第六話 ~成仏~
病院の屋上。
ここからでも十分、街が見渡せる。
相変わらず、綺麗な夜空が広がっている。
「成仏するって・・どういうことだ?」
先に走りだし、自殺する前の人のように立っているシキに問う。
・・・危ねぇよ。どこに立ってんだよ。
「あなたに決心してもらうことかな。」
ふりかえったシキは、真剣な顔で答える。
「決心?」
「あなたは一人じゃない。たとえ一人でも生きていける。その決心。」
「・・どういう意味だ?」
「自分を責めすぎなんだよ。何であなたが死んだ眼みたいになってるの!」
「シキ・・?」
「私は・・私は、そんな姿見たくない。いつも通りでいいの!」
「お前・・」
あの丘の上で話していた時より、ずいぶんと違う。
冷たいほど、落ち着いてたじゃないか。
今は、あの俺を説得するような時の。
熱い熱弁をしていたシキではない。
俺に何かを伝えるために、感情的になっているようだ。
「無茶をするなよ・・私だってもう、自分でわかっているんだよ。俺は死神なんだ・・・
なんて怖いこと言わないでよ!そんなわけないじゃん!」
もうわかった。
「また・・いつものように笑ってくれたら・・」
「ごめん。」
この言葉を聞いた瞬間、シキは驚いた顔をしていた。
そして、もう。耐え切れなかったのだろう。
泣いていた。
「やめてよ・・謝らないでよ・・!」
「ありがとう。」
俺の言葉は、この二つしかなかった。
こんな、ありきたりな言葉。
俺はやっぱり、これしか伝えられない。
無くなったら、何を伝えるべきだろうなんてわからない。
だって、無くなるはずなんてないのだから。
現に俺は、思い出したんだ。思い出すことができたんだ。
このありきたりな言葉こそ、伝えるべき言葉。
一番単純で。一番心に残る言葉。
「・・え?」
「俺は・・俺には、大切な人がいたんだな。」
「・・・うん。」
「ありがとう、シキ。君のおかげで思い出せそうだよ。」
「・・よかった。」
「成仏するよ。大切な人が待ってる。」
その笑顔は何よりも優しく、初めて心の底からの笑顔だったかもしれない。
「うんっ!」
シキも笑顔でかえした。
景色が白くなっていく。
「うっ・・うっ・・」
泣き崩れるシキ。
「下を向くなよ。上を向けよ、シキ。涙がこぼれなくてすむ。」
「そ、そうだね!うん・・ぼやける星も綺麗だね」
「あぁ、ほんとだな・・」
「なんだ、光も泣いてるんだ・・」
「な、泣いてねぇよ」
「うそつき。」
シキも消えていっている。
誰だって変わらない。ただ一つの景色。
特別なんてない。同じ色。
いつもどおりは、一人一人のいつも通りがあって。
僕も、僕のいつも通りがあるんだ。
それがどんなに特別でも。
変わらない景色に、特別なんてない。
矛盾している?そんなことない。
自分の都合のいいように。
自分のせいばっかにして。
自分のいいように、景色の見方を変えてきた。
だから。
見方を変えてみればいいだけの話。
ただそれだけの話。
本当に、本当に、単純な話なんだ。
だから、単純な言葉に心が動かされて。
それでいいんだ。
「もうちょとだけ・・一緒にいたかったかなぁ・・」
「僕も・・そう思ってたところだよ。」
あ・・、また流れ星。




