14 癒やし手となる覚悟
私の問いに対して、ニリンダさんは一瞬、驚いたような表情を浮かべましたが、そのあとすぐに私の目を見ながら、力強くうなずいてくれていました。
「合っているわ。あなたは正しい治療を行ったのよ」
私は胸をなでおろしました。
きっと、ニリンダさんには、私が本当に知りたかったことが伝わったのだと思います。今ならば聞けるだろうと、私は思いきって口を開いたんです。
「それから、井戸の水に触れちゃったんですけど……たぶん本当は、触っちゃいけないやつだったのかもしれなくて」
「……。患者の記憶を見たのね」
「はい……」
「時々、そういうことがあるの。それどころか、黄昏の畑に限らず、相手の激しい感情にあてられて、体に不調が出ちゃうことも、ままあるわ。くれぐれも気をつけて。あと……これは分かっているでしょうけれど、知ってしまった患者の秘密は厳守よ。それが白魔法を使う者の務めだわ」
きりりとした厳しい表情を浮かべていたニリンダさんですが、そのことばは私を責めるものじゃなくて、正しい方向へ導かんとする、温かくて優しい声音で発されていたんです。もはやニリンダさんの返事から、あの一連の消火活動が白魔法であることは、疑いのないものになっていました。
なんて泥臭い作業なんでしょうか。
ひとりでにイメージしていたような、厳かで神々しい要素はどこにもありません。
ミステリアスなオーラを伴う異能者の奇跡でもなければ、博愛を象徴するかのような宗教家の慈悲でもないんです。
白魔法とはほかでもなく、相手の心の世界に入って、元の正常な状態に戻すことだったんです。はた目からは、一瞬で行われる世紀のイリュージョンに見えますが、実際には全く違います。汗をかいて行う肉体労働です。私が想像していたほど、きらびやかなものでは全くありませんでした。
でも、それでも兵隊さんを助けられたことに、私は喜びを感じていました。運動が苦手な私にとって、中々にハードな作業でもありましたが、それだけの成果はあったといえるはずです。……それに、現実の私が汗をかいたわけじゃないようですし、腕も痛くなってはいません。例えるならば、気持ちのうえで、疲労感だけがたまっていく感じでしょうか。
私には何度か苦い経験がありました。
助けを求める動物の声を聞けるというのは、私唯一の特技ですが、これは決して万能なものじゃありません。聞こえた声の全部を、助けられたわけじゃないんです。私がどんなに助けたくても、現実として助けることのできなかった動物たちは、数多くいます。私にできたことは、結局のところ、おバカな子供にできる範囲に限られていたんです。
どうしようもない現場に、遭遇したことだってあります。
車にひかれてしまった猫、急流に流された子犬、巣ごと強風で飛ばされてしまった雛。少なくない数の動物たちに、手を差し伸べて来たと自負している私ですが、それとおんなじくらいには、見捨てるという選択をして来なければなりませんでした。悲しくて、悔しくて、もっと自分に力があったらいいのにと、涙を流したことが何度もあります。
「次の怪我人はどんな具合ですか?」
「腕の骨がぐちゃぐちゃに折れてしまっていて――」
聞いているだけでも、めまいがして来そうなほどに悲惨な状態です。
でも、私に目をそむけようという意思は、もうありませんでした。
初めて兵隊さんの腕を取ったとき、自分には人を癒やせるだけの力があるんじゃないかと、私は期待していました。それは御覧のとおりです。必ずしも、私の思い描いていたような形の力じゃありませんでしたが、それでも私は満足しています。私には癒やし手としての才能があったんです。白魔法としての力を使えることに、違いはありません。
そして、ニリンダさんのことばで、私は今、自分の力に対する責任をも、自覚するようになっていたんです。
「待っていてください、すぐに治しますから!」
力ある者として、私は自分の力をよい方向に、使っていかなければならないんじゃないでしょうか。大げさにいえば、私には果たすべき義務があると考えたんです。それが人を救うことの本来の姿だとも、私は感じていました。
助けを求めている人を救う。
これは、人としてあたりまえのことのはずです。
このあと、私は2人の兵士の方に対して、白魔法を発動させました。このとき、なんとなく私は予感していたんです。しばらく私は、日本に帰れないだろうということを。そして、この世界でやるべきことがあるだろうということも。そして、それがきっと、私にしかできない特別なことだということも。
お手数ですが、ブックマークと評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。
次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ




