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二個目:先輩にて失恋中


「ご、ごめんね。俺、その、彼女いるんだ」

 申し訳なさそうに、しかしどこか照れるように彼は言った。



「フラれたあああああああ!!」


 彼女が机に突っ込んでイスなどと一緒に倒れたままになっているのを見た靖之は、人差し指で美衣を示しながら腹を抱えて大爆笑しだした。

 その光景を見て、クラスメイトはまたか、と苦笑する。


 何を思ったか無機物に頭突きをして、立ち上がらない美衣に靖之が覗き込む。

 やっぱり、泣いていた。


「美衣、一回起きろ」

「…………」

「踏むぞ」


 美衣が泣き顔でムクリと起き上がる。

 大爆笑の名残りで笑みの張り付いている表情のまま、靖之は無言で席へ誘導する。


「――それで、今回は?」

「一個上の吉岡先輩! まるで王子様みたいだって優しくて綺麗な人! 品行方正を具現化したようなまさに理想の先輩! 実は柔道黒帯だって噂がある! しかも純情!」

「ほーう、前の丸山からまた離れたな」

「もういいの、あんな臆病! 笑顔が輝かしい吉岡先輩がいいの!」

「でもフラれたんだろ?」

「シャアアアアアアアアアアアア!!」


 もう慣れてしまった会話は、既視感さえ取り払ってしまった。

 いつかにぼしが飛んできそうな勢いである。


「今年になって、もう四回目か……どこまで伸びるかね、記録」

「うっさあああああああああい!」


 叫びだす彼女の頭を、また、そっと撫でた。


「次、頑張れ」


 これも、日常の一つ。



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