第8章 第6話 『三兎を得る者』
20200228公開
もし、いきなり身長が2㍍20㌢から2㍍40㌢くらいの巨漢が、その身長ほどの大剣を持って目の前に現れたら、どういう行動を取るだろうか?
何故か手に持っている槍で刺す?
残念。その槍は真上に向けているので、すぐには使えない。
ならば石突で殴る?
残念。石突を跳ね上げようとしたら槍が後列に当たって、途中で止まってしまった。
正解はあっさりと斬られる、だ。
俺という殺戮機械を槍衾の中に入れた段階で、槍衾の利点はほぼ消えてしまう。
密集隊形故に、自由に槍を振るえないからだ。
実際の生身ならば、抱き着いて来たり、押し寄せて数で圧倒したり、その身体を味方の盾にしたり、斬り伏せられても死体が足元に残るので、俺の機動力や行動の自由度を大きく削ぐ事が出来ただろう。
だが、残念ながらゴムルの場合、致命傷を受けたら白いエフェクトを撒き散らして消滅してしまう。
結果、窮屈ながらも俺が大剣を振り回せる空間が常に空く、と云う状態が続く訳だ。
うん、悪夢だな、相手側にすれば。
前に居た戦友が消えたらいきなり怪物が目の前に居る様なもんだからな。どんな怪物かは想像に任せる。
ヒントとしては、敵のゴムルから『化け物』とか、『死ね』とか、『来るな』とか、『押すな』とか、『聞いてない』とか、『卑怯だ』とか、『有り得ない』とか、そんな言葉が聞こえて来た。少なくとも歓迎はされていないな。
まあ、それでも、俺のゴムルの体高が高いせいもあり、後列からでも見えるので、実際には俺による完全な不意打ちでは無い。
だから、密集状態でも何とかして槍を突き出して来るゴムルも存在した。
1対1なら真正面からしか来ないので問題は無いんだが、戦場ではあちらこちらから突き出される。
通常のゴムルなら捌き切れなかったと思うが、俺のゴムルは視野が広い。
頭形兜で隠されている筈の死角でさえ見えている。
おかげで、顔面と喉、脇下と云う大きな急所を晒しているにもかかわらず、受けた損傷は兜の錏の小さな傷くらいだった。
とは云え、十分に訓練されたゴムル遣いと云う事は分った。
兜の錏の小さな傷も、連携して突いて来たので流石に躱し切れなかったからだ。
流石に戦い慣れていると思う。
突撃してから体感で2分か3分ほどすると、いきなり敵の隊列が崩れた。
俺のゴムルに背を向けて逃げ出したのだ。
ああ、気が付けば敵の横陣の最後列に達していたのか。
ほんの少し遅れて、カシワール郡のゴムルたちが敵陣を食い破って来た。
これで幅5㍍以上の大きな風穴が出来た。
後続の足を止めない様に早足で前進を続けながら、状況を把握する為に質問をした。
『状況報告を!』
『第1陣、消失4、中破10、小破9です!』
『中破したゴムルは召喚解除。後日来るかもしれない敵の反撃に備える』
『は! 徹底します』
『召喚解除するゴムル遣いには追加任務として、消失したゴムル遣いたちを労わしてくれ』
『了解です』
士気が高いのは良いのだが、反面、ムキになり過ぎてしまうゴムル遣いも出て来る。
戦力の低下は痛いが、消失と中破では、この先の継戦能力に大きな差が出る。
報告と命令のやり取りの間も、周囲の状況を把握する為に視界をチェックしていた。
前方真正面150㍍程先に敵の本隊が布陣している。
大慌てで方陣に切り替え中だ。
これから集合してからでは陣替えの完成前に間に合わないか?
左右から、大隊単位と思われる50騎くらいの部隊がそれぞれ5~6隊ほど迫って来ている。
よし、第2陣から第4陣に任せよう。
全部隊揃って敵本隊に突撃する手も有るが、それでは後続の部隊が横撃を受ける。
左右でそれぞれ250騎ほどから横撃を受ければ、さすがに足が止まるので、戦力の集中を手放してでも迎撃に回さざるを得ない。
横陣に留まっている敵のゴムルは、こちらが再度の突撃をする可能性に備えて、その場で回れ右をして再び槍衾を展開している。
まあ、手を出して来ないのなら構わないが、状況次第では攻めて来るな。
迎撃部隊の機動次第では挟み撃ちを目論むだろう。
『第2陣を右から迫る敵部隊に、第3陣は左から迫る敵部隊に当てよう。第4陣と第5陣は偶数奇数同士で援護を。横陣との挟み撃ちに留意して迎撃をする様に伝達。第6陣と殿はこのまま第1陣と合流後に敵本隊に突撃を掛ける』
『了解です』
歩く速度より少しだけ早い程度の早足に緩めて、第6陣と殿を待つ。
合流した時点で敵本隊まで100㍍ほどに迫っていた。
相変わらず矢による攻撃はまばらだ。
まあ、ある意味、考え方の違いだな。
弓兵に回すリソースを槍兵に注力した方が単純な戦力は伸びる。
だが、弓兵を増やす事で戦術の幅が広がる。
遠距離から削れる武器は、嵌れば槍兵にリソースを注ぐよりも更に大きな戦力増加に繋がる。
それを最大限に引き出すようにしたのが3つの砦だ。
俺は進路を敢えて、方陣の角の部分に向けた。
普通、横陣にしろ、方陣にしろ、部隊をバームクーヘンの様に積み重ねる。
訓練も当然、そう云う風な配列で行う。
だが、それを崩されたら?
左右に配置されているゴムルが、いつもの戦友と違うなら?
統制や連携が取り難くなるだろう。
だから、真っ先に角を削る。
『左側面にベテランを配置! 敵の角を削る!』
『了解しました!』
ドラド中隊長は即座に俺の意図を汲み取って、後続部隊にも指示を出してくれた。
こちらの意図が分からずに迎撃したナニワント本隊だったが、槍衾の圧力はさっきの前衛よりも弱かった。
削り取った三角形は隣辺が5㍍近い直角三角形だった。
晒された斜辺は7㍍。
ぐるりと回った後、加速しながら、その斜辺に直角、すなわち中心目掛けて突撃を掛ける。
目論見通りに、さっきよりも抵抗は弱かった。
最終的なナニワント側の消失ゴムルは、参戦した3000騎の内の800騎に及んだ。
本当ならば、もっと戦果を上げることは可能だったが、世の中はそこまで好都合に出来ていない。
戦闘の不利を悟ったナニワント側が途中でゴムル召喚を解除して、本陣丸ごと逃走に走ったからだ。
まあ、こちらとしては、戦略的にも戦術的にも情報戦的にも、完勝と言って良い戦果を上げれたので良しとしよう。
『二兎を追う者は一兎をも得ず』と言うが、三兎も得たのだから。
お読み頂き、誠に有難う御座います。
第8章読了記念に、もしも時間が10秒ほど空いているならば、この拙作の評価をしてみませんか?
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参考1:評価は読み進めて行くうちに上げたり下げたりと修正可能です。
参考2:現時点でこの作品は39名様に評価を頂き、
文章評価161pt(平均4.12pt)
ストーリー評価161pt(平均4.12pt)
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P.S.
まあ、最近連続で1:1評価を貰っているので、正直なところ、評価ptにはがっついていません。
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