四個目:チャラ男にて失恋中
「いいよー。あ、他にも彼女いるけどいいよね?」
耳のピアスを触りながら、彼は笑顔で言った。
※
教室に入って早々ジャンプしてイスを巻き込みながら前転を繰り返し窓側で倒れたままの美衣を、靖之は笑顔のまま同じように前転して近づき彼女の旋毛を人差し指で押した。
「やめろう、このッ、靖之のくせに!」
「くせにとは何だ、くせにとは。このイケメン様に向かって」
「誰がイケメンじゃボケえええええええ」
偉そうな笑顔でキラッとしている靖之を突き飛ばすと、美衣は巻き込んだイスを元に戻し、乱暴に座った。靖之はというと、その光景を見ながらニヤニヤ顔で彼女に話しかけた。
「――それで、今回は?」
「他校の姫路くん! キラキラな笑顔がカッコいい! 寂しがり屋なところが可愛くてたまらないの! よく褒めてくれるし、エスコートも完璧! 話もしやすい!」
「ほーう、真面目とは真逆に走ったか。その人知ってるぜ」
「もういいの、あんな堅物! でもふざけんなあああああああああ!!」
「お、珍しい。失恋直後に毒舌とは。どうした?」
美衣がバッと顔をあげた。
靖之を睨むように細められている目は、あきらかに八つ当たりである。
そんな態度をとられても、彼は笑っていた。
「他に彼女いるけど、いいよね。うん、付き合おう、って糞野郎ッ!」
「遊び人だからな」
「知ってたの!?」
「おうともよ。結構有名だぞ?」
「なら教えてよ!」
「何故俺がそんな面倒くさいことをしなきゃならんのだ」
「こんの鬼畜ううううううう!」
「このイケメン様が鬼畜るんだぜ? 最高だろ」
べしべしと叩いてくるのを甘んじて受け入れながら、靖之は軽くそう言った。
そうして、また美衣の頭を撫でようとして手を伸ばし――
「もういっそ、それでもいいから付き合ってもらおうかな…………」
――宙に浮いたまま、とまった。
いつも来る感触がないと、美衣が顔をあげると、そこには呆然とした表情があった。
「靖之?」
「お前……そこまで本気だったわけ?」
「え? いや、ちょっとぼやいただけ…………」
「…………ふうん……」
これは、日常の中の異常。




