄関でこの入る入らないの押し問答が始まったわけである。


「つーかお前具合悪いんだろうが!いいからベッドに寝てろ!」

「先生が帰ってくれたらちゃんと寝ますって…!」

「んなこと言ったって、親もいねえっつうのにこんな高い熱出してんのを放って帰れるわけねえだろうが!」

「とりあえず困ります!俺といたら先生まで風邪、移っちゃうから…」


そこまで言って結生ははっとした。

ーーー言うつもりのなかったことまで言ってしまった。


ぎくしゃくと敦賀を見ると、案の定にやりとした笑みを浮かべている。


「なるほど?そーいうことね」


そうして固まっている結生の後頭部を引き寄せーーー。


チュッ


「これでもう、移るとか関係なくなっただろ?」


目の前の生徒が呆然としているうちに、問答無用で上がり込んだ。



***



ピピピピッ ピピピピッ


【38.2】


「ほら見ろ、あんなにギャーギャー騒ぐからだあほ」

「………」

「とりあえず何か食えるか?薬を飲むなら少しでも腹に入れてからのほうがいい」


そう言って目の前に出されたのは、梅干しの浮かんだお粥。


「…先生が作ったんですか…?」

「ああ、悪りぃが勝手に台所借りたぜ?梅干しはさっき薬局に行った時についでに買ってきた」

「何から何まで、本当にすみません…」


迷惑をかけまいと家にあげないようにしていたのに、結局迷惑どころか看病までさせてしまうなんて、情けない。


「あの…俺、本当にもう大丈夫なんで…あとは薬飲んで寝てればいいだけだし…」

「………」

「…お粥とお薬は、本当にありがとうございました…元気になったら、必ず埋め合わせはしますので」

「お前な」


敦賀はそう深くため息をつくと、呆れたような困ったような笑みを浮かべながら結生の視線に合わせるようにかがみこんだ。


「もう少し、人に甘えることを知れ」

「…もう十分ってほど甘えてるじゃないですか…薬買ってきてもらって、お粥まで作らせて…」

「そうじゃなくて、精神的にだよ」


そう言って、結生の顔を下から覗き込むようにする。


「何でも一人で無理しすぎやがって。…なあ結生、埋め合わせがしたいってなら、何でもいい…何が食いたいとか、何を買ってきてほしいとか、そんなんでいいから、今俺にしてほしいことを全て言え」

「…でも、迷惑じゃ」

「あ、の、さ。お前、俺のこと好きならわかるだろ?俺にとっての一番嬉しい埋め合わせは、お前がもっと俺に甘えてくれることだよ」

「………」

「迷惑?は、笑わせんな、俺はお前と一緒にいれるだけで、嫌なこととか全部吹っ飛んじまうくらい幸せだ」


あまりの直情的な物言いに、結生は顔を真っ赤にしながら視線を逸らした。

ーーーなんでこんなこっぱずかしいことをさらっと言えるんだこの人は…!


ただでさえ熱で顔が熱いというのに。



「えっと…とりあえず、お粥、ご馳走様でした…美味しかったです」

「そりゃよかった。じゃ、薬飲んだらとりあえずさっさと寝ろ。寒くない?掛け布団、もう少し持ってこようか?」

「いえ、大丈夫…」


本質的な意味で、人に甘えるのは苦手だった。

甘えても受け入れてもらえる自信がなかったし、何より人に甘えてはいけないというような認識がなぜか小さい頃から心のどこかにあったから。


でも。


(熱が出ると人が恋しくなるって、本当だったんだな…)


人といっても、正確には敦賀が、だけど。


「そうか。なら、ゆっくり休め」


この甘えは、きっと熱のせいだから。


だから、今日だけは特別に。



パシッ



「……?」

「埋め合わせ…させてくれますか…?」


お粥ののったお盆をさげようと立ち上がった敦賀の腕をベッドの中から反射的に掴んだ結生は、驚いたように振り返る敦賀に掠れた声で言った。


「もう少しだけ…そばにいてください…」


恥ずかしくて顔は合わせられなかったけれど、少しの間の後、敦賀がふっと微笑んだのが気配でわかる。


「ああ、お前が望むならいつまでも」



END

12121キリ番、花様からのリクエスト「結生をぐでぐでに甘やかす先生と甘える結生」でした。


なんか大分リクエストと違ったものが出来上がってしまったような気が…。こんなのでよろしかったでしょうか…?花様本当に申し訳ありません!


私の中で結生はかなりの甘え下手設定なので、それを甘えさせようとすると…となると、定番の風邪ネタしか出てこなかった…(T_T)


ちなみにセントポーリアの花言葉は「小さな愛」で、今回のタイトルは「38度の小さな愛」…まあつまり結生の小さな甘えを意味したかったのですが…わけわかりませんね、すみません(>_<)


こんな小説ですが、お持ち帰りは花様のみフリーとさせていただきます。


ありがとうございました!

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