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《RMMO》 異世界のお節介な道化師  作者: 背兎
最初の一週間
22/32

詩穂の日記

 はぁ、アーヤ早く帰ってこないかな。


 私、遠藤 詩穂が《RMMO》をはじめたのは友人のアーヤこと塚本 彩音に誘われたからで、それまではゲームなんてやったことが無かった。

 本が好きでライトノベルをよく読んでいたからそうゆう世界には憧れがあったし、アーヤと一緒に遊ぶのも久しぶりだったから楽しみにしていた。なのに、アーヤは家族旅行に行ってしばらく帰ってこない。

 アーヤが帰ってくるまで放置してもよかった。でも、内緒で強くなって彼女が帰ってきたときに驚かそうと思って1人でプレイを続けた。家にいても他にしたいことも無かったから。


「たすけてくださ~い!! だれか~!!」


 私はへまをして迷い犬に追われていた。最初10匹くらいだった迷い犬の数も逃げてる間にもどんどん増えて今では30匹くらいいる。


「あっ」


 体力の限界だった私は足をもつれさせ転んでしまった。上半身を起こして振り返ると沢山の迷い犬が今にも跳びかかろうとしている。あまりの恐怖に体が震え目をぎゅっと閉じた。


 ゴンッ!!


「そこのっ!! とっとと逃げろ!!」


 誰かの声に目を開けると、さっきまでこちらを睨んでいたマヨイイヌ達が別のほうを向いている。マヨイイヌの視線の先には1人の男性がマヨイイヌを殴り飛ばしていた。

 そのときに感じた頼もしさは今でも忘れられない。


 助けてくれた人はセンパイなんて変わった名前でプレイしていた。

 センパイさんは弱い私を自分達のパーティー[老騎士]に誘ってくれた。何で[老騎士]なんて名前だったんだろう?今でも由来はわからない。

 [老騎士]の人たちは皆良い人だった。優しくて子供の私にも丁寧に接してくれたアローさん、荒っぽいけど面倒見の良いマウントさん、大人っぽくてでもいたずら好きなルビーさん、落ち着いていてなんだかお爺ちゃんみたいなマトバさん、そして私を助けてくれたセンパイさん。

 

 センパイさんは私を強くしてくれた。装備を一緒に選んでくれたし、魔法を買うときは足りない分を払ってくれた。時に厳しく、時に優しく戦い方を教えてくれたし、模擬戦の相手もしてもらった。

 模擬戦の時は本当に申し訳ないことしちゃったな。


 あるとき[老騎士]の皆が日曜日のイベントについて話していた。日曜日にはアーヤが帰ってくる。それはうれしい、けれど同時に寂しくもある。センパイさん達とお別れになるだろうから。


「よかったら友達も連れて俺達と一緒にイベントに参加しない?」


 センパイさんがそういってくれた時は本当にうれしかった。あまりのうれしさにログアウトした後に直ぐにアーヤに電話して[老騎士]の皆のことを話した。長電話になったので次の日目覚めたのはお昼だった。


 イベントの日、私達は女神様によって異世界へと飛ばされた。最初は何が起こったかわからず混乱した。でも落ち着いてくると今度は不安でどうにかなりそうだった。[老騎士]の皆がいろいろやってたけど私はどうしていいかわからずただ立ってるだけだった。


「シホちゃん!! 目ぇ覚ませ!!」

「……はっ!! センパイさん? あれ? ここは? イベントは?」

「今から説明するよ。その前に友達を起こしてくれ」

「え? アーヤがいる? ……じゃあやっぱりさっきのは……」

「はい、ストップ。今は考えないでアーヤちゃんを起こして」


 ここでも私はセンパイさんに助けられたと思う。センパイさんが私達にわかるようにゆっくりと状況を説明してくれた。その態度がやっぱり頼もしくて、気づいたら不安はなくなっていた。

 

「それでこれからのことなんだが、2人はどうしたい? 俺はアローの作るギルドに入ることを進めるが」


 私はセンパイさんについて行きたかった。センパイさんがいなくなるのが怖かったし、離れたくなかった。


「あのっ、センパイさんについて行ってもいいですか? 私……その……、本とか読むの好きなんでっ、資料読むのとか手伝えると思いますしっ!!」


 咄嗟に口走っていた。理由だって思いついたことを適当に言っただけだ。きっと断わられるだろうなって思った。でも――


「わかった」


 センパイさんは直ぐにそう返事してくれた。

 アーヤもセンパイさんに誘われて一緒に来ることになった。とっても嬉かったけどなんだかモヤモヤする。


 その後もセンパイさんは私を引っ張ってくれた。だから宿屋で部屋が1つしかないって言われて困ってたセンパイさんに一緒の部屋でもいいですって言った。

 アーヤが私も気にしないっていったときに、そういえばアーヤがどう思うか考えてなかったって気づいて申し訳なくなった。

 でも気にしないならいいかなって、遠慮するセンパイさんをちょっとずるい方法で納得させて一緒の部屋にしてもらった。


 夕ご飯は食堂で食べた。私はサンドイッチ、センパイさんはトカゲの焼肉定食を頼んでいた。

 定食を食べながらセンパイさんが明日の予定を話してくれた。

 センパイさんはアーヤと2人で訓練。私は1人でウサギ狩り。モヤモヤが大きくなった。




「センパイさん遅いね」

「そうだね」

「ここにいると他のお客さんの邪魔になるし宿に戻ってようか」

「そうだね」


 さっきから胸の中のモヤモヤする。何でだろうってそればかり考えていた。

 アーヤに腕を引っ張られたから着いていった。気づいたら宿屋にいた。


「お婆さん、センパイさんはまだお風呂? ってシホ!?」


 センパイさんに会えばわかるかも知れない。

 私は胸のモヤモヤのことにばかり気がいっていた。だからアーヤが止める声も聞こえず二階の自分達の部屋のドアを開けてしまった。




「いやぁぁぁぁぁ!」


 とてもたくましかったです。




 次の日の朝、センパイさんが少し寝坊。アーヤと一緒に布団をはがして起こしてあげた。センパイさん寝ながら顔をしかめてる、ちょっと可愛いいって思った。


 その日の狩りはセンパイさんにほめてもらいたくて頑張った。近くにいる大兎から、杖で殴ってはナイフを刺し、杖で殴ってはナイフを刺し。センパイさんからコールが来るまで夢中になってい狩っていた。


 待ち合わせ場所の南門に着くとセンパイさんはコールで誰かと話しているようだった。


「お疲れシホ、狩りはどうだった?」

「結構狩れたと思うよ。アーヤは強くなった」

「春馬先輩のおかげでね」

「春馬先輩?」

「センパイさんのことだよ。初鳥 春馬先輩」


 何でアーヤはセンパイさんの名前を知ってるの? 何でアーヤはセンパイさんを名前で呼ぶの?

 忘れていた胸のモヤモヤが昨日より大きくなって帰ってきた。


「シホちゃん、彩音! 飯食いに行くぞ!」


 何でアーヤはセンパイさんに名前で呼ばれているの?

 私だって名前で呼びたいし、呼んでほしい。そう伝えたかったけど勇気が出なくて出来なかった。


 私のモヤモヤは大きくなるばかりだ。




「強引なフェイントでやっと剣を抜かせたんだー」

「さすがアーヤだね」


 酒場でご飯を待っている間、アーヤからどんな訓練をしたのか聞かされていた。アーヤが春馬先輩ってゆうたびに私のモヤモヤは大きくなる。


「剣になった途端春馬先輩弱くなるんだもん。びっくりしちゃったよ」

「そういえばセンパイさんってどのジョブを選んだんですか?」


 話しかけても返事が無い。見たらセンパイさんはウィンドウを眺めていた。


「センパイさん!!」

「うおっ!? びっくりしたー。なんだ、シホちゃん?」

「なんだじゃないですよ! 話しかけてるんですから返事ぐらいしてください!」


 あれ、なんで私はセンパイさんに怒ってるのかな?怒るようなことじゃないのに……。


「ステータスの確認に集中していて気づかなかった。ごめんな」

「そうだったんですかっ」


 やっぱりセンパイさんに悪気は無かった。なのに謝らせてしまうなんて、一体私はどうしてしまったんだろう。


「でもなんで今確認してるんですか?」




「彩音と模擬戦したからな」




 胸がモヤモヤして押しつぶされそうで私はトイレに逃げ込んだ。


 どうしたらこのモヤモヤは晴れるんだろう。少し落ち着いた私は誰かに相談したくなった。でも相談できる相手がいない。親や友達とは連絡が取れないし、唯一こっちの世界にいるアーヤには相談したくない。

 しばらく考えてルビーさんのことを思い出した。大人の女性なルビーさんなら私の悩みに答えてくれるかもしれない。


「ってことなんですけど」

『……やっぱりセンパイは女心がわかってなかったですねぇ。私が思うにシホちゃんは恋をしてるんじゃないですかぁ』

「恋ですか?」

『はいぃ。センパイのことを考えて思い浮かべてくださいぃ。……どうですかぁ、どきどきしてきませんかぁ』


 ルビーさんに言われたとおりセンパイさんのことを思い浮かべる。ドキドキするどころか心が落ち着いていく。


「ドキドキはしないです」

『そうですかぁ。じゃあセンパイが他の女の人とキスしてるところを想像してみてくださいぃ』


 センパイさんと他の女の人がキスするところ…………。私の頭の中でセンパイさんとアーヤがキスをしていた。


「凄くモヤモヤします」

『それじゃあぁ、センパイに褒められるところを想像してくださいぃ』


 センパイさんが私の頭を撫でながら「さすが詩穂だな」っていってくれる。

 ただの想像なのに私は凄くうれしくなった。


「凄くうれしいです!!」

『そうですかぁ。……シホちゃん、センパイをデートに誘って見ませんかぁ?』

「で、デートですか!?」

『ええ、一度デートしてみれば自分の気持ちがどういったものか解るかも知れませんしぃ』

「でも今はそんなことしてる時じゃ……」

『センパイの事だから休みを作ってくれてると思いますよぉ。その日に誘えば大丈夫じゃないですかねぇ』


 その後はルビーさんに誘う方法やデート当日の作戦などを教えてもらいました。




「デートしてくださいっ」


 4日後の夜、宿屋の裏庭で私はセンパイさんをデートに誘いました。緊張で胸は張り裂けそうです。

 誘うまでセンパイさんに感づかれないよう普段どおりに過ごすのは大変でした。おかげでここ数日の記憶は曖昧です。

 

 センパイさんはなかなか返事をしてくれません。私はだんだん不安になって来ました。いきなりデートなんて、しかも私が相手なんて迷惑なんじゃないかって。

 

 でも、センパイさんは「いいよ」って言ってくれました。私はうれしさと恥ずかしさで居ても立ってもいられず、待ち合わせの時間と場所を伝えると部屋に戻ってベッドに飛び込みました。


 ルビーさんが作ってくれる服、センパイさんは可愛いって言ってくれるかな。明後日、センパイさんはどこに連れてってくれるのかな。……デート、楽しみだなぁ。

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