第五話 ~最後の末人~
またいつもの場所に来る。いつもの病院。
俺の‘いつも‘はここから始まるのかもしれない。
いや、少なくとも俺の・・‘死神‘としてのいつもはここから始まる。
「あと10分だ。」
今回の末人は、シキと同じような年代の子。
15歳といったところだろうか。
・・・しかし、やせ細っている。
何の病気だろう・・。
いや、なんとなくわかる気がする。
「あと10分かぁ~・・むむっ・・意外と速いのかな?」
・・今回は意外と時間がある方だ。
「それにしても死神かぁ~、本当にいるもんなんだね~」
ずいぶんとお調子者なのか。
テンションが高いのは、少し関わりづらいが・・。
向こうから話しかけてくれるならありがたい。
「ほんとだよなぁ・・死神なんて俺も信じてなかったよ。」
「でも死神じゃん。」
「そうなのかもな」
「え、なにその反応。死神なんでしょ?変なの。」
俺は、死神?
本当にそうなのかなって、初めて思った。
正直、自分でも驚いていた。
変だな。
「ねぇ、ねぇ、死神さんって、名前あるの?」
「名前?・・・光だ。」
「あわなっ!明るいなぁ!」
「わるかったな。」
「あー、いやいや!ごめんごめん。意外すっ・・すぎてっ・・はははっ」
笑っていた。
その笑っている顔は、すごくかわいかった。
やっぱり、これから死ぬ人なんて思えない。
前の女性もそうだった。全然、末人なんて思えない。
末人は本当に「死を待つ人」なのか?
「全然、元気そうなのにな。」
「なにそれ、皮肉?」
「そういうわけではないけどな」
「じゃぁ、どういうわけ?」
「・・・ごめん。」
「ごめんってっ・・ははっ・・死神が謝ってるし・・!!」
「ほんとだなっ・・はははっ」
一緒に笑う。なんか、楽しいな。
こんなの、今まで初めてかもしれない。
そういえば。シキと同じくらいの年代で、末人だというのに。
誰も見舞いとかに来ていない。
棚の上には、一輪の花が飾られている。
窓から入る風に揺れている。
「見舞いには誰も来ていないのか?」
普通、花があるということは誰かが来ていると思うだろう。
でも、俺は知っている。この光景を見たことがある。
・・・どこかで、手のぬくもりを思い出した。
きっと・・
「誰もいないよ。」
「親は?」
「いるっちゃいるけどね・・見舞いは最初の一日だけ。病室が嫌いなんだって。よくいうよねぇ~」
どんな親だ。
理由があるんだろうけど、聞かない方がいいな。
でも、その花には意味があるはずだ。
「・・・その花は?」
「あぁ、これ?友達からだよ。遠い友達からね。」
「彼氏?」
少し、いたずらっぽくにいってみた。
「お、あったりー」
おぉ・・言ってみるもんだ。遠いってことは。
「遠距離恋愛みたいな?」
「そうだね。心配して、花を送ってくれたんだけど、この花。季節はずれなんだよね・・」
季節外れの花・・・。
よくわかるな、ただの花に見えるけどな。
「いやー、いらぬお世話だよねー。わざわざ遠いところから、手紙と花だけ送ってきてさぁ」
その言葉。よく聞くな。
「でも・・」
さっきまで、笑っていた顔が急になくなる。
悲しい顔ではないし・・清々しい顔というか。
俺にはよくわからない顔をしていた。
「彼なら泣いてくれる。ううん。泣かなくていい。私が死んで、少しでも悲しんでくれるだけでいい。
そうしてくれたら・・すごくうれしい。この花をもらって思ったんだ。きっと、悲しんでくれる。大切な人。
――自分を悲しんでくれるって、素敵なことじゃない?」
「す・・素敵・・?」
少し戸惑ってしまった。思っても見ない言葉が出てきたからだ。
悲しいことは、とてもいいことじゃない。
たしかに、悲しまれたことがない俺にとっては・・うれしい・・ことなのか?
それが・・素敵なのか?
できれば、悲しんでほしくないと思うのが普通じゃないのか?
‘呆れた‘
シキはそう言った。
‘泣いてくれる人だって、いる。前向きなよ・・‘
俺は、悲しんでほしかったのか?
悲しんでくれる奴なんていないとほざきながら、そんなことも気づいてなかったのか?
「あなたはいないの?そういう大切な人。」
「いるかもしれない。思い出したくないんだ。」
「なんで?」
「・・・わからない。」
「逃げてるんじゃないの?大事なことから。」
「逃げてる?」
「「大事なものこそ、近くにあるものだよ?」」
二つの声が重なる。
とっさに後ろを振り向く。
そこには、一人の少女。シキがいた。
‘ずっと近くにいたけど、いい加減答えださない?‘
最初に、シキは言った。
「君は一体・・?」
「この病院の屋上にいかない?」
「え・・?」
「そろそろ答えを聞こうかな。成仏するか、否か。」




