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第三王女ヴァレンティーナ〜異世界人の子孫にして王国最後の聖女  作者: 帰り花
第二章

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第9話 試金石


三日後には貴族学院の入学式が控えているというのに。



先頃、姉ニコレッタの結婚式がありましたので、その分、今回の魔物討伐遠征は去年の同時期に比べると日程が後ろ倒しになり、しかも魔物の出現がいつもより多かったので予定より日数がかかり、ようやく王都への帰途について三日目の今日。


なぜかわたくしとヴァレリオ、そして討伐隊の皆は災害現場で奮闘中です。



しかもわたくし、今とてもまずい状況にあります。

お腹が空きすぎて重力魔法を使い続けるために必要な燃料が切れてしまいそうなのです。

まさしく危機的状況。


魔力はまったく問題ありませんが、体力、気力、思考力に回る燃料が足りなくなりそうなのです。



でも崖崩れで家ごと埋まってしまった方の救出を諦めるわけにはいきません。


その家は正面から見て左側が、背後の崖が崩れて家の中まで流れ込んできてしまった大量の土砂で窓や壁が壊され戸口辺りまで埋まってしまっていました。

ただ、一緒に転がり落ちてきた大きな石がその家の右側背後の窓と壁を塞ぐような位置で止まったため、奇跡的にそれが盾となり、家の中にいた人が完全に土砂で埋まらずに済んだのです。


外から掛ける声に中から反応があり、その人は膝あたりまで土砂に埋まりながらも生きていることが判明しました。


ただ外からでは土砂と家の壁に阻まれて、わたくしの目でも人の魔力が目視できず、どこにその生存者がいるかわかりません。

そこで患者の体内を魔力で探るのと同じように、壁越しに家の中を魔力で探ってみたところ、空間とそこに人の存在を確認できたので、ひとまずその人の周りに結界を張り保護しました。


そして今は、家の中に流れ込んだ土砂がこれ以上崩れないようにわたくしが土魔法で土砂をある程度固めて堰き止め、家が完全に潰れないように屋根や壁を重力魔法で支えている間に、討伐隊の皆が家の中に流れ込んだ土砂を掻き出しているのです。


崖崩れが起きたのは今日の明け方で、かなり時間が経っています。


つまり、今は一刻を争う状況なのです。

それなのにわたくしのお腹が空きすぎて燃料切れ寸前という危機的状況……。




「殿下〜!! 燃料をお持ちいたしました〜!!」



ザネッラの声です!

燃料、すなわちわたくしが食べる物のことですが、状況が状況なので、ザネッラはおやつと言わずに燃料と言っています。


「助かりました! すぐにこれへ!」

「はい! 恐れながらお口にお運びいたします!」

「ええ、ありがとう」



わたくしは重力魔法を使い続けながら、ザネッラにおやつを食べさせてもらいました。

最初は牛乳、バター、砂糖、少しの塩で作られたキャラメル。

そしてひと口大の柔らかいチーズ。

さらにハムでチーズを巻いたひと口大のハムチーズロール。

極め付けはローストビーフにソースを塗ってひと口大に巻いたもの。



側から見れば不謹慎に思われるかもしれませんが、これは魔法を発動し続けるわたくしにとっての命綱。


お陰でわたくしの空腹は癒されました。


もう大丈夫です。


あとひと踏ん張りです。




わたくしたちは魔物討伐遠征の帰途にありましたが、近くの村で崖崩れが発生し村人が何人か巻き込まれてしまった、という急報を聞き、そのまま皆で救助に当たるべく、こちらまでやって来たのです。

その村は王領であるアンジェロ領内にありますから、わたくしたちが手を出すのに差し障りは何もありません。


ただ崖崩れとなるとわたくしの土魔法や重力魔法が必要になるはず、でも今はおやつ前で空腹だから途中で体力気力が尽きてしまうかもしれない、と思い当たったので、ザネッラにはこの先にある本日宿泊予定の砦まで馬で走ってもらい、大至急わたくしのおやつを用意してもらって引き返して来るように、と命じたのです。


案の定、危機的状況に陥りかけましたが、ザネッラが間に合ってくれました。

本当に助かりました。


体内の魔力が尽きかけても、わたくしは体の周りの空間を魔力を貯める器にして大気中の魔素をそこへ取り込み、さらに体内に取り込んで使うことができますから、魔力の方はまったく心配はないのです。


でも頭と体を動かすための燃料は無尽蔵とはいきませんから、食事で補うしかありません。

遠征の帰途でこのような事態に遭遇することまでは想定しておらず、おやつは砦に到着してからの予定でしたから、危ういところでした。



でももう大丈夫です。

わたくしは重力魔法を使い続け、討伐隊の皆が協力して土砂を取り除き、家の中に閉じ込められていた男性は助け出されました。

そして皆がその家から十分に離れたところでわたくしは重力魔法を解除しました。

するとゆっくりとその家は斜めに傾いていき、完全に潰れてしまいました。

外から見ても家の半分くらいは中に流れ込んだ土砂で既に壊されていることが明らかでしたから、致し方ありません。


他でも怪我人が出てしまいましたが、とにかく死者を出さずに済んだのは幸いでした。

怪我人は皆わたくしが治癒して救助活動は完了です。



村長や村人たちがわたくしたちにお礼を言ってくれましたが、彼らの表情は一様に疲弊しています。


ただ、急報を受けて駆けつけて来たこの地方の代官によれば、必要な人手や物資はすぐに手配できるとのこと。

すでに部下が被害状況を確認しながら必要なものを確認し始めているということでしたので、安心して後は任せ、わたくしたちは早々に村を離れ、本日宿泊する砦へ向かうことにしました。


三日後に学院の入学式を控えていますし、何より皆、魔物討伐遠征を終えたばかりで疲れも残っているのに災害対応もしたのですから。

それにわたくしも含め全員が泥まみれになってしまいましたし、皆お腹を空かせています。


だからと言って被害に遭った村の食料をわたくしたちが減らすなど以ての外ですからね。



わたくしが馬車に乗るため歩き出すと、付き添ってきたヴァレリオが言いました。


「殿下。また困りごとに呼ばれてしまいましたね」

「ええ。ヴァレリオが言った通り、これはわたくしの定めなのでしょうね……ただ、わたくしのせいで皆が困りごとや厄介ごとに巻き込まれる、という見方もできてしまいますわね」

「何を仰るのですか。殿下こそが巻き込まれるお立場。殿下ご自身が厄介ごとを引き起こしているのではありませんから、我々は喜んでお支えするのみです」

「ありがたいこと。わたくしひとりで背負い込むのではなく、皆の助けを得られるのは幸せなことですわ。心強い限りです」


わたくしがそう言うと、ヴァレリオは我が意を得たりといった表情で頷きました。




あの初めてのお買い物体験の日からこっち、わたくしは公務や私的な用事のために王宮を出てどこかへ出掛けるたび、何かしらの予期せぬ騒ぎに遭遇してきました。

いつしかその状況に慣れっこになってしまうほどに。


そのためわたくしは既に腹を括っていたのです。



これはもうわたくしの定めと思うしかない。

受け入れるしかない。

定めから逃げることはできないし、逃げたくはない、と。



今日の災害対応も予期せぬ出来事でしたが、急報を耳にした瞬間、わたくしは迷うことなく決断し、進路変更を命じていました。


困っている者たちを横目に何もせず通り過ぎることなどできませんし、わたくしは救助活動に必要となる力を持っていて、さらにわたくしを助けて共に働いてくれる皆がいます。


そう。

決断に至った一番大きな理由は、わたくしの周りにいてくれる皆の力を信頼しているから、ということに尽きます。


わたくしが怠惰に陥ることなく働き続ける限り、これからも皆の助けを得てどのような窮地も乗り切っていけると確信しているのです。




貴族学院卒業後のわたくしは、領地を賜り家を興し、領主として立つことになるでしょう。

その時、望んでわたくしについてきてくれる家臣がいるかどうか。


わたくしの判断、行動はすべてがその試金石となることでしょう。


貴族学院での三年間もまた。




わたくしは同年代の人たちとの交流が少ないまま十五歳になりました。

学院ではその同年代の生徒たちとの交流が持てるはずです。

そして新たな学びも。



無駄に過ごしている時間などありません。


三年間の学院での学びと交流で、わたくしの世界はますます広がっていくことでしょう。



さあ、あと三日。

次なる挑戦と進化の段階はすぐそこです。



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