愚者よ、開き直るとは悍ましい
8月某日 川に浮かぶボートや小型船舶の数も大幅に減り一時はこの三密注意の最中なのに人出がすごかった川縁の水際公園もまばらになって普段に戻りつつあった。
地方紙もこの話題で紙面の多くを占めていたが気付くと消失した話題を最後にしばらくして紙面から消えていた。少し前にあった灯籠流しの方が大きかったほどだ。
この頃になっておっちゃんは肉眼と防犯カメラの映像とでは見えているものが違うことにやっと気づいた。
おっちゃんの目には、川の水面から10メートルぐらい上空に光る何かがあるように見えている。
ネガティブに幻視だと思い込み眼科にいくか精神科に行くかで悩み始めたほどだ。
あと、ここ何日も続く幻聴も含め自分が狂い始めたか、何かヤバイ薬に手を出していたのかとも。屋外に出るとき努めて正常な隣人を演じる決心をした。
今朝も涼しいうちにとベランダに出している鉢植えのトネリコにドリップコーヒーにも使う口の細いヤカンで木には直接かからないように水をやる。
このトネリコは数年前に亡くなった木工職人の父親がいぼた蝋が取れないかと庭に植えていた木の枝を挿木で鉢植えにしたものだ。
鉢には他に100均で買ったケーキの上に飾る小さい家の模型を置いている。
撒いた水が染み込んで一箇所だけ水たまりを作った頃合いで、小さな家の戸が開き中から三人の老婆がゆっくりと出てきて水溜りの近くで糸を紡ぎ始めた。
毎朝繰り返すこの光景におっちゃんは自分の心が病み始めたのだと確信した。
テーブルの上に散らばっているギリシャ・ローマ神話をはじめ北欧神話やらケルト神話、世界的に有名なネズミがいるリゾートなどの本。
幻覚のネタ因はこれやな。
「(鉢植えのユグドラシルと運命の三姉妹だなんてな。ここは日本なのに。ベタやからわかるっちゅうねん)」
己の異常さを再確認した。余談だが、兼ねてから周囲からも変人認定はされていた。
幻聴と幻視が入り混じる幻覚に現れた非狩りの塊と話し始める。
末期である。
あと一話で終わる予定です。
※ 三美神、ノルン、ユグドラシル、トネリコ、いぼた蝋などは、ウィキペディアを参考に拙作に合わせた形にしました。本来の情報とは異なることをご了承ください。




