第16話 禁忌魔術大暴走の真相
第一王子エドアルド視点
しばらくぎゅっと目を瞑って考えていたヴァレンティーナが目を開き、聞いてきた。
「ミカ様はお家に帰らなかったのですか?」
「そうだ。お帰りにはならなかった」
「他の人たちはお家に帰りましたか?」
「残念ながら帰れなかった。誰ひとりとして」
「でも、連れてきたから、帰れます……帰してあげられます」
「そうだね。理屈ではそうなるはずだ。だが連れてくる強制召喚魔法陣は作ったが、帰してあげる魔法陣は作られなかったのだよ」
「……」
ヴァレンティーナは泣きそうな表情になったが、涙は堪えたようだ。
「とてもひどい話だ。だが実際に行われていたのだよ。神聖国キドエラでもナルサス王国でもラドゲル王国でも、そしてベネドリナ王国でも。ベネドリナ王国は禁忌魔術大暴走が起きた時、国王が亡くなり、フォンタナ大公テオ様が次の国王になったことは知っているね?」
「はい」
「テオ様はただひとり、強制召喚を強固に反対していた方だ。ベネドリナ王家の良心と言われている方だ」
「はい」
「私たちはベネドリナ王国の王弟であったフォンタナ大公テオ様の子孫だ。それはつまり、強制召喚をしていたベネドリナ王家の子孫だ、ということでもある。これは動かしようのない事実だ」
「……はい」
「だがそれに負い目を感じる必要はない。むしろ、子孫だからこそ私たちはベネドリナ王家のしでかした卑劣な行為を忘れてはいけないし、なかったことにしてはいけない。そして、それを戒めとしていけばいいのだよ」
「はい」
ヴァレンティーナは目を見張り、それから深く頷いた。
「さて。一方で、私たちは聖女ミカ様の子孫でもある。ミカ様は強制召喚された方だ」
「はい」
「私たちは強制召喚をしていたベネドリナ王家の血を引き、そして、強制召喚された聖女ミカ様の血も引いている。言うなれば加害者と被害者、両方の血を引いているのだよ」
「加害者と被害者。両方」
「そうだ。そしてこれは何をしても切り離せない。だから私たちは、加害者であるベネドリナ王家の卑劣な行いを忘れず戒めとするだけでなく、被害者である異世界人たちの境遇や抱いていたあらゆる思いのことも決して忘れてはいけないのだよ」
「はい。忘れません」
流石にまだヴァレンティーナが本当に理解するのは難しいだろうが、成長するにつれわかってくるはずだ。
今はただ忘れることなくいてくれたら、それでいい。
私たちの話はまだまだ続く。
私は気持ちを切り替えて表情をゆるめた。
それを見てヴァレンティーナの肩の力も抜けたようだ。
「ヴァレンティーナ。少し話を戻すよ。コンチェッタ様のような人はもともとこの世界にはいなかった、という話の続きだ」
「はい」
「コンチェッタ様は魔力型が全型だ。お前も全型だね。ヴァレンティーナ」
「はい、そうです」
「実はもともとこの世界の人間の魔力型は一型、二型、三型だけだったのだよ」
「え?四型はいなかったのですか?」
「そうだ。四型も全型もいなかった」
「?」
「四型と全型の人間が生まれるようになったのは、異世界人がこの世界に来てからのことなのだ」
「うーん……異世界人は四型ですか?」
「異世界人は皆、全型だった」
「全型……」
「先ほど教えたように、異世界人は誰ひとり、元の世界には帰れなかった。だから皆この世界で生きていったのだが、中にはこの世界の人間と結婚した人もいた。その夫婦に子供が生まれると、その子供の魔力型は四型になる。さらにその子孫も四型になるんだ」
ヴァレンティーナはようやく理解できた、という表情になった。
「わたくしたちの先祖テオ様とミカ様の子供も四型ですか?」
「その通り。その子孫である私たち、国王陛下、私、デルフィーナ、マヌエル、ニコレッタも皆四型だ」
「あれ?でも、わたくしは全型です」
「そうだね。実は異世界人の子孫にはごく稀に全型の人間が生まれることがあるんだ。フォンタナ一族にもこれまでに五人生まれている。ヴァレンティーナは六人めの全型なのだよ」
「とても、少ないです」
「全型というのはそれほどに珍しい型なのだ。そして全型の人間は女でも男でも必ず聖女の力を持っている」
「お母様は全型で聖女の力を持っています。お母様は異世界人の子孫ですか?」
「その通り。コンチェッタ様の先祖はミカ様とは別の異世界人だ」
「わかりました。この世界にはお母様のような人はいませんでした。でもこの世界に異世界人が来ました。そうしたらこの世界にお母様のような人が生まれました。この順番ですね?」
「そういうことだ」
うんうん、と頷いたヴァレンティーナが、あれ?という表情になって聞いてきた。
「この世界には四型と全型の人はいませんでした。なのにどうして魔力型が四型や全型とわかったのですか?」
「よく気づいたね。実は、魔力型について調べて分類したのも、魔力型判定器を作ったのも異世界人なのだよ。それまでは魔力型の分類は存在しなかった」
「え?存在しなかったのですか?」
「そうだ。もともとは、大陸アヌム由来の人間と大陸ノヌム由来の人間との間で治癒魔法をかけ合うと効きが悪い場合がある、という経験則があるくらいで、その原因は何かということを調べた人はいなかった。昔は治癒や回復は平民にとってあまり馴染みのない魔法であり、王族や貴族が雇う治癒師は相性の良い者を選んでいたから特に困ることがなかったのだろう。ところがそこに興味を持った異世界人がいた。全型の魔力は人を選ばず治癒も回復も可能だからね。コンチェッタ様もヴァレンティーナもそうだろう?」
「はい。そうです」
「だからその異世界人は魔力の性質に違いがあるのだろうと考え、調査を始めた。そしてその調査研究結果からこの世界の人間の魔力の性質は四つに分類できるとわかり、アヌム由来は一型、ノヌム由来は二型、その混血は三型、聖女や勇者の子孫は四型、聖女や勇者は全型、と決めたのだよ。さらにその異世界人は、魔力を流してやるだけで魔力型がわかる魔力型判定器も作った、というわけだ」
「その人はとても立派な人ですね」
「そうだね。その人のお陰で、魔力型によって親和性が異なる、つまり相性の良し悪しがあるということがはっきりとわかった。治癒魔法や回復魔法の効きが悪いのは魔力型による相性が原因だ、と判明したことがとても大きかったんだ。これは治癒師だけでなく医師にとっても役に立つ知識となり、医療の発展に繋がったのだよ」
ヴァレンティーナはひどく感心したような面持ちで言った。
「その人は民にとって助かることをしたのですね」
「ああ、そうだね。強制召喚した者たちとは正反対だ」
「異世界人は立派な人ばかりですね」
私は複雑な思いを隠して言う。
「そうだね。他にも異世界人は素晴らしいものを残している。例えばミカ様が残した聖女のための本がある。その本は不思議な作りになっていて、魔力型が全型の人間しか本を開けないのだ。だから読むのも書くのも全型の人間にしかできない」
「そのような本があるのですか?」
ヴァレンティーナは興味津々という表情になった。
「その本には、歴代の聖女の力を持つ者が、様々なことを書き残している。聖女の力を持つ者にとってはとても役に立つもののようだ」
「わたくしも見たいです」
「近いうちにお前にも見せてあげよう。お前なら本を開けるはずだからね。その目で確かめてみればいい」
「はい!」
ヴァレンティーナは楽しみでたまらない、という表情になった。
この表情を再び曇らせることになるのが辛いところだが、次に教えることは避けて通れない話だ。
私は表情をあらためて口を開いた。
「ヴァレンティーナ。今日教えることは三つあると言ったね」
「はい」
「その三つめをこれから教えよう」
「はい」
「ただし、三つめはかなり重い話になる。心して聞いておくれ」
「はい」
ヴァレンティーナも表情を引き締めた。
「禁忌魔術大暴走では『禁忌魔術の魔法陣を発動したら、四つの国にあった全部の魔法陣が連動して大爆発した』と学んだね?」
「はい。そう学びました」
「だが実際はこうだった。まず最初に、ベネドリナ王国が聖堂にある強制召喚魔法陣を発動した。また新たに異世界人を無理矢理召喚するために、だ」
「……」
「すると、強制召喚魔法陣の発動に反応して、別の魔法陣が発動した。その魔法陣は強制召喚魔法陣を破壊するためのものだった。それを作って仕掛けたのは異世界人だ」
「……」
「そしてベネドリナの強制召喚魔法陣は完全に破壊された。さらにキドエラ、ナルサス、ラドゲルの聖堂にあった強制召喚魔法陣も連動して同じように完全に破壊された。異世界人はすべての強制召喚魔法陣の近くに破壊用の魔法陣を仕掛けておき、どれか一つでも強制召喚魔法陣が発動したら、すべての国で破壊用の魔法陣が連動して発動するようにしておいたらしい」
「……」
「しかも、さらに連動して、強制召喚に関わりのあった者たちは死をもって償うことになった。この仕掛けは今もってどのような仕組みで行われたのか解明できていない」
私の話を頷きながら聞いていたヴァレンティーナは、目を見開いたまま固まった。




