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《RMMO》 異世界のお節介な道化師  作者: 背兎
エニフでの1ヶ月
30/32

アローとの模擬戦

 模擬戦の敗者としてのランニングを始めてしばらくすると横にアローがやって来た。


「アローも負けたのか」

「三回戦目で負けました。センパイは何回戦まで行きました?」

「俺も三回戦だ。五回戦目で戦おう、なんて言ってたのが嘘みたいだな」

「あはは。とりあえず勝負は引き分け、奢りはなしですね」

「ああ」


 走りながら模擬戦の様子を眺める。その戦いは遠目でも激しさが伝わってきた。


「センパイ? よかったらトレーニングの後、模擬戦しませんか?」

「決着をつけたいのか?」

「いえいえ。センパイがどれくらい強くなったか知りたいんです」


 俺もアローの強さは気になる。アローに付き合うか。


「わかった。勝ち負けは気にしないで思いっきりやるか!」

「はい!」



 勝ち抜きの模擬戦が終わり、トレーニングも終了。【道標】のメンバーが魔術で作った濡れタオルが全員に渡された。

 マウントはこの後、最後まで残った3人と模擬戦をするようだ。

 俺とマウントは戦う前に帰る用意を済ませる。アローはキャンプに残るギルドメンバーに声をかけていた。


「お待たせしました。それじゃあ行きましょうか」

「ああ。どこでやる?」

「北門の近くにしましょう。シホちゃんに呼ばれたらすぐにでも帰りたくなるでしょうから」


 からかうような目で俺を見るアロー。まあ実際コールがあったらすぐに帰るつもりなので、怒ることは出来ない。



「ここら辺にしましょう」

「ルールはどうする?」

「さっきの模擬戦と同じルールで」


 アローが選んだのは北門から100mも離れていない場所だ。

 背負い袋を下ろしアローから送られた模擬戦の申請を承認する。装備もさっきの模擬戦のままだ。


「いきます!!」

「来い!!」


 まずは駆け寄ってくるアローに牽制の投げナイフ。アローもナイフを投げてきたのでお互いに利き手の武器で叩き落した。

 そうしている間に距離がつまっていた。短剣による素早い連撃が俺を襲う。受けられるものは剣で受け、それ以外は出来るだけかわすが何回かは当たる。速さに特化している分、威力は小さいのが救いだな。

 今度は俺が剣を振った。しかし、アローは余裕をもってすべて回避。スピードを自慢するだけはある。

 アローの戦い方はスピード重視のインファイト。剣ではそのスピードに追いつけない。

 それならと、俺は剣をアローの首目掛けて振りその途中で手放す、そしてその手でアローのナイフを持っている腕を掴んだ。


「っ、そういえば格闘も出来ましたね」

「なんだ、忘れてたのか?」


 武器を持つ手を押さえればこちらが有利だ。

 そのまま空いた手でアローの顔面を狙う。アローはそれを首から上の動きだけでかわすと、今度は空いている左手にナイフを持ち替えた。俺の考えが甘かったようだ。

 すぐに手を離して離れようとするも、アローが距離を離させない。厄介な戦い方だ。


 じりりりりり じりりりりり


 コールの呼び出し音に俺とアローの動きが止まった。


「どうぞセンパイ。出てください」

「悪いな」


 コールは……詩穂からか。


「もしもし」

『おはようございます、春馬さん。もう起きてましたか?』

「ああ、ばっちり起きてる。もう戻っても大丈夫なのか?」

『ええ、多分ですけど』

「そうか。朝食は済ませたか?」

『いえ、まだ起きたばかりですから』

「それなら食堂で合流にするか」

『そうですね。私達は先に行って席をとっておきます』


 コールが切れる。残念だけどアローとの勝負はここまでのようだ。


「アロー――」

「わかってますよ。また今度やりましょう」

「ああ、またな」


 アローとも別れて、次に目指すのは馬のひづめ亭横の食堂だ。

 そういえば、マトバとルビーについて聞くの忘れてたな。時間のあるときにでも直接連絡してみるか。


 北門を抜けて大通りを南に向けて進む。そして、馬のひづめ亭を通り過ぎようとしたとき、悲鳴と怒鳴り声が響いた。しかも、悲鳴は平田さんの声に似ている。

 もしかして詩穂達に何かあったんじゃ……。

 俺は進路を馬のひづめ亭に変えた。


「何かあったのか、婆さん!」

「おや、いいところに来たね。あんたの連れてきた娘が他の客に襲い掛かって困ってるんだ。なんとかしな」


 平田さんが他人を襲った? おかしいな、そんなことするような人じゃないと思ってたんだが。

 とりあえず騒ぎの中心は2階のようだ。急いで向かおう。


「いやっ、こないでっ!」

「あぁっ!! てめぇが先に手ェ出してきたんだろうがっ!!」

「すいません! ごめんなさい!」


 2階に上がると廊下で男が怒鳴り声を上げていた。肩越しには必死に謝る詩穂とその後ろに隠れる様にしている平田さん。そこから少し離れたところで、どうしようって顔をしている彩音が確認できた。


「どうしたんだ?」

「あん? 誰だ、あんた?」

「あっ、春馬さ――」

「先輩助けて下さい! この男が私を襲おうとしたんです」


 俺の方に歩き出そうとした詩穂が平田さんに押しのけられた。その勢いのまま俺にしがみつく平田さん。平田さんってこんな人だったか?


「てめぇもこいつ等の仲間か。どう落とし前付けてくれるんだ、ああ?」

「ちょっと待ってくれ。今来たばかりで事情がわからない。すまないが何があったか話してくれないか?」

「先輩、この男が――」

「悪い、平田さんはちょっと黙ってて。あと、すこし離れて欲しい」


 そう言って平田さんを引き剥がす。いろいろ柔らかくて、しがみつかれたままだと話に集中できそうにない。

 男がした話によると急に平田さんに叫ばれ杖で殴られたらしい。何も悪いことはしていないどころか、部屋から出たところで平田さんに気付いてすらいなかったとか。

 詩穂と彩音は殴る瞬間は見ていなかったが、彩音は襲ったにしては距離が離れているなと思ったらしい。


「そうですか。それは申し訳ありませんでした」

「おう。わかってくれりゃあいいのよ」


 話が終わったところですぐに男に頭を下げた。

 男も話して落ち着いたのか、怒気が弱まったようだ。だが、まだ少し不満がありそうだな。


「お詫びに今日の宿代は私が持ちましょう。今日もここに泊まるんですか?」

「あ、ああ。そのつもりだが……。なんか悪いな」

「こちらに非がありますから気にしないでください。それで、何人パーティーですか?」

「は? い、いや、俺の分だけでいい」

「そうですか……。いくらになりますか?」


 男が提示したのは200Bだったが、少し色をつけて250B渡してやると男はお礼を言いながら立ち去った。あの様子なら後で何か因縁をつけてくることも無いだろう。


「それで? 平田さんは何であんなことをしたんだ?」

「だから、あの男の人が私を襲おうとしたからです」

「はぁ……。怒ったりしないから本当の事を話して欲しい」

「本当の事ってなんですか! 私は嘘なんてついてません!」


 肩で息をしながらまたもしがみついてくる平田さん。

 何でこんな急に馴れ馴れしくなっているんだ。それに、ここまで必死に反論するのもなんだか変だ。


「2人とも、平田さんの様子がおかしいんだがどうしてかわかるか?」

「それが、どうやら春馬さんの事を先輩って呼んでる別の人と重ねているみたいです」

「なんだか襲われたことも忘れてるみたいですよ」


 ……あまりのショックで記憶が混乱してるとか、そういう感じか?

 でも、なんで俺を好きだった先輩と間違えているんだ? こういう場合って恐怖の元こそ忘れるもんだろう。なのに、ショックの原因である筈の先輩っていう存在を忘れていないなんて。そんなちぐはぐな事ってありえるのか?


「とりあえず食事に行くか。空腹じゃあ考えもまとまりそうにない」

「そういえば朝食まだでしたもんね。早く行きましょう」


 話が終わった丁度その時、平田さんのすぐ側の扉が開き中から男が出てきた。


「ひっ!」


 平田さんが男に向かって杖を振りかぶろうとしてるっ!?

 止めないと、と慌てた俺は気付いたら平田さんと男の間に身体を入れていた。

 平田さんの杖が俺の頭を強かにうつ。


「あっ!?」


 つぅ、魔法職のわりになかなかの威力だった。


「お? なにやってんだ、あんたら」

「いや、……なんでもないから気にしないでくれ」

「そうかい」


 痛む頭を押さえながら男にそう返すと、男は何事も無かったかのように階段を下りて行った。


「詩穂、彩音。平田さんを部屋に」

「は、はい」

「は、春馬さんは大丈夫ですか!?」

「ああ、大丈夫だ。婆さんに何か冷やすもんもらってくるから部屋で待っててくれ」

「す、すいません、先輩! あ、あの、わたし……その……」

「大丈夫だから、部屋で待っててくれないか」

「……あ……はい……」


 3人が部屋に戻るのを見送って、階段の方へ向かった。

 はぁ、咄嗟のことで魔法で防御出来なかった。もっと鍛えないとダメだな。

同シリーズ

【親愛なる魔王さま】

【小さきマッドエンジニア】

もよろしくお願いします。

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