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第三王女ヴァレンティーナ〜異世界人の子孫にして王国最後の聖女  作者: 帰り花
第二章

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第18話 破滅と希望


フェリックス殿下はしばし考え込みましたが、何かに気づいたようではっと表情を変え、呟きました。


「現国王ではなく王太子に…………」



顔を上げた殿下はわたくしに言いました。


「事態はそこまで大きく動いていたのですね。ああ、ヴァレンティーナ殿下。あなたは私を救ってくださった。このご恩は決して忘れません」

「大袈裟ですわよ。むしろ手柄はフェリックス殿下にあると言えるかもしれませんわ」

「はて、それは?」

「初めてのお茶会で、フェリックス殿下はこう仰いましたわね。『もし私に聖女の力があれば、王族としての義務などそっちのけで金儲けに走ってしまいそうだ』と」

「たしかに、そうでしたね」

「それに対してわたくしは、『聖女の力というものは私するものではなく、遍く使うべきもの、金儲けに走れば待っているのは堕落と破滅』と返しました」

「はい。よく覚えています」

「レオン殿と直に話し、その正体を確信した時、あの時のやり取りを思い出しましたの。それですべてがわかりました。フェリックス殿下はあのお茶会でご自分の考えではなく弟君の狙いを言っていたのだ、そして弟君は私利私欲のためにわたくしを狙っている、と。しかもわたくしたちのその会話を聞いていたはずの弟君は考えを改めた気配もありませんでした」

「確かに……」

「殿下のお陰で確信に至り、そこから一気に調査は進みました。何しろ弟君の考え、つまりそのお母上の考えと行動はフォンタナ王家を完全に敵に回す言動なのですから、それはもう恐ろしいほどに早く進んだのです」


フェリックス殿下は息を呑み、呟きました。


「聖女の力を私しようとする者に待ち受けるのは破滅……」



わたくしはこれ以上、何も言うつもりはありません。

でも殿下には色々わかったことでしょう。



「殿下は身動きはとれずとも、何もできなかったわけではありませんよ。弟君の考えをまるでご自分の考えのように喋ってあの場にいた者たちへ明らかになさっていたのですから。軽調子で馴れ馴れしい響きのある喋り方は弟君の真似。その弟君の目の前で弟君の考えを暴露していたのに、弟君は殿下のどことなく板につかない軽調子な喋り方に気を取られ、殿下の真の狙いには気づかなかった、ということだったのでしょう?」

「はい。お恥ずかしい話ですが、弟は危機管理に無頓着なのです。それでもこれはやはり私の狙いに気づいてくださったヴァレンティーナ殿下のお陰です。このご恩をどうお返しすれば良いものか……」

「そのようなことは事態が落ち着いてからお考えになってください。それより今は弟君を何としてでも城門から引き剥がして連れ帰ってください。宿泊について勝手がわからないと言うのであれば、この辺りに詳しい者に案内させますから」

「何から何まで、本当にありがとうございます、殿下」




その後、フェリックス殿下が家臣と共に家令に案内されて城門まで戻り、門前でこちらに振り向いて二人で深々とお辞儀をした姿を見てすぐ、わたくしたちは城へ戻りました。

あえてこれ以上の見送りはせず、こちらの怒りは継続しているとレオン殿に示すためです。

とは言え、家臣たちには届くかもしれませんがレオン殿には届かないことは承知のうえ。


そのあとすぐにレオン殿が何やら叫んでいる声が聞こえましたが、もちろん一切反応せずに捨ておきました。




「やはり、殿下は厄介ごとに縋りつかれていたのですね」


城に入ってすぐ、ヴァレリオが言いました。


「ええ、ヴァレリオの言った通りですわね。しかも辿ってみれば元はあちらのお家騒動。危うくわたくしまで巻き込まれるところでしたが、難は逃れられましたから、まあ良しとしておきましょう」

「偽従者の不法入国よりもっと問題なのは、あちらの王妃が殿下を私利私欲で狙ったことですよね?」

「その通りです。あちらの王妃はフォンタナ王家に喧嘩を売ってきたも同然です。よって二度とわたくしに手を出そうなどと考えぬよう、首謀者である王妃を叩き潰す必要があります」

「ただしこちらは直接手を下さず、実際に手を下すのはあちらの王太子殿下になるわけですね」

「ええ。これはバラフ王国内の厄介者を一気に片付けるまたとない絶好の機会にできますわ。何もなければまだ後を継げる時期ではなかったでしょうから」


続けてヴァレリオが感心したような面持ちで言いました。


「フェリックス殿下は剣術が得意ではなさそうですが、こちらの怒気に気づいただけでなく、受け止めていらっしゃいましたね。偽従者とは大違いです」

「確かにそうでしたわね」


わたくしだけでなく、ヴァレリオと四人の護衛騎士、合わせて六人が放つ怒気の圧力を受けても怯むことはなかったフェリックス殿下。

控えていた殿下の家臣は体が縮こまって微かに震えていましたから、殿下は腹が据わっていたのでしょう。

やはり図太いお方です。


王族としての覚悟も弟君とは段違いです。

そのフェリックス殿下が唯一頼りにできる兄君の王太子殿下もきっとしっかりした方なのでしょう。




家令からその後の御一行について報告を受けたのは、夕食前のことでした。


レオン殿はいつまでも諦めずにゴネていたが、フェリックス殿下が切羽詰まった顔で何やら言い聞かせると、レオン殿の家臣たちの方が慌てだしてレオン殿をどうにか馬車へ押し込み、ようやく御一行は帰っていったとか。


念のため、家令が人を選んで御一行に同行させたので、フェリックス殿下とその家臣たちは安堵していたそうです。

近くの街にはそれなりに格式の高い宿泊施設もありますから、今宵の宿に困ることはないでしょう。


さらに。


「耳に入った従者殿の言い分から考えますに、かの君はどうやらヴァレンティーナ殿下のお力を誤解しているようです。高位治癒師の称号から凄い治癒魔法が使えるだけだと思い込んでいるようで、殿下は討伐隊の旗頭に過ぎず、どうせ碌な仕事もなく暇を持て余しているはずだ、だから私がお慰めすれば必ず喜ぶ、そのためにわざわざここへ来て差し上げたのだ、などと最後まで世迷いごとを申されておいででした」

「まあ。それがこのような地へ押しかけてきた理由でしたのね」

「フェリックス殿下が何を囁かれたのかは聞こえませんでしたが、従者派の家臣たちの慌てようからして殿下は従者殿を動かすツボを心得ていらっしゃるのでしょう。その後はすんなりとお帰りになりました。案内役は二名つけまして、一人を先に走らせ部屋を押さえておくよう指示致しました。時期的に部屋が取れないことはないはずですからフェリックス殿下がお困りになることはないでしょう」



家令からの報告にわたくしはようやく肩の荷を下ろした気分になりました。


とにかく話が通じない者を相手にするのは厄介ですし疲れます。


遠征一日目から予想だにせぬ厄介ごとに遭遇してしまいましたが、レオン殿抜きでフェリックス殿下と話ができたのは幸いでした。

お陰で殿下の事情がわかりましたし、色々と答え合わせもできましたから。




思い返してみれば、素のフェリックス殿下とまともに話したのは今日が初めてです。

いつもは軽調子な物言いですが、今日の殿下の喋り方や態度が本来の殿下なのでしょう。



そして先ほどのフェリックス殿下の言によると、腹違いの兄君は王太子になったばかりで多忙を極めている、とのこと。

王太子殿下は兄エドアルドが恩を売れると見極めた方ですから、おそらく忙しさの大半はご自分が国王に即位するための下地作りによるもの、なのでしょう。


これまで好き放題してきた者たちの不正行為の証拠を集めて引導を渡す時を見計らい、これから国の発展に力を尽くしてくれる者たちを見極めて働く場を作る。

フェリックス殿下の留学を後押ししたのも先々のことを見据えてのことだと思われます。


つまり、国の発展のために老害を切り捨て、若い力を引き立てる下地を着々と整えている。

いえ、きっと、すでに整えてきていたことでしょう。

自分はバラフ王国の次期国王であると自覚し、目の前にいるのは反面教師であると気づいた時からずっと。



フォンタナ王国はバラフ王国の王太子殿下がもっともやり易くなる形で不正入国者の処分をし、首謀者への処罰を求めるだけ。



そして王太子殿下はこの機会を決して見逃しはしないでしょう。



聖女の力を私しようとする者に待ち受けるのは破滅。


国の発展のために尽くす者たちには希望と展望と働く場を。



事態は急速に動く。




きっと第二学期からフェリックス殿下は心労もなくなり、勉強に集中できるはずです。

本物のレオンさんもこちらへやって来て、今度こそフェリックス殿下と共に薬草学を学べることでしょう。


もう邪魔をする者はいない。

二人が見据えるのはバラフ王国のこれから。


国の発展の一翼を担うのだという自負がこれから二人を大きく成長させることでしょう。




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