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第三王女ヴァレンティーナ〜異世界人の子孫にして王国最後の聖女  作者: 帰り花
第一章

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15/23

第14話 聖女様のチーズケーキ

第一王女デルフィーナ視点


さて、パーティーはヴァレンティーナが招待客から挨拶を受ける時間になりました。

父、母、そして生母の側妃コンチェッタ様は少し離れた所に立ちヴァレンティーナを見守っています。


そんな中で誰からの助けも借りず、ヴァレンティーナはきりっとした態度で挨拶を受け、ていねいにひと言ふた言返しています。

三歳児の体ですから舌が回らないこともありますが、相手に合わせた声掛けをしています。

でもこれは王族なら当然のこと。

わたくしたちも通ってきた道です。

正妃の子か側妃の子か、ということは関係ないのです。


それがわからない者はこの場で見極めがつきます。

実際に挨拶をするのは子供。

でもその子供は親の影響を受け同じような考えになっていますから、挨拶の態度にそれが出てしまうのです。


わたくしたちは五歳の子供がこれまで一所懸命学んで身につけてきたマナーをたどたどしく披露し、それが多少覚束なくても失敗してもめくじらを立てません。

ですが少しでもヴァレンティーナを侮る気配があれば見逃さない、ということです。



挨拶をした貴族子女はあわせて八十人ほどいたでしょうか。

ヴァレンティーナの集中力は見事なものでした。

疲れたり飽きたりする様子など見せず、立派に努めました。


次は庭園に設けられた会場での貴族子女たちとの交流です。

ヴァレンティーナには女性の護衛騎士が二名つきます。

招待客は子供たちですから威圧感を出さぬよう計らいました。



ちょっとした騒ぎが起きたのはヴァレンティーナが会場に入ってしばらくしてからのことでした。


アルジェント侯爵家の次女クラリッサが、ヴァレンティーナの乳母の娘であるブランカ伯爵家の次女ソニアに何やら高圧的に話しかけ、突然テーブルに乗っていたカップを掴んで自分自身にお茶をかけ、大声で泣き出してソニアのせいにする、という愚行をしでかしたのです。


わたくしと兄エドアルドは招待した側の立場で父と母の名代として会場の様子を見守っていましたから、この愚行にはすぐ気づきました。

ですがわたくしと兄が動くと大事になってしまいますから、それはできる限り避けたいところ。


子供ばかりの場ですから、ちょっとした諍いなどの騒ぎが起きることは想定していました。

その場合ヴァレンティーナが、あるいはマヌエルかニコレッタが対処することに決めています。

騒ぎを大きくしすぎないこと、なかなか収まらないならいったん場所を移すこと、手に負えないと判断したらすぐ周りの大人かわたくしたちを頼ることをヴァレンティーナには言含めてあります。


今は一番近くにいるのがマヌエルで、クラリッサの兄ライモンドが側に付き従っていましたから、この二人が対処に動くか、と思った時でした。


少し離れた所にいたヴァレンティーナが、大きな泣き声に反応して動いたのです。


それに気づいたマヌエルはヴァレンティーナの動きを見守ることにしたようです。

騒ぎの場を挟んでマヌエルとは反対側にいるニコレッタもそれに同意したようです。



ヴァレンティーナは声をかけてからクラリッサとソニアに近づきました。


先にクラリッサを見たヴァレンティーナは何も反応しません。


次にヴァレンティーナはソニアをじっと見つめました。

さらにソニアに近寄ります。

そして。


「かなしいことがありましたか?」


そう問いかけたのです。

ソニアが戸惑ったのか、違うと思ったのか、さらに問いかけました。


「ちがいますか?では、くやしいことでしたか?」


ソニアは頷き、悔しいことがありました、と答えています。



これでわかりました。

ヴァレンティーナはクラリッサの泣き声に反応したのではなかったのです。

ソニアがとても悔しい気持ちでいることに気づいたのです。


ヴァレンティーナはなぜかこういったことに敏感です。

乳児の頃からそうでした。

それはわたくしもニコレッタも経験済みのことです。


ヴァレンティーナはさらにソニアへ慰めの言葉をかけました。

これに嫉妬したのかクラリッサが喚くとヴァレンティーナは言いました。


「あなたのは、ほんきのないたのではありません」

「しょ……そにあのは、ほんきのないたのです」


本気の泣いたの。

要するにクラリッサは嘘泣き、ソニアは悔しくて泣き出す寸前だった。

ヴァレンティーナはそれを見抜いたということです。


そこにいる者たちは皆、ヴァレンティーナはクラリッサの泣き声に気づいて足を運んだのだ、と思うでしょう。

ヴァレンティーナが嘘泣きを見抜いたと知れば、洞察力に優れている、と思うでしょう。


ヴァレンティーナがソニアの強い感情に気づいてわざわざ足を運んだ、とは思いもしないでしょう。

でもそれでよいのです。



納得できないのかクラリッサが自分は被害者だと言い募ったあげくヴァレンティーナの言葉にキレたところで、マヌエルがライモンドに命じてクラリッサを会場から去らせました。

キレただけでなくソニアを陥れる嘘と嘘泣きで王族を騙そうとしたのですから、これ以上放っておいてもよいことは何もありません。

恥を晒し瑕疵が積み重なるだけですからクラリッサ本人のためにもならないでしょう。

まだ子供なのですからこのような場で叩きのめす必要はありませんし、それはこちらの本意でもありません。

教育をし直すのはその子供の親の責任です。



ヴァレンティーナはソニアを慰めようとしてか、さらに話しかけています。


まあ。

チーズケーキをぜひ食べてと勧めていますね。


これは驚きました。




ヴァレンティーナお気に入りのチーズケーキは、聖女様のチーズケーキと呼ばれるものです。

わたくしたちの先祖である聖女ミカ様が書き残してくださったチーズケーキのレシピを再現したもので、クリームチーズと生クリームをたっぷり使い、しかも焼かないケーキですから常に氷で冷やしておく必要があるとても贅沢なケーキなのです。


当時はまだ無かったクリームチーズはミカ様のために夫であるフォンタナ大公が作らせたのですが、ミカ様はケーキの作り方は知っていてもクリームチーズの製法は知らなかったため、作り出すのは困難を極めたそうです。



ヴァレンティーナが聖女様のチーズケーキを初めて食べたのは一歳の誕生日でした。

ひと口、乳母のグレタに口に入れてもらったヴァレンティーナはもぐもぐしながら目を見張ると、次はスプーンを自分で持ってチーズケーキの真ん中を豪快にすくって自分の口に入れたのです。


さらにヴァレンティーナはお祝いに訪れたわたくしたち全員に自分の手でスプーンを握り、チーズケーキをどっさりすくいとって食べさせてくれました。

もちろん、父と母にも。

スプーンはグレタが気を利かせてその都度新しいものをヴァレンティーナに渡していました。


ヴァレンティーナとしては、自分がおいしいと思ったので、みんなにも食べさせてあげたい、ということだったのでしょう。

おいしいから独り占めしたい、とならないのがヴァレンティーナらしいところです。

わたしたちがおいしいね、と言うたびにニコニコと嬉しそうに笑っていました。


それ以来、聖女様のチーズケーキはヴァレンティーナの大のお気に入りとなりました。


あちこちに穴が掘られたような無惨な姿になってしまった丸く大きな白いチーズケーキのことは今でもよく覚えています。

もちろん、とてもおいしかったことも。




きっとヴァレンティーナは自分が大好きなチーズケーキをソニアにも食べさせたいと思ったのでしょう。

どうやらヴァレンティーナは今日初めて会ったばかりのソニアが気に入ったようです。


まだしばらく様子見となるでしょうが、これは思いがけぬ収穫となるかもしれません。




パーティーはその後たいした騒ぎもなく無事終わりました。

ヴァレンティーナはたくさんの子供たちとお喋りできたことがとても楽しかったようです。


マヌエルに騒ぎのその後について聞いたところ、ライモンドはげっそりとした様子でマヌエルの元へ戻り平謝りするだけでなく、自分が代わりにソニアに謝罪すると言い出したので、代わりの謝罪に意味はない、それよりも妹が自分で気づいてソニアに謝る方がよいのだから、これを機会に成長するよう手助けしてやればよい、と言ってやったそうです。


一方、マヌエルが抜かりなく差し向けたタルティーニ侯爵家の次男ジョエレの報告によると、ソニアは無事チーズケーキを食べたそうです。

さらにソニアはクラリッサに腹を立てるでもなく、ヴァレンティーナ付き侍女になる夢が目標に変わったと決意をにじませて言っていたとのこと。



ヴァレンティーナが大好きな聖女様のチーズケーキは、ソニアにとっても思い出深いものとなったのでしょうか。



二人の出会いが聖女様のチーズケーキが結んだ縁となるのかどうか、これはとても興味深いところです。


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