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オエクレクトス  作者: HAL
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第一話 始まりし者【フィルレンス】

第一章 生まれの地

 暖炉の火が、ぱちりと音を立てた。

 窓の外では雪が静かに降り積もり、小さな家を白く包み込んでいる。

 暖かな毛布にくるまった一人の少年は、母の膝を枕にして目を輝かせていた。

 母は優しく本をめくる。



 遥か昔、神様たちが住んでいた星がありました。その星には豊かな自然や大きな海、そしてたくさんの生命が溢れていました。


 神様たちはそんな星を気に入り、自分たちの力を存分に使って自由気ままに生活していたのです。

 

 しかし、そんな日々は永遠には続かず、ある日突然神様たちはいなくなってしまいました。神様たちはても気まぐれなのでその理由は分かりません。


 ですが神様たちの影響力は凄まじく、星を離れてもその力の一部は各地に残り続けました。そして長い年月をかけて石のように結晶化したのです。


 それを発見した先人たちはその石を神の力が宿った石、「ゼオウスストーン」と名付けました。


 そしてその石は今なお各地に眠り、「オエクレクトス」を待ち続けているのです・・・



 ぱたん、と本が閉じられる音が静かに響き渡る。


 「おしまい」

 少年はしばらく天井を見つめたまま、ぽつりと呟く。

 「ねえお母さん、僕ってオエクレクトスになれるかなぁ?」

 母ーーリュゼ・グレイスは微笑みながら考える顔をする。

 「うーん・・・どうだろうねぇ」

 「えー・・・」

 「でもね」

 リュゼは息子の黒髪をそっと撫でる。

 「神様に、その石に選ばれなくっても、誰かを助けられる人は立派な人よ」

 「・・・・・」

 「母さんはフィンにそんな人になってほしいな」

 少年はにこっと笑った。

 「うん!」

 その返事を聞いたリュゼも、優しく微笑んだ。



 そのとき、勢いよく扉が開いた。

 「ただいま!」

 黒髪の大男、父ーーガルム・グレイスが肩に積もった雪を払いながら帰って来たのだ。

 「あなた、おかえりなさい」

 「父さんおかえり!」

 「フィルレンス!今日も剣の話をしてやろう。聞きたいだろ〜?」

 「え〜・・・」

 フィルレンスと呼ばれた二人の息子は露骨に嫌そうな顔をしている。

 「僕は母さんみたいに拳の方が好き〜」

 「まあそう言うな。確かにリュゼの拳がすごいのは認める。だが剣もいいものだぞ!」

 「やだ、拳がいい」

 「いや、剣だ」

 「拳がいい」

 「剣だ」

 「拳!」

 「剣!」

 「ふたりともご飯よー」

 「「はーい!」」

 ガルムと少年の2人が同時に返事をした様子に、リュゼは思わず吹き出してしまった。

 「もう、ほんとに仲良しなんだから」


 食卓には焼きたてのパンに温かなシチュー。ガルムは狩ってきた獲物の肉を豪快に頬張っている。

 「フィン、あと何日だ?」

 少年は勢いよく答える。

 「あと5日!」

 「そうだ。あと5日」

 ガルムは大きく頷いた。

 「あと5日でお前は6歳だ。つまり、冒険者になれるようになる」

 その言葉を聞いた少年は椅子から立ち上がり、飛び跳ねて喜んでいる。

 「やったぁ!やっとだ!えへへ、楽しみ〜」

 と、ガルムが真剣な面持ちで少年を見て口を開く。

 「けどな、6歳になってすぐに冒険者にはさせないぞ。お前はまだ生きる術を知らないからな」

 「え〜・・・そんなぁ・・・」

 少年はまた、露骨に気分を落としている。

 「まあそう気を落とすな。まずは強くならなくちゃな」

 ガルムは少年の頭に手を置き、撫でた。その言葉を聞いた少年は再び目を輝かせる。

 「・・・じゃあ!」

 「ああ、明日から修行をする」

 少年のその目をしっかりと見つめ、ガルムは強く頷いた。

 「もちろん、剣の修行だぞ」

 「え、やだよ。拳がいいもん」

 「剣だ」

 「拳がいい」

 「剣!」

 「拳!」

 「ふたりとも、食事中よ」

 「「はい・・・」」

 冷たい声でリュゼが放つ。リュゼの一言で少年もガルムも静かになり、食事を再開した。

 「ほんと、あなたによく似たわね」

 「そうか?」

 「ええ、頑固なところとかそっくり」

 「・・・まあ、俺の息子だからな」

 ガルムは頑固であることを否定できなかった。思い当たる節があるのだろう。

 「でも、剣はいいものだぞ」

 「「まだ言うの!?」」

 こんどは少年とリュゼが同時に言った。

 そんな三人の笑い声が家中に響いた。


 翌朝。


 まだ日も昇り切らない時間。庭には朝露が光っている。

 「よし、まずは構えろ」

 ガルムは一本の木剣を地面に突き立てた。しかし、少年は構えようとしない。

 「いや、だから拳がいいんだって」

 「だが、やはりまずは剣をだな」

 「やだ、拳がいい」

 「剣だ」

 「拳!」

 「剣!」

 「拳!!」

 ついに少年は木剣を地面に置き、拳を胸の前で構える。

 その様子を見てガルムは大きなため息をついた。だが、嫌なため息ではない。

 「フィンがそこまで言うなら仕方ない。俺が折れよう。じゃあ・・・リュゼ」

 「はいはい」

 リュゼは微笑んで少年の前に出た。

 「それじゃあ、お母さんが拳を教えるわね」

 「うん!やったぁ!」

 少年は飛び跳ねて喜んだ。

 「でもね」

 リュゼはしゃがみ、少年と目線を合わせる。少年もまた、リュゼの方に目線を向ける。

 「これだけは覚えておいて」

 「うん」

 「冒険者はね、強い人がなるんじゃないの」

 「え?」

 「約束を守れる人、困っている人を放っておけない人。そして・・・」

 少年の額を軽く指でつついた。

 「何度転んでも立ち上がれる人。それが一人前なの。フィンは、なれる?」

 少年は真剣な顔で頷く。

 「うん。僕、一人前になる」

 「うん。母さんも父さんも、そう信じてるわ」

 リュゼは優しく頷いた。ガルムも少し離れたところで同じように頷いていた。

 「僕、父さんと母さんみたいな冒険者になる!」

 ガルムは腕を組み、満足そうに笑った。

 「なら、頑張らないとな」

 「うん!」



 小さな拳がゆっくりと構えられる。


 それはまだ幼く、そして弱い。


 それでも、その瞳だけはどこまでも真っ直ぐだ。

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