借りてきたタヌキ
(お題:素晴らしいぐりぐり)
たったひとつだけ、あなたが望むものを女の子にして差し上げましょう、と、俺が助けた老人は言った。老人と言っても、俺が助けるまでそいつはタヌキだった。誰かに吐き捨てられたガムに足をとられてもがき苦しんでいるところに通りがかったので、俺はそのねばねばする物体をライターで炙って助けてやった。
そしたらどうだ、ちゃんこ鍋三人分くらいのでかい腹をこさえた老人になった。なのに背が小さい、130cmほどしかないだろう。人の望むものの前に、まず自分を女の子にしたほうが良いのではないかと思ったが、余計なことは言わないでおいた。
で、俺はあれこれと考え始めた。何を女の子にするのが一番良いか。最初はうちで飼っている犬のことを考えた。ものすごく頭が良くて、社会犬になるんじゃないかと家族が期待しているヤツなのだが……もし女の子にしてしまったらどうだろう。ものすごい頭の良い子になるに違いないが、いまの日本で学校に通っていない女の子が就ける職がどれほどある? それならば、犬のままにしておいたほうが良いんじゃないか。
それならば、パソコンとか。二次元の女の子を三次元にするのだ。……でも、それだと新作のゲームができなくなってしまうから駄目だ。家電で攻めるなら、テレビか……顔がモニターになるんだろうか、それでは駄目だ、かわいい顔が俺は欲しいのに、売れない芸人とかの顔を映されても困る。テーブルとか椅子はどうだろう、四つん這いの女の子になるかも知れない。というか四肢が身体に対してまっすぐに固定されているから、おしりを床に付けても手足をぴーんと真っ直ぐ伸ばしたままの姿勢になるんじゃないか、そうしたらセックスする時にバックと対面座位しかできないなアハハ。
のりとか擬人化したらどうなるんだろうか。べとべとしてるんだろうか。エンピツは? 髪の毛に触れたら指が真っ黒になりそうだ。消しゴムちゃんだとどうなるんだろうか。指で擦ったところが消えるのだろうか。そうなると、エンピツちゃんと消しゴムちゃんは犬猿の仲ということになる。
医薬品とかはどうだろう? 某頭痛薬を擬人化したら、優しさが半分の女の子ができるんだろうか。……すると残りの半分は何だ。というか、優しさが半分しかない女の子ってどうなんだ。「はい、半分優しくしてあげたでしょう? 残りの半分は自分でやって」、なんというか、飴と鞭。そういうのにハマる人は居るんだろうが、あいにく俺はそういう趣味はない。……そうだな、目薬ちゃんは唾液が目薬の成分になっていて、目が乾いたら唾液を目玉に浴びせてくれるのが良い。でもそれだけのために、この貴重な力を使ってしまうのか……?
もっとちゃんと考えよう。この老人はいつまでもしょぼしょぼした目で俺のことを見つめてるだけだから、いつまで考えてても平気なんだろう。
まず、俺の求める女の子像を列挙してみよう。
かわいい。うーん、こんなの誰だって一緒だ。
俺にも優しくしてくれる。うーん、こんなの誰だって一緒だ。
俺のことが好き。うーん、この童貞感。
仕方ないな、じゃあ俺のことが好きそうな女の子像。
まず、あんまりモテない。すぐに自分のせいだと思い悩む。自分がしっかりすれば大丈夫だと言い聞かせる。
…………いや、これはちょっと違うかも。
やっぱり俺が求める女の子像から考えないと。
よし、肌がすべすべ。うん。白い肌が好きだ。
で、ボディーの話、スレンダーめが良いけど、少し緩急がある方がいい。おしりが大きいほうが好みだ。
で、性格は……やっぱり優しさかな。いやでも、表面的にではなく、徐々に優しさが滲み出るタイプの子。
「この条件を満たす子になるものを女の子にしてください」
俺の妥協策はこれだった。老人はフェッ! と目を丸くしたが、うーん、それならあれかなあ……とぼやいた後に、煙のように消えてしまった。というか、煙になって消えた。
何なんだよ、と託ちながら家に帰った俺が目にしたもの……それは、女の子だった! すべすべの白い肌、スレンダーめだけど良い感じのおしり、そして丸い表情の奥から覗く優しさ……。
「き、君は……」
俺はよろよろと女の子に近づいていく。女の子はその白い顔をぽっと白く染めて、
「そのとおりです……、私は乳棒です」
「にゅうぼう……ってなに?」
「あの……乳鉢とセットになってる……」
「あ~ハイ、あの棒ね……って、ええ!? そのチョイスおかしくねえ!?」
いや確かに俺のオーダーまんまだけどさ。と、困惑する俺に、突然女の子は飛びついてきて、俺の身体を床へ押し倒した。
「さあ、横になって。私が砕いてさしあげます」
「え! 俺砕かれるモノ役なの! 乳鉢じゃなくて!」
「だって……私はあなたを直接感じていたいんですもの……」
そう言って女の子は……甘えるように頭を押し付けてきた。ぐりぐりぐりぐり……な、なんて素晴らしい……粉砕なんだ……。
俺の心が粉砕されるのに、そう時間はかからなかった。あのタヌキ老人もいい仕事をしたもんだな。
そう思った直後に、女の子は不敵に笑った。
「ふふふ……ありがとうございます」
「……はぁ?」
俺は腹の底から、悲鳴を上げた。
自分で書いといてなんですけど、このオチはだいぶひどい




