第9章 英雄と死神
ルーナがペガサスに帰ってきた。
「ただいま」
「ルーナ!遅いではないか!」
カーメーがルーナに怒鳴った。
「まあまあ、師匠。ルーナちゃんだってもう大人だよ」
「うるさい!」
「お爺様、私、あの人とお付き合いすることにしたわ」
「なんじゃと!」
「あの人には私が必要なんです」
「騙されておるんじゃ!ま、まさかと思うが、お前あいつと寝たんじゃないだろうな?」
「私はもう子供じゃありません」
「なんてことじゃ…」
「お爺様どうか、私たちの仲を認めてください」
「師匠!」
「まったく最近の若者は…」
「お願いします」
ルーナはカーメーに土下座をして頼んだ。
カーメーの顔は怒りから悲しい顔に変った。
「そうか…分かった。交際を認めよう」
「本当ですか!」
「ああ…」
「ありがとうございます」
そう言ってルーナは自分の部屋に戻って行った。
「師匠…」
「あいつはもう子供じゃない。自分の事は自分で決めれる年になっていたんじゃなあ」
その頃リスポ隊の屯所では…
「ジャッキー警部、所長がお呼びです」
「そうか。分かった」
ジャッキー・リーはカーメーに敗れた後、リスポ隊に所属して働いていた。
トントン!
「ジャッキーです」
「入れ」
「失礼します」
「ドーレ一味がこの国にいるようだ」
「本当ですか?」
「間違いないだろう。軍から指名手配されている25人のうち24人の指名手配書だ」
所長はジャッキー警部に手配書を渡した。
「あと一人だけ写真どころか似顔絵もないわ。それに奴らのアジトがまだわからん」
「自分はとりあえず、部下たちとこの指名手配書を町の住民に配ってきます」
「ああ、頼むよ」
何でも屋ペガサス…
「しかしあのショーって奴は手が早い。どこかの誰かみたいだ」
と、ジェーソンがいった。
「それは俺の事か?ジェーソン!」
「別に…」
「あの娘は優しい子じゃ。誰かが困っていたら放っておけないのだろう」
「そうですね。翔を運んできたのもルーナでしたから」
と、ランが言った。
「師匠だって、キャルロットが倒れていたところを助けたじゃないか」
と、ジンヤーが言った。
「倒れている者を放っておける人間はごく一部ですから」
と、スギールが言った。
その時、リスポ隊のジャッキーがやってきて、ドーレ一味という悪党組織について説明した。
ドーレ一味は主に女性を拉致して、それを他国に売るという犯罪組織だ。
首領はズーク・ミーゴ。
人数は全員で25人だ。
「保護者からも何人か捜索願が出ている。報告書によれば、今のところ6人の20歳前後の女性が行方不明だ。しかもその中の一人はまだ14歳だ。おそらくドーレ一味に拉致されたんだろう。こいつらのアジトさえ分かれば一網打尽にできるんだが…」
「悪そうな奴らばかりだ」
と、ジンヤーが言った。
だが、1枚の手配書を見て、カーメーたちは驚いた。
手配書の中の1枚にショー・ジルダーの手配書があったからだ。
「なんてことじゃ」
「師匠…」
「大丈夫じゃ」
と、言っているが、今にでも怒りが爆発しそうだった。
「どうした?」
「実は…ショー・ジルダーはルーナの彼氏でして」
「なんと!」
スギールがジャッキーに説明していた時、ルーナが階段で話を聞いていた。
「(そんな…ショーさんが…犯罪者だったなんて)」
「そうか…ルーナちゃんが…こいつの本名は手配書に書いてあるように、ズーク・ドーレ…ドーレ一味の首領だ」
「(しかもショーさんが首領?)」
「ドーレ一味のほとんどはシャドー王国やスレイブ国の人間がほとんどだ。ズークもスレイブ国の人間だ」
「よいか皆、このことはルーナには言うなよ」
「分かっています」
その時、ジャッキーが持っているテレパシーカードが鳴った。
部下からだ。
「ジャッキーだ」
このカードは現実世界で言うなら、携帯電話のようなもので、魔法を使えないものも使えるため、一般市民でもほとんどの者が、このカードを持っている。
使い方はカードの後ろに数字があり、相手のカードの登録番号を押すだけで、相手と会話ができる。
「それは本当か?うん…うん…何?手を出すな?どういうことだ?うん……そうか。分かった」
「どうしたんじゃ?」
「情報ではドーレ一味は25人。だが24人しか指名手配書がない。あと一人こいつだけ似顔絵さえない。それどころか名前や国籍も不明だった。だが、ついにリスポ隊はその一人の名前や国籍などの情報をつかんだ」
「本当か!」
「ああ、ジャパールの特殊部隊龍神隊から、情報が届いたそうだ」
「龍神隊からか」
「ああ、名前は大沢鴨。元龍神隊の隊士だそうだ」
「なんと!ジャパール人か!」
「あっ、ジャパール人といえば翔はどこに行ったんだ?」
と、ジェーソンが言った。
「あいつ、散歩に行ったきり帰ってこないな~まさか迷子になっているんじゃないだろうな」
と、ジンヤーが言った。
「しかもアジトも分かっているようだ」
「どこじゃ?」
「ウミールの港の近くの倉庫だ」
「(そこに行けば、ショー…いえ、ドーレ一味や人質になっている娘達がいる)」
ルーナはこっそり部屋に戻り、窓から飛び降り出て行った。
だが、着地した時にカーメーたちに気づかれた。
「ルーナ!お前聞いていたのか?」
「…はい…私に行かせてください」
「怒る気持ちはわかる。だが、ここはリスポ隊たちに任せておこう」
「ところが、龍神隊から俺たちは手を出すなと言われているらしい」
「なぜじゃ?皆で協力した方がいいじゃろう」
「俺に言われても…ジャパール人は何を考えているのかわからん。どうせ手柄を自分たちのものにしたいんだろうよ」
「スギ」
「はい」
「水晶玉を用意してくれ」
「はい」
「ふぁ~、何騒いでいるの?」
キャルロットが目をこすりながら降りてきた。
「あっ!チルチちゃんのおじちゃんこんばんは」
「よう」
スギールが魔力を水晶玉に送ると、外の世界が映し出された。
そして水晶玉でウミールの港にある倉庫を探した。
「おい、あそこの倉庫の周りに人がいるぞ」
「はい」
ウミールの港のとある倉庫の中を写すと、19人の男たちと6人の女性が映し出された。
他の男たちは外で見張りをしていた。
だが、外にいるのは5人だ。
あと一人いない。
実はあと一人は、16歳くらいの女の子を拉致しようとしていたところ、何者かに襲撃され、動けないくらいの重傷を負っていた。
女の子はその後助けてくれた謎の人物に家まで送ってもらったようだ。
「おうちに帰して」
「パパ、ママ…」
女性たちが泣いていると、あのズークが怒鳴った。
「うるせ~!お前たちはこれから他の国で奴隷として働くんだ!喜べ!ははっ!」
「なんて奴じゃ」
「許せない…」
と、ルーナは言ったが、これは自分がだまされたことに怒っているのではなく、女性たちを拉致し、それを他国へ奴隷として売ろうとしていることが許せないのだ。
「ジャッキーどうするんじゃ?」
「龍神隊の奴らは気そうもないな~」
「しかし、ズークさん。そのルーナって女はどうしますか?」
「奴はまだ俺の正体に気づいていない。今度ジャパールにいい病院があるから、一緒に付いてきてほしいと頼めば、あの女は必ず同情して付いて来る」
「それにしてもズークさんは頭がいいですね。俺たちは力ずくで拉致って来たけど、ズークさんは相手に同情させて、ちゃっかりやってしまうんですから…羨ましいですよ」
「な~に出航は夜明け前3時だ。それまでここにいる女たちを自由にすればいい」
「あんた、ホント真の悪だな」
と、言ったの大沢だ。
「元龍神隊の人にそう言ってもらえると光栄です」
「フン」
「今23時過ぎか…まだ3時まで時間があるな。おい」
「はい」
「外で見張りしている奴らに2、3人でまた女を拉致って来させろ」
「はい」
だが、外から悲鳴が聞こえた。
「なんだ?まさかリスポ隊?」
「ズーク心配するな。リスポ隊など元龍神隊のこの俺の敵ではない」
「おお~頼もしい」
外で見張りをしていた一人が慌てて倉庫の中に入ってきた。
「リスポ隊か?」
「ハアハア…い、いえ…何でも屋ペガサスの授業員だと言っています」
「何でも屋ペガサスだと!」
「知っているんですか?」
「あのルーナが働いている会社だ。どうやら、俺の正体に気づいたか…で、数は?」
「一人です。全身にマントを纏っているから性別は分かりませんが、小柄だから女性だと思います」
「なるほど…ルーナだな」
そう言っている間に、全身にマントを纏った人物が入ってきた。
「ルーナだろう?」
「…」
「俺の正体を知ってどうよ?また、抱かれたくなったか?お前あの時が初めてだったようだが、あの時何回やったけ?」
「ルーナさんの優しさを利用し、傷つけたお前らは絶対に許さん!」
そう言ってマントを脱ぎ棄てた。
その正体は翔であった。
「なんだ?男か?ん?そういえば、あのマントはザーコが愛用していたマントに似ているな~まあ、いい…片づけろ!」
「はい」
「(ま、まさか…あいつがこの国に…)」
「どうした?大沢」
大沢は翔の正体を知っているため震えだした。
「翔くんじゃない!」
「なぜあいつがあそこに?」
銃で翔を狙って撃つが、懐から短刀を出して、弾を撃ったやつのところへはじき返した。
これは戦時中、翔が良く使っていた水神流の業の一つ「弾」である。
だが、本来は相手の心臓や脳に弾を返すのだが、今回は相手の肩を狙って返した。
「ぎゃあ~!!!!」
「俺は今、ペガサスの従業員だ。お前らのようなクズでも殺せば破門される。だが…気が変わって殺すかもよ!」
「なに!」
「ああ、そうそう、ここに来る前に、16歳くらいの女の子を拉致しようとしていた馬鹿がいたから、生き地獄を味あわせてやった」
翔はルーナが宿から出てきた後、ペガサスへ戻ろうとしたのだが、女子が拉致されそうだったから助けていたのだ。
その後女の子を家まで送っていたのだ。
「やはりあのマントはザーコの…何者だお前?」
「そこの大沢に聞けばいいだろう」
「何?大沢知っているのか?」
「か、かむい…」
「はあ?よく聞こえね~」
「あいつがジャパールの英雄と呼ばれている神威龍一だ!」
「あの小僧が?」
人質の女性たちも皆驚いている。
「まさか翔君がジャパールの英雄神威龍一だったなんて」
「只者ではないと分かっていたが…」
ルーナもスギールも他の者たちも皆驚いた。
「奴を殺せ!」
ズークの部下が次々と襲ってくるが、かすり傷一つ付かない。
そして、交わしながら攻撃をし、残る敵は大沢とズークだけだ。
人質の女性たちはもはや言葉も出ないようだ。
「ば、化け物か…」
翔は二人の方へ近寄っていく。
「大沢…助けろ!お前元龍神隊だろう」
「大沢鴨…俺が入隊して数か月後には、戦場から逃げた臆病者」
「う、うるせ~!」
大沢が攻撃を仕掛けた。
戦場から逃げたとはいえ、元龍神隊の隊士。
他の雑魚とは全然強さが違う。
さらに風の魔法で翔を吹っ飛ばした。
「ハアハア……」
「大沢よくやった」
「馬鹿!神威がこれくらいでくたばるわけないだろう」
「お前みたいなやつでもかつては一緒に戦った同志…だから俺は奥義龍神を使う」
「クッ…殺されるか!」
一瞬のうちに大沢の懐に入って奥義龍神を使った。
大沢の大きな体が一瞬宙に浮いて、地面に叩き付けられた。
「ぐわ~骨が…くっ…こ、殺せ」
「さっき言っただろう今いる会社じゃ人殺しは禁じられている。しばらく牢に入って反省しな」
「神威…」
あとはズーク一人だ。
「降参だ…俺の負けだ」
と、言って土下座した。
「(俺はこいつらとは違う…こいつが油断した瞬間、腰に隠してある銃で殺してやる)」
「…許してほしいか?」
「は、はい…(俺を許し油断した時がお前の最後だ)」
だが、翔は短刀で土下座しているズークの左手を突き刺した。
「ぐわ~!!!!」
「(ズーク…馬鹿な奴だ…お前の作戦など神威はとっくに気づいているんだよ)」
「な、なぜ?お、俺は降参だと言ったじゃないか!」
「お前の行動なんて読めてんだよ。それにお前は俺の大事なもう一人の姉さんを傷付けた!絶対に許さん!」
「な、なんて恐ろしい目をしているんだ…こいつは…」
「敵軍は俺を死神と呼んでいたが、世間じゃ俺は英雄…だが、俺は英雄なんかじゃね~!死神だ~!」
ズークの左手に突き刺さっている短刀を抜いて、今度は頭目掛けて突き刺そうとした。
「翔く~ん!殺しちゃダメ!」
と、ルーナは大声で叫ぶが、ペガサスからこの倉庫まではかなりの距離。
当然聞こえるはずがない。
だが、翔はズークの後頭部の一寸手前で止めた。
「ルーナさんの声が聞こえたような気が…きっと、会社でこの戦いを見て、叫んでくれたのかも…」
「た、助かった」
翔は最後にズークの顎を蹴り飛ばした。
「いて~」
「時期にリスポ隊が来るだろう」
「良し俺はあの倉庫に部下を連れて行ってくる」
「待ってください。私も行きたい」
ルーナがそう頼むとジャッキーは笑顔でうなずいた。
それから20分後…
ドーレ一味は全員捕縛された。
人質の女性には忘れろ薬という魔法薬で、ここ2、3日の記憶を消した。
そうすればこの時に受けた恐怖や心の傷は忘れられるし、神威龍一の事も忘れることが出来る。
「神威が龍神隊の名前を使って、俺たちに情報提供してくれたのか」
「ああ…でも俺一人で片づけたかったから、手は出さないでくれと頼んだ。あと、こいつらはあんたらリスポ隊が捕縛したことにしてくれ…アンタの上の人や他の人に神威がこの国にいることを知られたくない」
「分かった」
「翔君…」
「ルーナさん…俺はさっき本気であのズークを殺そうとした。ズークの野郎だけは許せなかったから…でもルーナさんの声が聞こえたから…」
「私、あの時ペガサスから殺しちゃダメと確かに叫んだわ」
「その思いがここまで届いて、俺はあいつを殺さずに済んだ。でも俺はやはり死神…ルーナさんの声が届いたから殺さずに済んだが…」
「翔君…」
「ルーナさん、俺がなりたかったものは、英雄でも死神でもない…幼い頃の幸せだった自分に戻りたいだけ…」
翔がそう言うと、ルーナは翔を優しく抱きしめた。
「もう、二度とあなたに人殺しはさせない…こんな戦いをあなたにはもうさせないから」
「ありがとうルーナさん…俺、今の自分を変えたい。ガキの頃のような俺に戻りたい」
「戻れるわ。いえ、戻してみせるわ。私はあなたの姉だから…」
「うん。姉さん」
6歳の事件以来、心から笑ったことのない翔が、心の底から笑った。
倉庫を出たらすでに日が昇っていた。
空を見て、翔は今日も頑張ろうと思った。
そしてこの日の夕方18時…
「自分を変えるには髪型を変えるのがいいのよ」
「はあ…」
翔の髪を茶色に染めたのだ。
「ですが、なぜリボンを?」
「だって似合うんだもの」
「そ、そうですか…俺は喜んでいのかどうか…でも、やはり姉弟だな~鏡で今の俺の顔を見ていたら、姉さんの顔を思い出しました。でも、こんなに目つき悪くないし、ルーナさんのように笑顔がステキな人でした」
「翔君も倉庫で笑っていた時の顔、とてもステキだったわよ」
「そうですか…」
「翔君、女顔だから笑顔だととても可愛いよ」
翔の顔が赤くなった。
そして、次第に翔の性格は穏やかになっていった。
甘えん坊で泣き虫だった頃の自分に戻っていったのだ。
現代…
「そうだったんだ…」
「あのキラーマンと戦わなければ、翔君の恐ろしい性格は現れなかったのに」
「でも、恐ろしい方の人格になったから私たち助かったんですけどね」
「だけどもう…僕は死神だった頃の人格に戻りたくないんです」
「大丈夫よ今度こそあなたを戦わせたり、人を殺させたりさせないわ」
「はい」
翔のもう一人の人格は、本当に消えることがあるのだろうか?
「神のみぞ知る」




