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プロローグ ――その夜、私は殺されるはずだった。
絹のドレスの裾に、血が滲んでいた。
大広間に響く断罪の声。涙を浮かべた母。冷たく笑う兄。
そして――父の手によって、爵位剥奪の判が下された。
「アメリア・シェリルは、本日をもって我が家門より追放する。財産、名誉、すべて剥奪とする」
笑いをこらえていたのは、誰だろう。
それでも私は、黙って一礼した。
貴族令嬢としての最後の形式を、静かに終えた。
だが、彼らは知らない。
この身の奥に眠る“もうひとつの顔”を。
――帝国最深部、影の部隊
私は、そこで“命の消し方”を叩き込まれた者。
毒の滴りも、刃の閃きも、絹の手袋に隠してきた。
今はただの没落令嬢。
けれど――この辺境から、私は再び始める。
名も捨て、血も捨て、感情も捨てた暗殺者が、
今度は、“正義”をこの手で殺すために。
「さあ、“辺境の掃除”を始めましょうか。
……できるだけ、静かに」