早朝トレーニング
「センパイ、朝っす。起きてください」
なぜか、男の声に起こされる。誰が部屋に入れたんだ?
「あ~、誰だ?」
「マウントっす」
マウント? ああ、そういえば昨日は【大地の腕】のキャンプ地に止まったんだっけか。
「今、何時だ?」
「朝の4時っす」
「4時ぃ? 早すぎるだろ」
「いいから起きるっす。これからトレーニングっすよ」
毛布代わりのローブを取られたのでしょうがなく身体を起こす。防具をつけたまま寝たせいか節々が痛いな。
マウントの後ろ、テントの入り口から外が見えたがまだうっすらと明るい程度で、普段なら確実に寝ている時間だった。
「ここにいるからにはうちのルールに従ってもらうっす。アローはもう起きてるんすよ」
「分かった。起きる、起きるよ」
テントから出ると、【大地の腕】のメンバーであろうプレイヤーが各々フル装備で整列していた。マウントは整列しているプレイヤー達の前へ歩いていく。
プレイヤー達の中にアローを見つけた。これから何が始まるか聞いてみるか。
「おはよう、アロー」
「おはようございますセンパイ。起きてきたんですか。疲れてるみたいだったから起こさなかったんですけど」
「マウントに無理やり起こされたんだ」
「あー、それは災難でしたね」
「これから何が始まるんだ?」
「早朝のトレーニングらしいですよ。何でもそれが【大地の腕】のルールなんだとか」
「こんな早くからか。大変だな」
「ホントですね。でも、邪神を倒すためですからね」
邪神か。一体どんな敵なんだろうか。
マウントの号令でまずはラジオ体操をした。少しでも手を抜いたプレイヤーをマウントは名指しで指導する。さすが、体育会系だな。
「それじゃあてめえら!! 早朝トレーニング開始だぁ!!」
「おおぉぉぉぉぉ!!」
「まずはランニングゥ!! 全員俺についてこい!!」
「おおぉぉぉぉぉ!!」
全員が隊列を崩さず走り出し、俺とアローと他数人のプレイヤーが遅れて走り出した。
「思ったよりもゆっくりだな」
「あはは、そうですね」
「これはこのままついていけばいいのか?」
「1周ついていったら、あとは各自のペースで走るって話です」
少し遅いなと思ったがそういうことだったか。それなら、俺も自分の鍛錬になる速度を出そう。
「何週走るか決まってるのか?」
「マウントが止めるまで走り続けるみたいですよ。……それを聞くって事はセンパイ、やる気ですね」
「丁度鍛えようと思ってたからな。なんだったらアローも付き合うか?」
「センパイ、僕斥候なんですよ。たとえセンパイが相手でも、足で負けるわけにはいきません」
「ほう。なら負けた方が何か奢るってのはどうだ」
「ランニングだけじゃ僕に有利すぎますね。早朝トレーニング通しての勝負にしましょう」
「ほんとにそれでいいのか、アロー? 後でほえ面かくなよ」
「おもしろくなってきました。そろそろ1周終わりますよ」
ランニングは【大地の腕】のキャンプ地を囲むように走った。よし、コースは覚えたぞ。
「全員、ダッシュだ!!」
「おおぉぉぉぉぉ!!」
【大地の腕】のメンバーが速度を上げる。
「俺達も行くぞ」
「はい!!」
俺とアローも速度を上げた。
どれくらいでマウントが止めるか分からない。まず1周、アローのペースに合わせながら周りのペースを確認しよう。
半周ほど走ると【大地の腕】のメンバーの7割が俺達の後ろを走っていた。これじゃあペースの参考にはならないな。
と、急にアローがペースを上げた。
「センパイがどこまでついてこれるか試してあげます」
「でかい口を」
更にそこから2週半、全て合わせて4週したところでアローについていけなくなった。どんどん速度を上げているが、アローはまだ余裕がありそうだった。
「もう限界ですか、せんぱい?」
「まだまだ!」
アローにはそう返したが既にこっちのペースは完全に崩れている。このスピードを維持するだけでも、ばてるのは時間の問題だ。
大分前にマウントも抜いて、俺達2人の前を走るプレイヤーはいなくなった。
これ以上の無理は後に響く。そう考えて、俺はペースを落とすことにした。
「そこまで!!」
マウントが終了の合図を出した時には合計で8週していた。アローには周回遅れにされた。足が速いと聞いていたがこの結果は悔しいものがあるな。
「ふぅ……ランニングは僕の勝ちですね。センパイ」
「ああ、そうだな」
「後のことを考えて途中でペース落としましたよね。たまには全力でやったらどうですか?」
「こういうときは容赦が無いな。だが、俺を怒らせ様と思ったらそれじゃあ足りない」
アローは勝負事になると全力で煽って相手の冷静さを奪おうとする。知ってさえいればアローの策に嵌まることは無いが、知らないと普段とのギャップのせいで確実に引っかかってしまうのだ。
「次はなんだ?」
「次は確か筋トレです。腕立て、腹筋、スクワット。これもマウントが止めるまでですね」
「じゃあ勝負は何回出来るかだな」
筋トレ三本勝負は腕立て、腹筋で俺が勝ち、スクワットはアローの勝ちだった。
筋トレに関しては【大地の腕】のメンバーの方が回数をこなしていたようだ。まさかのメンバー全員重量級か?
「アロー、次は?」
「模擬戦ですね。勝ち残りの五連戦。負けたら模擬戦が終わるまでランニング。これで最後みたいですよ」
「勝ち残り五連戦か。それならアロー、お前とは五戦目だな」
「折角ですからね」
「全員、自分のステータスを確認しろ!!」
マウントが皆の前で指示を出している。
なるほど、戦う前にステータスを確認するのか。
ジョブ:〈武人〉19(4)〈魔術士〉5(1) 〈クラウン〉9(3)
能力値:筋力・・・13(2)
体力・・・12(2)
器用・・・10(1)
敏捷・・・8(1)
魔力・・・6(1)
精神・・・8(1)
スキル:△格闘18(3) △剣術14(4) △投擲6(2) 純魔術3(2)
運動5(4) △体捌き16(4) 聴覚3(2)
称 号:駆け出し 命の恩人 教官
順調に成長しているが新しい武器スキルは手に入ってないか。まあ、少ししか使ってないからな。どこかで時間を作って鍛えるか。
後は技か。えっと……格闘の欄に走躍蹴が増えている。分かりづらいけど多分跳び蹴りだよな、これ。跳び蹴りの技名ってエアキャノンじゃないのか?
「近くにいる奴に模擬戦を申し込め!! 今日はギルドのメンバー以外にも相手がいる! 経験を積むチャンスだ!!」
「おおぉぉぉぉぉ!!」
すぐ近くにいたプレイヤーが俺の方を向いた。
「相手いいですか?」
「ああ」
1人目はこいつか。筋肉質な体で背が低い。武器は槍で両手持ちで戦うようだ。
「全員、相手が決まったな! それじゃあ、模擬戦開始ぃ!!」
「お願いします」
「お願いします……は、いいんだが。こんだけ密集してんのに模擬戦なんて出来るのか?」
「フィールドが重なっても、お互いに干渉しないんですよ。心配する様な事にはならないので思う存分、やりましょう」
模擬戦の申し込みが来る。それじゃ、いっちょやってみるか。
目の前の男が言うとおり、密集してても何も問題は無かった。フィールドが重なった部分はそれぞれ別の空間になるようだ。これなら戦いに集中できる。
槍使いの戦い方は力任せに突いたり振り回したりするだけで、テクニックなんてものは無かった。かすっただけで強い衝撃だったので、直撃すれば一撃でアウトだろうが。
「避けてばかりですね。少しは攻撃してきてくださいよ」
「ああ、わかった。――盾よ、シールド!」
だが、それだけではダメだ。攻撃はきちんと当てられて初めて意味があるんだから。
俺は槍使いの突きに合わせてシールドを張って止め、一息に相手の懐に入って顎を殴った。その一撃で倒れた相手に馬乗りになり顔面にこぶしを打ち込む。
3発殴ったところで勝利条件を満たしたらしく、模擬戦のフィールドが解除された。そういえば、勝利条件はなんだったんだろうか?
「参りました」
「ああ、ところでどうしたら勝ちだったんだ」
「あれマスターから聞いてないんですか?」
「ああ、起きてすぐトレーニングが始まったからな」
「まあ知らなくても問題ないといえば問題ないですよ。条件は相手のHPを五割以下にすることです」
確かに、その条件なら戦っていればいずれは達成されるな。ただ自分よりHPが少ない相手にダメージ無視で攻撃するとか強引な手段は取れるな。
「あっ! いま強引に勝とうとする奴がいるって思ったでしょう。うちはこれでも戦闘馬鹿ばかりですから。そんなつまんないことする奴はいないんです」
「なるほど。……なあ、二回戦はいつ始まるんだ?」
「一回戦が始まって……今大体5分ですね。それなら後5分くらいで二回戦が始まりますよ」
つまり模擬戦は10分毎ということか。なら今のうちに武器取ってくるか。
「いろいろありがとうな」
「いえ、それじゃあ私は走ってきます」
槍使いを見送って昨日泊まったテントに戻る。背負い袋から剣と……昨晩と同じ装備でいいか、投げナイフと短剣、メイスを身につけた。
「二回戦開始だ!! 近くにいる奴と戦えっ!!」
「おおぉぉぉぉぉ!!」
このギルドは常にこのテンションなんだろうか。暑苦し過ぎて俺には無理だな。
「そこのお前、俺と戦おう!」
「ああ、かかって来い」
模擬戦を了承。フィールド発生と同時に男はそれぞれの手に持った片手斧を投げつけてきた。
片方を腰から抜いた剣で叩き落し、片方は避けた。
すぐさま空いている手でナイフを投げるも、いつの間にか持っていた斧で叩き落された。叩き落した斧は地面に落ちている。最初に投げたのは投擲用だったようだ。
「いくぜぇぇ!!」
男は二挺の斧を振り上げて突っ込んでくる。どうやらこいつもパワータイプのようだ。
斧を持った攻撃も、簡単に回避できる。これなら詩穂や彩音のほうが強いんじゃないか?
斧使いの攻撃を回避しながらあえてメイスで攻撃。どうせなので俺の修行に付き合ってもらった。そうして戦っていると、攻撃を当てたわけでも当てられたわけでもないのに急にフィールドが解除された。
俺の目の前のウィンドウにはwinの文字が。これは時間切れの判定勝ちか?
「やるな、お前」
「ありがとう。聞きたいんだが、この模擬戦って時間制限があるのか?」
「ああ? ああ、五分間の時間制限がある。戦ったら5分休んで次って訳だ」
ふむ、これでルールが全て分かった。時間制限が5分、勝利条件は先に相手の体力を五割以下にする。そして、五分間の休憩。試合が早く終わればそれだけ休憩時間は延びる。
勝ったら次の試合へ、負けたらこのトレーニングが終わるまで延々走らなければいけない。
「お前手ぇ抜いてただろう? 別に構わねぇんだが次からは全力でやったほうがいいぞ」
「何かあるのか?」
「大体三戦目から運で勝つのが難しくなる」
「残ったのは実力者って訳か」
「そうゆうことだ」
なら次からはメイスと短剣は邪魔になるな。今のうちに置いてこようか。
「三回戦目、開始!!」
間に合わなかったか、斧使いと話している内に休憩時間が終わっていたようだ。
「そこの新顔ぉ。次は俺とだ」
「ああ、お手柔らかに頼む」
まあいい、目の前の相手に全力を尽くそう。
三戦目の相手は片手剣使い。今までの筋肉質な奴等と比べ物にならないくらい小柄だった。
「おら、おら、おらぁ」
小柄な体格で繰り出される素早い攻撃は剣で受け流すだけで精一杯だった。斧使いの言うとおり急に強くなったな。
「攻撃してこないのかぁ?」
「……ぐぬっ」
最初の槍使いと違って反撃できそうに無い。魔法で防ごうなんて考えたら、その隙に斬られていそうだし、素手では受け流すことも出来そうにない。
「そろそろ飽きてきたなぁ。くらえ!」
剣使いが空いている手に短剣を持って突いてきた。気付いてすぐに左手で短剣を抜いて突きを受けるが、勢いが強くそのまま後ろに倒されてしまう。
そのまま首を剣で斬られて模擬戦終了。俺の完敗だった。
「よく俺の突きを防げたなぁ。マスターでも防げないってのに」
「マウントでも?」
「マスターをマウントって呼ぶって事はマスターの知人かぁ。2人連れてきたって言ってたが、あんた名前はぁ?」
「ゲームではセンパイって名乗っていた」
「あんたがセンパイかぁ。正規組でその強さとは感心するねぇ」
正規組ってのは正規版から始めたプレイヤーのことか。なら目の前のこいつはきっとβ組なんだろうな。
「お前はマウントより強いのか?」
「ん? ああ、そんなわけがねぇ。マスターだったら突きを放つ前に俺が負ける」
「そんなに強くなったのか、あいつ」
「相性もあるけどねぇ。お互い攻撃重視な上に軽装だから勝負が一瞬でついちまう。俺の突きは接近戦での打ち合いでこそ意味があるからねぇ」
強弱はそんなに単純ではないって事か。
「とりあえず、走ってこいよ。後20分」
「分かってる、相手してくれてありがとな。参考になった」
剣使いと別れてランニングに混ざるとするか。
同シリーズ
【親愛なる魔王さま】
【小さきマッドエンジニア】
もよろしくお願いします。




