前置き倉庫
(お題:肌寒い死刑囚)
時間がない、前置きは飛ばそう。
そういうわけで、俺は殺しを依頼された相手の目の前に立っていた。まあ厳密に言えば、目が無いから目の前とはいえない。相手の目玉は潰してあるからだ。目玉の代わりに眼窩から釘を生やして、呆然と佇んでいる。
準備した策は、すべて遂行した。それらはすべて前置きに書かれていたことだが、便宜上カットした。とにかく、二日間かけてした準備が報われたわけで、俺はそのことにまずホッとしていた。
で、問題はこの男がどれだけ頑張っても死なないところにある。それは前置きで言われなかったことだ。俺が準備して殺しを成功させるだけならただのサクセスストーリーであって、例えば救いようのないアホがいてもそいつを題材にして教育物語を書くと100%解決するし、主人公が死ぬか死なないかヒヤヒヤするような物語を見ている時に、続編のトレイラーでそいつがピンピンしていたら、その物語でその主人公は死なないことが確定してしまう。まあつまり、殺しが成功したなら前置きですべて片付けてしまうし、わざわざここに紡がれる必要がないというわけだ。
だから俺は殺しに失敗するのかと訊かれたら、必ずしもそうじゃない。いや、分からない。だって、まだ俺はこいつを殺していないし、残り時間は数分残っているわけで、タイムアップした後では俺は生成されないわけだから、そいつに成功したか失敗したか訊くことはできない。
さしあたり、俺は眼窩から釘を抜いてやって、喉仏に刺してみた。持ってきたトンカチでガンガン叩くも、グラグラ揺れるだけで倒れる気配がない。
殴る蹴るとか言うものは今まで散々やったが、どうもイライラするのでどうしてもやってしまう。むこうずねを蹴っ飛ばしても、頭を蹴っ飛ばしても、脇の下に手を突っ込んでも相手は何も言わない。仕方ないのでもう一本釘を抜いて、今度は肛門に突っ込んでみる。……なにも起こらなかった。
さあどうしよう。残り時間がだいぶ差し迫ってきた。俺はこいつをどうやって殺そうか?
俺は狭い部屋の中をうろうろする。たまにこうすることで、部屋が広がったりするのだが、今回はそんなミラクルが起きない。なにせ、いまは午前三時を回ったところだ、さっさと寝たいところなのに、こいつが死んでくれないから寝付けないし、画期的なアイデアも閃かないのだ。
喉に釘を刺されても、肛門に釘を刺されても、四肢をもがれて去勢もされて心臓は風穴だらけ脳みそは露出してるのに、呼吸が続いてるやつをどうやって殺せというのだ。脊髄をニッパーで切断してもうんとも言わない。やれやれ、見てるこっちが肌寒くなる。死ねない死刑囚というのはどんな気分なのだろう。
あーあ、いざというときのためにTNTでも持ってくればよかった。木っ端微塵にすれば流石に死ぬだろう。
いや、ちょっと待て。まあそりゃ粉々になりゃ死んだと言えるだろうが……じゃあこの、人体模型みたいな感じになったこいつは生きているっていえるのか? 医学的に、心臓が血を送っていなくて、脳みそが信号を送ってない身体を生きていると言えるのか? 息をしているだけで何も言わないコイツが?
そう考えると、俺はもう仕事を達成したといえるかもしれないし……逆に、絶対にコイツは殺せないのかもしれない。粉々にしても、息をしていたらそいつは生きていることになるんだろう? じゃあ、駄目だ。絶対に殺せないんじゃないか。
殺せないのに、殺せと命令された俺はなんでここにいるんだろう?
俺は不思議だ。物語である以上、俺はコイツを殺せるはずなんだ。でも、こんな尻切れトンボな終わり方は不可能だ。
……そして、俺は悟った。
こいつを殺すのは簡単な話だったんだ。ただ俺には本当に不可能な仕事だった。なんで俺が呼ばれたんだろう。まあいいや、そういう日もある。
この死刑囚を殺すのは、ほかでもない、すぐ下にある「完成」ボタンだったわけだ。
サヨナラ。また会わせてくれよ。
メタ小説。
制限時間15分で書いたんですけど、30分で書いた時並の文量という……。
省略された前置きからそのままラストに飛んでいいのに、何故か召喚されたキャラ。




