第8章 第5話 『激突』
20200227公開
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と或る39歳の男性の独白
「サカイリョウ郡のゴムル、依然、動き有りません!」
「了解した」
サカイリョウ郡のゴムルが変な動きをしないかを見張らせていた部下が報告してきた。
ゆっくりと近付くカシワールのゴムル部隊から目を離し、ゴムルの視界と自分自身の視界の両方で、サカイリョウ郡のゴムルが布陣する左側の方を見た。
俺たちの大隊は、前衛部隊の左翼の端の方に配置されているので、サカイリョウ郡の連中の動向が良く見える。言い換えれば、いざとなった時には、奴らを食い止める役に早変わるという訳だ。
ありゃあ、この戦では動かないという意思表示だな。
いけすかない督戦隊が鞭を振るって、ゴムル遣いを打ち据えているが、効果は全く表れていない。
ゴムル同様に、ゴムル遣いも片膝を突いて、不動の意思を表している。
これだから、支配下に置いたばかりの戦力を当てにするのは嫌なんだ。
これまでも、散々期待を裏切られて来たからな。
まあ、中には将来の立場を少しでも良くする為に死に物狂いで戦う奴らも居たが、そいつらはどちらかというと小さな国や弱小な郡出身の連中が多かったな。
そういう俺も、元小領の領主故に死に物狂いで戦って、今の大隊長という地位を得たんだが…
元が大国で、支配下に置いたばかりのサカイリョウ郡のゴムル遣いには、中途半端な忠誠心が残っていてもおかしくない。少なくとも奴らの祖国に対する忠誠心は本物だった。
まさか、小さな国旗1つで、ここまで戦力外にされるとは思ってもみなかったがな。
「大隊長、本隊が動き出しました」
後方に布陣している本隊の動向を見た副官が新たな報告をして来た。
「どっちに動いている?」
「右に陣地転換をする様です」
「左には動けんからな。俺たち右翼の陣の真後ろに動くんだろうよ」
「本隊はやる気、という事ですね?」
「ふん、3倍以上の戦力差が2倍になっただけ、とも言えるからな。数で有利なのは変わらないと判断したんだろう」
改めて、カシワールのゴムル部隊の観察に戻る。
どう見ても、先頭には金色のゴムルが居る。
両隣のゴムルが胸の高さまでしかないので、大人と子供の様な体高差だ。
装備している鎧兜も、俺の記憶には無い異質な形状だ。
「しかし、一目見ただけで、ヤバそうな奴、と分かるゴムルは初めてだな。中央付近に布陣している同僚連中に同情するぜ」
「でも、金銀4騎の内、1騎だけ、というのは、さすがに我々を舐め過ぎじゃないですか? 集中的に狙われて、あっさりと消失するんじゃないですかね?」
「マツバルの戦で、アレと直接戦った中隊長を知っていてな、その時の話を聞いたんだが…」
中隊長への昇進と共に異動になった元部下の、憂鬱そうな顔を思い出した。
一時はマツバル郡への侵攻失敗の責任を取らされそうになったそうだ。
「アレは10歩(約7㍍)以内に近付けたらダメだそうだ。間合いが遠い上に踏み込みも速い、らしい。何も出来ずに1撃でやられた、と言っていた」
「それじゃあ、槍密林を組んでいても止めれないって事ですか?」
「さあな。それはこれから分かるさ」
その結果が俺たちに悪い影響を及ぼさなければ良いんだがな。
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さて、本陣の前進も、これが最後だ。ナニワントのゴムルの横陣から500㍍強と云う位置だ。
この距離なら、敵の本隊が後退してもある程度は追撃が可能だ。
俺が先頭を務める第1陣は278騎になる。
カシワール郡の58騎、アーデルヘルム・ダン・ロッゴ中隊長率いるサカイリョウ国近衛中隊10騎、ちょい悪オヤジ率いるカシバリ郡の90騎、フェリックス・ダ・ハビキドル氏率いるハビキドル郡の120騎だ。
ロッゴ隊長は役目上、先陣に加わるのは仕方ない。
だが、ちょい悪オヤジとフェリックス氏は熾烈な先陣参加権獲得競争に打ち勝っての参陣だ。
いや、何故、みんな、あれだけ熱心に先陣に参加したがったんだ? と云うくらいに壮絶な争いだった。
まあ、士気が高い事は良い事なんだが、ちょっと引いたのは内緒だ。
おかげで、ハビキドル郡の残り300騎は殿の第7陣になってしまった。
第2陣から第6陣までは旧東カシワール軍が担う。
それぞれが大体200騎前後だ。
俺を先頭にした第1陣が突破口をこじ開けて、その突破口を維持する大事な役割だ。
もし、第2陣以降が上手く続いてくれなければ、最悪の場合は第1陣が孤立してしまう。
まあ、技量的にはカシワール郡のゴムル遣いよりは劣るが、それでも俺たちの中隊との訓練でメキメキと腕を上げて来たので信頼はしている。
「さすが大将だな。緊張も興奮もしてねえな」
ちょい悪オヤジが声を掛けて来た。
彼が率いるカシバリ郡のゴムル部隊は、先頭を行くカシワール郡部隊の後ろでサカイリョウ国近衛中隊10騎を囲むように布陣する。
突進力は俺次第な所が有るが、敵陣に対する衝撃力を維持する為には重要なポジションだ。
「ここまで来たら、後はやる事をやるだけですからね」
「違いねえ」
「さあて、そろそろ行きますか。ドラド中隊長、全部隊に10脈(約10秒)後に突撃開始と発令」
「了解しました」
10秒を頭の中で数えた後、長剣を大きく上に掲げた後、ゆっくりと走り出す。
俺のゴムルは他のゴムルよりも足が速い。
普通のゴムルでは、1分間持続可能な速度が時速20㌔程だ。男子マラソンくらいの速度と言えば分かり易いか。
対して、俺のゴムルは100㍍走の速度に達する。
まあ、現代の車両に比べれば遅いのだが、歩兵と比較して考えるととんでもない機動力と言える。
実際、普通科の隊員が戦闘装着セットと戦闘防弾チョッキを装着した状態で演習場を駆ける時、せいぜい時速10キロくらいだろう。
その2倍くらいの速度で駆けられるのだから、巨体の機動力としては結構なものだ。
刈り取った後のムギルの根本が残る畑を、靴の貫が独特の足跡を付けて駆けて行く。
それにしても、いちいち後ろを振り向かなくても、後続の動向が分かるのはありがたいな。
今のところ、第1陣で遅れている部隊は無い。
体高が高いおかげで、第2陣以降の動向も分かるが、問題無さそうだ。
敵の最前列まで残り100㍍を切った。
パラパラと矢が降って来たが、全く脅威にならない。
弾幕が薄過ぎる。
敵の最前列は日本の戦国時代でいう槍衾を組んでいる。槍の長さはゴムルとの対比で5㍍と言ったところか?前列2列が槍を構えている。3列以降は斜め前に構えている。1列目と2列目で受け止めて3列目が上から槍先で叩く戦法だろう。
西洋のファランクスは大盾と長い槍を組み合わせていたらしいので、槍の短さと盾を持っていない段階で防御力は大したことが無い。
残り30㍍で少し速度を上げる。
残り20㍍を切ったが、見える範囲のゴムル全部が俺を見ている。
いや、注目を浴びるのは予定通りなんだが、何故か照れてしまうな。
残り10㍍でフェイントを入れる。
一瞬だけ、減速を入れる。
それに釣られて、真正面のゴムルが思わず槍を繰り出した。
俺のゴムルが巨体過ぎて明らかに距離感が狂っているせいだ。
周りのゴムルも続いて槍を繰り出したが、全く統制が取れていない。
一気に加速して、勢いを殺さずにジャンプして繰り出された槍を軽く踏みつけて安全な空間を生み出した。
今、俺のゴムルと敵の最前列及び2列目までの間には、何も脅威が無い。
誤ったタイミングで槍を突き出してしまったからだ。
第1列と第2列のゴムルの首を刈る様に長剣を広い範囲で横に薙ぐ。
刎ねられた首から白いエフェクトを撒き散らしながら霧散するが、ほぼ同時に胴体も霧散した。
これで、呆然としている第3列までの障害が消えた。
飛び込んだ勢いのまま、呆然としているゴムルにぶつかったが、吹き飛ばされたのは相手側だ。
こちらの自重が相手の2倍を軽く超えて、時速30㌔台半ばで激突したんだ。
当然の結果だ。
大きく開いた穴に、後続が飛び込んで来た。
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