9 夜のラウンジ
俺は灯りを落としたラウンジでベンチに腰かけていた。電力の心配はないのだが、昼夜がある惑星なので、無駄に眼が冴えないように夜は灯りをつけないことにしたのだ。いくつかの小さな灯りで真っ暗ではない。
俺は眠れなかった。睡眠導入剤は使いたくない気がした。フーユに不信感を抱いているせいだろうか。ホットミルクをちびちびとすすっている。
なぜこんなことになったのか。考えてもしようのないことを俺の頭がぐるぐると考えてしまう。
ラウンジのドアが開いた。
「あれ? 隼人くん?」
下着姿の丸川鈴が寝ぼけ眼をこすった。
飛び道具の名手だ。小柄でショートカット、体型はパランスがとれていて胸もそこそこ。裸足で歩いてくるその白い身体を眺めながら、こんな時刻にどうしたのかと思うばかりだった。
「眠れないの?」
「ああ。鈴は?」
「わたしは喉が渇いちゃって」
鈴はフードマシンに歩いていく。小さな下着に包まれた丸いお尻を目で追いながら、コーヒーを頼んだりしなけりゃいいが、と妙な心配をするばかりだった。
「早く寝なよ?」
なにを頼んだか知らないが、カップを手に鈴は寝ぼけ眼のままラウンジを出て行った。
ほとんど間を置かず入ってきたのは鈴より背の高い、やや赤っぽい髪をしたスタイルのいい下着姿の美人女子だった。
「あれ? 隼人、こんなとこでなにしてんだ?」
ハスキーボイスで声をかけてきたのは桐原茜だ。言動は男っぽいというかがさつというか、そんなタイプだが、スタイルはめちゃいい。日菜子ほどではないが大きな胸に引き締まったウエスト。形のいいお尻はこのクラスで一番だと思うが、それはあくまで芸術的な視点を持って感じることだ。
「ちょっと眠れなくてな。茜は?」
「あたしもそんな感じかな」
茜はフードマシンに歩いていくが、どんな格好ですごしていたのか、パンツの片方の裾が大きくまくれてお尻が半分丸出しだった。そんな格好では風邪をひくと心配するぱかりだ。
「お尻が半分見えてるぞ」
「おっと、サンキュー」
茜は平気な様子でパンツを直した。
「ありゃ、ソフトドリンクぱっかだ」
なにを飲もうと思ったんだ。
「隼人はなに飲んでんの?」
「ホットミルクだ」
「ちぇっ、あたしもそれにするか」
茜はカップを持って俺の隣に座った。いい匂いが漂ってきて、茜が行方不明になった時はこの匂いで追おうと、覚えるために鼻で息を大きく吸い込んだ。
「あ、そうそう、隼人は地形データだろ?」
「そうだ」
「ペア、決まってるのか?」
「あ、忘れてた」
「あはは、じゃあ、あたしと組もうぜ」
「いいとも」
「おっし! それじゃ明日に備えて早く寝るぞ!」
ホットミルクを一気飲みした茜が素早く立ち上がった。胸とお尻が大きく揺れて、そういえばこの星の重力は地球と大差なかったなと思い出した。
俺も立ち上がり一緒にラウンジを出た。眠れるといいんだが。茜の形のいいお尻を見送りながらそう思った。
『隼人、頼む』
俺は茜のスーツを引っ張り上げて、スーツが身体にフィットするよう揺すった。うまくお尻に、きゅっと食い込んだようだ。
『サンキュー。隼人は?』
「頼む」
スーツの調整を済ませた俺たちは予定を確認しあった。
『シュドメルでドローンを撒くんだよな。何個?』
「二百持っていく」
『了解』
ドローンは放っておいてもどこまでも飛んでいくが、速度が出ないのでシュドメルで遠方に放つのだ。およそ二〇〇キロごとに六機放つ予定だ。この星を六角形の仮想ヘックスで区切ってその中心で撒くことになる。
オートでの散布も可能だが初めての探査だ。人の眼が必要だったりなかったりする。なにかあった時のためにバイアクヘーの小型版ともいえるビヤーキーを一台積んでいる。基本一人乗りだが、タンデムシートにもうひとり乗ることができる。
『バイアクヘーとビヤーキーって英語表記すると同じだよな?』
「ああ。英語圏のやつらが、紛らわしい! って文句言ってたな」
『それでいいのか?』
「いいんだ」
俺と茜を乗せたシュドメルがスサノオ三号を飛び立った。遥か下方、スサノオ三号の近くの地表は自動ブルドーザーで整地されている。外にも施設を建設する予定なのだ。
俺たちの受け持ち区画は北西だ。シュドメルをその方向に向ける。
「行くぞ、茜!」
『ヤッホー!』
ヤッホーは最近流行の若者言葉だ。いや、千年前の流行か、などと思いながら、俺はシュドメルの速度を上げた。