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イン・ジ・アイランド  作者: ハルヤマノボル
22/40

㉒君には私の言っていることが分かるかい?

 沈黙が空間を支配していた。叔父さんがこの状況になるように仕組んでいたことが信じられず何も言えずにただ立ち尽くしていた。入嶋は立ち尽くしか出来なかった。不意にこれまでの出来事が頭の中で再生される。音を持って再生されたその記憶の全てが叔父さんの意図通り進んでいたとしたら、ここで言い返すことや反対することさえも読まれているんじゃないか。つまり‘本物のゲイル’に会って救世主になる他ない。地に足が着いていることを確認しながら入嶋は何かを決心したように目つきを変えた。

「博叔父さん、わかったよ。救世主、やってみるよ」

 ダリアはその意思に驚いたのか目を丸くし、すぐさま隣に立つ博を見た。彼女の目に映ったのは甥の決意を確かに受け取った男の顔であった。

「ついてくるんだ」

 叔父さんはそう言い放ち、二人に背を向けて廊下の先に進み始めた。その小さくなった背中からは威厳が満ち溢れ、入嶋はそれに強い信頼感を憶えた。



 地下通路の最奥にあるその部屋は四隅が分からなくなるくらいの白色で輝いており、その中央に円柱状のカプセルが横たえられていた。照明は柔らかにそのカプセルを中心に部屋中を照らしており、地下ではないような違和感を覚える様相であった。

「忠くん、この中央に居るのが‘本物のゲイル’だ」

 叔父さんはカプセルに向かって進みながらそう言った。言葉にしがたい緊張感が全身に走った。ゾンビアという非情な人型兵器を造り上げて世界を揺るがそうと企んでいた本人がそこにいる。

 カプセルを覗くと中では四肢を機械で固定された状態で仰向けに眠っている老体の姿があった。その目は安らかで、今にも遠い世界へと旅立っていきそうな雰囲気を感じた。どう考えても世界を憎んでいたような男には見えなかった。

「彼の名前はトーマス。素晴らしい男だった」

 叔父さんはそう言ってカプセルの横に設置されたパネルを触りだした。

「忠くん、彼との対談の時間だ。これを頭にはめてくれ」

 入嶋は博からてらてらと怪しい光を放つヘルメット状の帽子を受け取った。

「あとそのメガネは外した方がいいな」

 どうやら彼と対話するにはテレパシーを用いる他ないようだ。

 怪しげな帽子を被り、メガネを外した瞬間、頭に向かって圧力を受けているような感覚を受ける。その鈍痛に思わず顔をしかめる。それと同時に意識が遠のくような気がした。



『ようこそ。初めまして、私がトーマスだ』

『声が聞こえる。あなたが‘本物のゲイル’のトーマスですか?』

『そう呼ばれるのは久しい。その通り私が‘本物のゲイル’であり、この島の不幸を生み出してしまったトーマス本人だ』

『その自覚はあるんですね』

『もちろんだ。さて、世間話もこの程度にしよう。この思念による対話は君の脳に強い負荷を与えてしまう』

『これはテレパシーなんですか』

『テレパシーの型になったものとでも言おうか。簡単に言うと君の脳を無理やり私の脳と同期させて対話を成立させている』

『あの圧迫感はそれが理由なのか』

『その通りだ。現に君は今気を失った状態にある。それでは本題に入ろう。私の負の遺産とアレクセイの野望を同時に止めるにはどうすれば良いか、だったかな』

『はい、でもその前にさっきから仰っている負とはどういうことなんです?』

『簡単なことだ。私は世界転覆など元々興味が無かったのだ。小さな過ちが次第に大きくなった結果がゾンビアを生み出してしまった。少し昔話をしてもいいか?』

『構いません。いえ、むしろ聞かせて下さい』

『先に言っておくがいい話ではない。私の研究チームはこの島で原子力実験を行いそして失敗した。漏れ出した放射線は周囲の海域までも汚染してしまい、この島は文字通りの死の島と化してしまった。それでも私たちは生きていた。常に最悪のケースを想定して実験に望んでいたからだ。私たちは放射能汚染を自浄する機構を稼働させて時間をかけて島外へと出る算段をつけた。そしてそれは年月をかけて達成できた。万が一を想定して私以外は潜水艦に乗り込み島外へ、それぞれの母国へと帰ろうとした。私はひとり島に残り、彼らの知らせを受け取れるよう衛星から連絡を受信できるように待機していたのだ。さて、君は何が起きたと思う』

『もしかして連絡がなかった、とか』

『いや、残念ながら連絡はあった。しかしそれは不幸の知らせだった。彼らが乗った潜水艦は世界によって沈められたのだ。私たちは実験の失敗で亡くなり、その貢献は讃えられ続ける。それが世界の意思だったのだ。わかるかい?私たちは世界によって殺されたのだ』

『つまりそれがあって世界を恨むようになったというのですか?』

『その通りだ。私たちは生きていた。また日の光を夢見て、家族との再会を待ちわびていたのに世界はそれを望まなかった。あの頃は本当に世界を恨んだ。そして人間のようで人間ではないもので世界を滅茶苦茶にしてやろうと思った。それがゾンビアの始まりだ』

『上手く言えませんが、トーマスさんを批判する気になれません』

『君は面白いことを言う。確かに私は絶望の淵から私怨を持って生まれ変わった。人のようで人ではなかったのは私自身だった。難民の話を持ち掛けたのは私だ。世界に味方するふりをして裏切るつもりだった。だが難民や研究員と会うことで私の心は変化した』

『変化?』

『そうだ。難民たちは世界のごく一部の人間によっていいように扱われたのにも関わらず、この島での新たな生活を楽しんでいた。また研究員たちも母国から必要とされなかったという悔しさの中、この島での新たな使命を果たすべく研究に没頭していた。死んでないのに死んだことにされた私は、死んだことにされた人間たちに生を与えることになってしまった。気づけばそれが私の新たな使命になっていた。さて、君には私の言っていることが分かるかい?』

『はい。しかしその意思があるにも関わらずなぜゾンビアの開発を止めなかったのですか』

『いや、わかっていないようだ。開発を止めるということは研究員たちをまた死んだ状態に戻してしまうのと同義だ。ゾンビアが完成したとしてもこの島から出さなければいい。島外からの脅威に対する自衛として残せばいい。研究員にとって自分たちの捧げたものが白紙に戻ることは死ぬことと同じくらい苦しいことだ』

『すみません、理解できていませんでした』

『別に謝るようなことじゃない。さて、昔話はこのくらいにしてこれからのことを考えよう』

(筆者のひとこと)

何というか舞台となった島のバックグラウンドが明らかになりましたね。後半セリフしかないのは意識が繋がっているという「設定」のせいです。意図的にそうしています。


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