12 激しい感情に揺られて
両親のあとにつづいて家から出て来た実兄は、私の姿を見かけるやいなや、あからさまに不愉快そうな表情を浮かべていた。私が母上と話をしている最中も、彼が自分の態度を改めることはなく、ずっと仏頂面のままだった。両親に悟られないよう、木柵の門へと向かう足を止めた兄が、私を親のかたきであるかのようににらみつける。
「毎回まいかい、ご苦労なこったな。俺へのあてつけのつもりか?」
私は兄のことばに辟易とした気持ちになった。発言に心が痛んだわけではない。予想された結論しか導かない内容に、徒労感を抱いただけである。
「……私は、いつそのときが来るのか分からないからこそ、準備をしているだけですよ」
「ふん、どうだか。長男は俺だぞ」
長男ということばに力点をつけ、実兄は決め台詞であるかのように語った。
だが、事実として、長少の重みを知らない自由農民の子はいないだろう。さまになっているかどうかはともかく、それは決め台詞たりえた。そこには天と地ほどの差が、厳然と存在しているのだ。
「……。重々承知していますよ」
いくらかの呆れを抱きながらも、私は低頭に努める。そんな私の態度さえ気に入らないと見え、実兄は隠すこともなく舌打ちをしていた。
「受け継ぐ土地がないんだ。今度の戦で、いっそ死んだらいいんじゃないか?」
「……」
剣戟で散った火花のように、私の心には激しい怒りが芽生えたが、やはりそれは火花でしかない。生じた炎は、一瞬にして霧散してしまっていた。あとに残ったのは、家族に対して向けるべきではない侮蔑である。
血が繋がっているにもかかわらず、よくもまあここまで好き勝手にいえるものだと、私は自分の心にある悪感情を自覚していた。この兄は、およそ死と向き合ったことなどあるまい。長男として生まれ、父上より土地を受け継ぎ、自由農民としての一生を約されている者が、どうして己の死と向き合うことがありようか。
勘違いしてもらっては困る。
私はなにも、敵と槍を振り合うことを恐れているわけではない。ただ、いざ自分が死ぬとき、命の炎を燃やしつくすための大義を欲しているのだ。自分の人生に意味を与えたいだけなのだ。
次の戦場は、それを決して満たしはしない。
まもなく始まるヨロロホムハ国との戦いに、いったいどんな大義があるというのか。
何もない。
これまでと一緒だ。
単に集落を防衛する以上の意味合いは、そこには存在しないだろう。そんなもの、戦いに参加するのが私でなくとも構わないではないか。私は、私だけの特別な理由を求めているのだ。
すでに死は受け入れてある。
拒絶しているのは、そこではない。自分の人生を終える理由が、自分にしかできないものであってほしいという願いは、それほどまでにおかしなものだというのか。
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生々しい感情が私の中で渦巻いていました。
お兄さんに対する妬ましさと、純粋なほどの渇望。生きることに対して、強烈な欲求を持っているにもかかわらず、それと相反する感情も、おんなじくらい私は求めていたんです。
有終の美にふさわしい何か。
矛盾した2つの欲求が、ぶつかりあっていました。
あんまりにも激しい感情の波に、気がつけば私は自分の胸を押さえていました。吐いた息にさえも、荒ぶる感情が乗っているかのようです。
今見た光景が、まるで自分で体験したものかのようで、自分のじゃないはずなのに、うまく気持ちを整理することができません。
私の中を駆けめぐる血液全部が、黒々とした憤りを吸い取ってしまっていたんです。私が抱いたことのない憎しみが、私の体を急かすように熱く燃やし、半ば自暴自棄のような諦めが、それに釣られていっそう激しく、私の体に冷や水を浴びせて来るんです。
奔流が過ぎ去るのを、私はただじっと待っていました。嵐が静まったあとも、私の手は小刻みに震えていました。きっと、表情もこわばっていたかと思います。
(今のはいったい……)
おっかなびっくり。
直前にすくい取った、バケツの中の水を私はのぞきこみます。もう一度、手で触れてみようとは、とてもじゃありませんが、怖くてできませんでした。
あんまりにも鮮やかな光景です。
追体験をしているかのような、主観的な映像でした。
謎は深まるばかりですが、今しがた見たものについて、私が思いを馳せているような時間はなかったんです。
予想だにしない出来事の連続です。
しゃららんという、いかにも天上で響いていそうな、とてもきれいな音色が聞こえかと思うと、私は再び天幕の中に戻って来ていました。
それが白魔法の終わりを示すものだということに、私が気がつくためには、今しばらくの時間が必要だったんです。
お手数ですが、ブックマークと評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。
次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ




