第10話 権限発行者・世界設計者
白石真帆の試練補正が解除された翌日。
神崎悠斗が目を覚ますと、部屋の中央に巨大な赤い文字が浮かんでいた。
《出頭命令》
「……朝から物騒だな」
時刻は午前六時十二分。
悠斗は布団の中から、点滅する文字を見上げた。
その下には、さらに細かな文章が並んでいる。
《対象者:特級レビュアー・神崎悠斗》
《発行部署:神界中央審査院》
《出頭理由:権限使用状況の監査》
《拒否権:なし》
「拒否権なし、か」
「神崎様!」
洗面所のほうから、アリアが勢いよく飛び出してきた。
銀色の長い髪は乱れ、片手には歯ブラシを持っている。
「神様も歯を磨くんだな」
「今はそこではありません!」
「神に虫歯があるのか気になって」
「ありません! 人間界の生活習慣を実践しているだけです!」
「完全に馴染んでるな」
「出頭命令です!」
「見れば分かる」
悠斗は起き上がり、赤い文章へ手を伸ばした。
触れることはできない。
指が文字を通り抜ける。
「中央審査院って何だ?」
「神々や各部署の権限行使が、神界規定に違反していないか調査する機関です」
「人間も対象になるのか?」
「本来はなりません」
「本来は?」
アリアは言いづらそうに目をそらした。
「神崎様のレビューによって、神界の運用が大きく変わり始めています」
再レビュー制度の導入。
天候管理方式の変更。
恋愛運命局の評価項目追加。
事故記録の用途変更。
奇跡管理局の部署横断検索。
商売繁盛神による評価誘導の発覚。
主人公候補の一斉点検。
悠斗がレビューを書き始めてから、まだ大して日数は経っていない。
それなのに、複数の部署で何百年、何千年と続いてきた仕組みが変更されていた。
「神界では、神崎様を危険視する声が増えています」
「問題があるなら、直したほうがいいだろ」
「神崎様にとってはそうでも、神々にとっては違います」
「何が?」
「これまで正しいと信じていたものを、突然現れた人間に否定されているのです」
悠斗は黙った。
言われてみれば、そうかもしれない。
悠斗は発生した問題を調べ、改善を求めているだけだ。
しかし神々から見れば、人間一人が神界の仕事へ次々と口を出し、運営方法を変えている。
面白く思わない者もいるだろう。
「それで、俺の権限を調べる?」
「はい」
「止められる可能性は?」
アリアはすぐには答えなかった。
その沈黙で、十分だった。
「あるんだな」
「神界規定へ違反していると判断された場合、GOD REVIEWの使用権限は停止されます」
「違反した覚えはない」
「通常の人間には許可されていない情報を、何度も閲覧しています」
「アプリが見せた」
「神々の管理領域へ介入しました」
「レビューに対応したのは神側だ」
「複数部署へ同時に改善を要求しました」
「連携しないと直らない問題だった」
「おそらく審査室でも、同じように答えることになると思います」
「正直に答えるだけだ」
アリアは不安そうな表情をした。
「神崎様」
「何だ?」
「神界では、正しいことを言えば必ず通るとは限りません」
「人間界と同じなんだな」
「……残念ながら」
悠斗は赤い出頭命令を見上げる。
「行かなかったら?」
「強制転送されます」
「準備する時間は?」
「あと十八分です」
「先に言え!」
◇
十八分後。
悠斗はスーツ姿で、部屋の中央に立っていた。
休日ではないが、会社には体調不良で休むと連絡を入れた。
神界へ行くためとは説明できない。
アリアは神界の正装らしい白い衣装へ着替えている。
普段より装飾が増え、肩から薄い青色の布が垂れていた。
「これから向かうのは、神界の末端審査領域です」
「神界そのものじゃないのか?」
「人間を神界中枢へ直接入れるには、最高神の許可が必要です」
「今回は?」
「一時的に作られた審査室までです。神界と人間界の境界に近い場所になります」
「中間地点みたいなものか」
「はい。神崎様の肉体は人間界に残り、精神と記憶だけが神界側へ投影されます」
「それ、安全なのか?」
「過去に大きな事故はありません」
「小さな事故は?」
「時間です!」
「ごまかしたな」
床に光の輪が広がる。
幾何学的な模様が回転し、部屋の景色が白く染まっていく。
体が浮く感覚。
耳鳴り。
上下の感覚が消えた。
「神崎様、目を閉じてください!」
「先に言え――」
言葉の途中で、世界が反転した。
◇
次に目を開けたとき、悠斗は巨大な白い部屋に立っていた。
窓はない。
壁も天井も、距離が分からないほど白い。
中央には黒い机と椅子が一つずつ。
周囲には、半透明の観覧席が何段も並んでいる。
席には無数の神々が座っていた。
人間に近い姿。
動物の頭を持つ者。
光だけでできた者。
巨大な目玉のような者までいる。
「見世物みたいだな」
悠斗がつぶやく。
「注目されているのです」
隣に立つアリアが小声で答える。
「特級レビューを投稿した人間が、神界へ姿を現すのは初めてですから」
「写真を撮ってる神がいるぞ」
「記録用だと思います」
観覧席の一部では、明らかに菓子を食べながら悠斗を見ている神もいた。
「娯楽じゃないか?」
「神界には刺激が少ないので……」
正面の高い席に、三柱の神が現れる。
中央に座るのは、長い灰色の髪と鋭い目を持つ老神。
左右には、書記らしい神々が控えていた。
「被審査対象、神崎悠斗」
老神の声が、部屋全体へ響く。
「前へ」
悠斗は中央の机まで歩く。
アリアも同行しようとしたが、透明な壁が二人の間に出現した。
「アリア」
「私は監視担当者として、後方から参加します」
彼女は心配そうに悠斗を見た。
「質問には、必要な範囲で答えてください」
「分かった」
「神崎様」
「何だ?」
「怒らないでくださいね」
「相手次第だな」
「一番不安な答えです……」
老神が机を軽く叩く。
「審査を開始する」
悠斗の周囲に、これまで投稿したレビューが表示された。
最初の豪雨。
電車の遅延。
干ばつ。
恋愛運命。
事故多発地点。
祈りの分類。
不正評価。
真帆の試練補正。
すべてが巨大な画面に並んでいる。
「神崎悠斗。そなたは短期間に八件の特級レビューを投稿した」
「はい」
「それにより、七部署の運営規則が変更された」
「問題が見つかったからです」
「質問にだけ答えよ」
「理由を説明しないと判断できないでしょう」
観覧席がざわつく。
老神の眉が動いた。
「人間よ。ここは神界の審査室である」
「だから何ですか?」
「そなたは審査を受ける立場だ」
「神様なら、理由を聞かずに正しい判断ができるんですか?」
ざわめきが大きくなる。
アリアが後方で頭を抱えた。
「神崎様……」
老神はしばらく悠斗を見つめた。
やがて、小さく息を吐く。
「よかろう。理由を述べよ」
「レビューを書いた案件には、実際に被害が出ていました」
悠斗は画面を一つずつ指差した。
「豪雨では、子どもが事故に遭いかけた。電車では、一人のために何千人も遅れていた。雨を止めた結果、農作物が枯れ始めた」
「結果として、いずれも改善されている」
「だからレビュー後の評価も変更しました」
「最初から高評価を付け、穏便に改善を求めることもできたのではないか?」
「問題が深刻なのに、高い評価を付けるほうが不誠実です」
「星の数は、神々の地位へ影響する」
「人間の生活より、神様の出世を優先するんですか?」
老神の両隣にいる書記神が顔を見合わせた。
「そなたのレビューにより、処分対象となった神もいる」
「問題を隠したまま評価されるよりいいでしょう」
「神々にも事情がある」
「人間にも事情があります」
悠斗は真帆の記録を開いた。
「彼女は十年間、不運に苦しんだ。候補から外れたという理由で、誰にも確認されなかった」
「一件の処理ミスだ」
「その一件が、彼女の十年です」
審査室が静まる。
「管理する側には小さな一件でも、影響を受ける側には人生全部かもしれない」
悠斗は続けた。
「だから、俺は問題を見つけたら書きます」
「その行為が、世界全体へ危険をもたらす可能性があってもか?」
老神の問いに、悠斗は少しだけ間を置いた。
「何でもすぐに変えればいいとは思っていません」
事故多発地点で、過去まで消えかけた。
真帆の補正も、単純に解除すれば幸運の反動が起きる可能性があった。
「だから、最近は先に調べるようにしています」
「最近?」
「最初は、そこまで考えていなかった」
観覧席から、驚いたような声が上がる。
「自らの判断が不完全だったと認めるのか?」
「はい」
「それでも権限を使い続ける?」
「間違える可能性があるから、使わないという話にはならない」
「傲慢ではないか?」
「神様も間違えてますよね?」
再び審査室がざわつく。
悠斗は構わず続ける。
「神も人間も間違える。それなら、間違えたあとに確認して直せる仕組みが必要です」
「それがレビューだと?」
「少なくとも、今の俺にはそう見えています」
老神は無言で悠斗を見つめた。
やがて手を上げる。
「発言記録を確認した。次に権限監査へ移る」
悠斗の前へ、新しい画面が現れた。
《GOD REVIEWアカウント》
《所有者:神崎悠斗》
《区分:特級》
《閲覧権限:不明》
《投稿権限:管理者級》
《変更前記憶保持:有効》
「管理者級?」
観覧席の神々が騒ぎ始める。
「人間が管理者権限を?」
「誰が発行した?」
「記録が空白だぞ」
老神は声を張り上げる。
「静粛に」
ざわめきが収まる。
「このアカウントには、神界の標準規格に存在しない権限が複数付与されている」
「俺も知りません」
「そなた自身が不正に追加した可能性は?」
「そんなことができるなら、今ここに呼ばれてないでしょう」
「質問に答えよ」
「していません」
老神はアリアを見る。
「監視担当神アリア」
「はい!」
透明な壁が消え、アリアが審査席の前へ進む。
「そなたは人間界で、神崎悠斗を常時監視していたな」
「はい」
「不正な権限操作を確認したか?」
「いいえ」
「神界情報を意図的に盗み出した行為は?」
「ありません」
「脅迫、買収、神への不当な要求は?」
アリアが一瞬だけ、ホクホクから送られた黄金まんじゅうを思い出したような顔をする。
「神崎様が買収を拒否した事例はあります」
「質問と逆だ」
「申し訳ありません」
観覧席から小さな笑いが起きる。
「アリア。監視対象としての神崎悠斗を、どう評価する?」
アリアは悠斗を見る。
最初に会ったとき。
★1を控えてほしいと頭を下げた。
正論で言い返され、何度も神界へ報告書を送った。
彼のレビューのせいで仕事は増えた。
各部署から苦情も届いた。
だが同時に、救われた人々も見てきた。
「神崎様は、非常に面倒な人間です」
「おい」
「細かいことを見逃さず、一度改善しても結果を確認し、問題があれば再び指摘します」
「褒めてるのか?」
「まだ途中です」
アリアは審査席へ向き直る。
「ですが、神崎様は神々を困らせることを目的に、レビューを書いているのではありません」
「根拠は?」
「評価を下げたあとでも、改善が確認できれば星を増やしています」
フェイトへの★4。
レインへの★4。
ホクホクへの★3。
「また、レビュー前に担当神へ確認し、現場の人間から話を聞くようになりました」
「最初からではない」
「はい。神崎様自身も、レビューの使い方を学んでいます」
アリアははっきりと言った。
「私は、神崎様の権限を停止すべきではないと考えます」
悠斗が驚いて彼女を見る。
アリアは監視役だ。
本来なら、神界側の立場で悠斗を管理する役目だった。
「監視担当としての意見か?」
「はい」
「私情は含まれていないな?」
「……できる限り」
「含まれてるんだな」
悠斗の小声に、アリアが横目を向ける。
「静かにしてください」
老神はしばらく考え込んだ。
「意見は記録した」
中央に、赤いボタンが出現する。
《権限停止》
老神が手をかざす。
「ただし、現時点で発行元不明の管理者級権限を、人間に保持させることはできない」
「待ってください!」
アリアが声を上げる。
「正式な不正が確認されていません!」
「不正がないことも確認できていない」
「それでは――」
「安全が確認されるまでの一時停止だ」
老神はボタンを押した。
《GOD REVIEW権限を停止します》
《実行》
赤い光が悠斗を包む。
スマートフォンに表示されていた金色の星が、ゆっくり暗くなっていく。
アリアが息をのむ。
観覧席の神々は、静かに結果を待つ。
数秒。
何も起きない。
暗くなりかけた星が、再び強く輝いた。
「何だ?」
老神がもう一度ボタンを押す。
《権限停止を実行》
今度は画面全体が激しく点滅した。
警告音。
赤いボタンが砕ける。
巨大な文字が、審査室の中央に表示された。
【管理者権限を停止できません】
老神が立ち上がる。
「解除権限を上げろ!」
書記神たちが一斉に操作を始める。
「中央審査権限では拒否されます!」
「最高管理権限へ接続!」
「接続できません!」
「発行元を表示しろ!」
画面が乱れる。
これまで空白だった項目に、ゆっくり文字が浮かび上がる。
【権限発行者:世界設計者】
審査室の空気が凍りついた。
観覧席にいた神々が、一斉に立ち上がる。
「世界設計者?」
「そんなはずはない!」
「記録に残っていたのか?」
「現在も存在しているというのか?」
アリアが悠斗の袖をつかむ。
「アリア?」
彼女の顔が青ざめていた。
「世界設計者は……神界でも、ほとんど伝説として扱われる存在です」
「創造神とは違うのか?」
「創造神は、世界を作り、管理する神です」
「世界設計者は?」
「世界を作る仕組みそのものを設計した存在」
悠斗は表示を見上げる。
世界設計者。
以前、アカウント情報に一度だけ現れた名前。
だが神々にとっても、これほど重大なものだとは思っていなかった。
「世界設計者はどこにいる?」
悠斗が尋ねる。
老神は答えない。
代わりに、審査室全体が大きく揺れた。
白かった空間が金色に染まる。
観覧席の神々が次々と頭を下げ始める。
審査席の老神も、驚いた表情で立ち上がった。
「最高神の御出座だ」
部屋の奥に、巨大な扉が出現する。
白と金で作られ、中央には星と世界を表す紋章。
扉が静かに開く。
その向こうから、一柱の神が歩いてきた。
長い白髪。
白いローブ。
背後には、いくつもの光の輪。
穏やかな顔をしているが、その瞳には長い年月を生きた者だけが持つ深さがあった。
創造神ノヴァ。
神界運営の最高責任者。
「ノヴァ様」
アリアも頭を下げる。
悠斗だけが立ったままだった。
「頭を下げなくていいのか?」
ノヴァが悠斗へ尋ねる。
「必要ですか?」
「いや」
ノヴァは少し笑う。
「世界設計者に選ばれた人間なら、その程度でよい」
「選ばれた?」
「まだ確定ではない」
ノヴァは審査席へ視線を向ける。
「権限停止処理を中止せよ」
「しかし、ノヴァ様」
「そなたらの権限では止められぬ」
「世界設計者の権限が、なぜ今になって人間へ?」
「それを調べるために、私が来た」
ノヴァが手を上げる。
悠斗のアカウント情報が、さらに展開される。
通常は隠されていた項目。
暗号化された権限。
神界の標準規格では読み取れなかった文字が、一つずつ翻訳されていく。
《特級レビュー》
《変更前世界記憶保持》
《管理部署横断閲覧》
《改善命令提案》
《神界運営監査》
「運営監査?」
観覧席から動揺の声が上がる。
人間一人に、神界の運営を監査する権限が与えられている。
さらに、最後の項目が表示された。
文字が現れた瞬間、ノヴァの表情から笑みが消えた。
【最終世界評価権限:有効】
審査室から、すべての音が消えた。
「何ですか、それ」
悠斗が尋ねる。
ノヴァはすぐには答えなかった。
老神も、アリアも、観覧席の神々も、意味を理解できていないようだった。
「私も、実際に見るのは初めてだ」
「創造神でも知らない?」
「言葉だけは古い記録に残っている」
ノヴァは悠斗を見つめる。
「世界設計者は、神々が正常に世界を運営できなくなった場合に備え、最後の判断者を用意したとされている」
「最後の判断?」
「世界の運営を継続するか」
ノヴァの声が低くなる。
「修正するか」
金色の文字が強く光る。
「あるいは、終了させるか」
「終了?」
「文字どおりだ」
悠斗は、自分のスマートフォンを見る。
これまで何度も押してきた五つの星。
神々への評価。
世界の改善。
その先に、世界そのものを評価する権限が隠されていた。
「俺に世界を消す権限があるってことですか?」
「現時点では分からない」
「さっき終了させると言ったでしょう」
「古い記録の解釈だ。実際の機能も、発動条件も不明だ」
ノヴァは悠斗のアカウント情報を閉じる。
「世界設計者は、神々より古い」
「今もいるんですか?」
「いない」
ノヴァは即答した。
「少なくとも、我々の記録では」
「死んだ?」
「存在を確認できなくなった、というのが正確だ」
「いつから?」
「神界の現在の運営体制が始まるより、はるか以前」
それなのに、その存在が今になって悠斗へ権限を発行した。
事故の瞬間。
豪雨と信号機の故障に巻き込まれたとき。
悠斗の前にGOD REVIEWが現れた。
偶然ではなかったのかもしれない。
「どうして俺なんですか?」
「それも分からぬ」
「世界設計者に聞けない?」
「聞けるなら、とっくに聞いている」
ノヴァは背後の扉へ向かう。
数歩進んだところで、振り返った。
「この審査領域では、これ以上調べられない」
「神界の中枢なら分かる?」
「世界設計者に関する最古の記録は、神界中央記録庫に封印されている」
「なら、見せてください」
観覧席から、反対の声が上がる。
「人間を中枢へ入れるなど!」
「禁則に反します!」
「管理者級権限を持つ者を自由にさせるのか!」
ノヴァが一度視線を向けただけで、声は止まった。
「自由にさせるとは言っていない」
創造神の周囲に、いくつもの光の輪が現れる。
「神崎悠斗」
「はい」
「そなたの権限は、もはや人間界だけの問題ではない」
悠斗のGOD REVIEWに、新しい通知が表示される。
《神界中枢への一時入域許可》
《発行者:創造神ノヴァ》
「世界設計者が、なぜそなたを選んだのか」
ノヴァの瞳に、警戒と興味が同時に浮かんでいる。
「最終世界評価とは何なのか」
神界の扉が、さらに大きく開く。
向こうには、白い塔が立ち並ぶ巨大な都市が見えた。
空には無数の光る道。
世界を映す巨大な球体。
祈りや運命を運ぶ星のような光。
これまで悠斗が見てきた神界の一部署とは、規模が違う。
「君には一度、神界まで来てもらう」
ノヴァが告げる。
次の瞬間。
悠斗のスマートフォンに、金色の文字が浮かび上がった。
《新しい審査対象を検出しました》
《対象:神界運営機構》
《現在の評価:未評価》
五つの空白の星が、静かに並ぶ。
☆☆☆☆☆
悠斗はその画面を見つめた。
これまで評価してきたのは、一柱の神や、一つの部署だった。
今度の対象は、神界そのもの。
世界を運営する、すべての神々。
「……ずいぶん大きなレビューになりそうだな」
誰にも聞こえないほど小さく、悠斗はつぶやいた。
だが隣にいたアリアには、しっかり聞こえていた。
「神崎様」
「何だ?」
「お願いですから、神界へ着いてすぐ★1を付けないでくださいね」
「中を見てから決める」
「その答えが一番怖いんです!」
アリアの声が、白い審査室へ響く。
観覧席の神々の間に、再び動揺が広がった。
神界を評価できる人間。
世界設計者に権限を与えられた、最後のレビュアー。
神崎悠斗が、初めて本当の神界へ足を踏み入れようとしていた。




