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異界融合 〜崩壊した世界を少女達と共に生き抜く〜  作者: レモンGUN
一章

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11/11

親友に知られたくないこと

 早朝、俺たちは屋上に集まっていた。息を潜め、狼どもの様子を窺う。まだ、狩には出かけていないようだが、予測が正しければ大勢を引き連れてここを離れてくれるはずだ。

 俺は手に持った槍を改めて確認する。何の変哲もない長さ1mほどの鉄パイプの先端を捻って尖らせたもの。これを奴らの土手っ腹にぶち込んでやる予定だ。

 俺の体には太い紐が結び付けられている。肩にXの字に掛けて後ろで解けないよう縛る。その紐の先は生徒たちが握っている。強く引っ張っても容易には切れないのは確認済み。

 腰には薬品の入った試験管がいくつか小分けにしてしまってある。理科室の薬品保管室みたいなところから拝借してきた。知識がないので、なにがなにやらさっぱりだが、臭いがキツイものをピックアップして持ってきた。危険度は分からないが、肌に触れなければ大丈夫だろう。多分。


 装備の確認をしていると、やつらが堂々と正門から出ていくのが見えた。かなりの数だ三十頭はいるだろうか。

 奴らが出て行ってからしばらく。周りの様子を確認し、一頭でいるやつを発見。狙いをつける。


「よし、やるぞ」


 俺が気合を入れると、他の面々も神妙な面持ちで頷く。

 再度周囲を観察し、おひとり様であることを確認してから、俺はそいつめがけて飛び降りる。

 狼の上にのしかかると同時に胴体に一突き。すぐに引き抜き、首めがけて一突き。その後何度か胴体に突き入れ絶命を確認したら、腰から試験管を取り出し周りに巻き、捨てる。

 俺は上に合図を送る。すると紐に引っ張られて体が浮く。紐を掴みながら校舎の壁に足を合わせ、壁を駆け上がる。フェンスをこえ、屋上に戻ってきた。


「ぷはぁ……」


 緊張が解け、ため息が出ると同時に息を止めていたことに気づく。


「お帰りなさい。やりましたねっ」


 黒宮さんが労いの言葉をくれる。


「ああ、上手くいってよかった。この調子で続けよう」


 俺たちの作戦は単純だ。単独になったところを暗殺。これを繰り返すことで全滅を狙おうというもの。

 今置かれている状況で明確に有利なことが二つある。高所を取れていることと、存在を知られていないことだ。

 奴らは基本、校舎の外に陣取る。硬い床が居心地悪いのか草の上で集まって寝ていた。屋上からだとその様子がよくわかる。落下攻撃が奴らに有効なのは経験済みなので、見えない屋上から奇襲を仕掛ける。

 存在がバレていないのは今までの状況からの予想だが、バレていたらとっくに教室を襲撃されてるだろう。もう慣れてしまったが、ここは死臭が強い。奴らも実はそんなに鼻が効かないんじゃないかと思う。


 それらの有利を上手く利用できて、かつ危険度が低いものと言ったら、っぱアサシネイトよ。

 空からの急襲を可能にするのは、彼女たちに持たせた命綱だ。俺より強い(・・・・・)力でもって、素早く引き上げてくれる。彼女たちを危険に晒すこともない。

 そして、万が一匂いで追跡されないように、殺害後は強い臭いの薬品をばら撒き、証拠隠滅。

 まだ一度だけだが、なかなか上手くいったと思う。あとはこれをどれくらい続けられるかだ。奴らも数が減っていくことに気づかないわけがないと思うが、行動パターンが変わるまで安全に処理できるこの方法を続けたい。





 結構上手くいっている。奴らは巡回するということをあまりしないみたいだ。一度警戒場所を決めたらなかなか動かないので、バレることもなく数を減らすことができている。

 ふはは、間抜けどもめ。一匹残らず駆逐してやる。


「優希さん、何だか楽しそう?」


「いや、そんなことないさ。緊張感を持って最後まで臨もう」


 そんなことはないので、気合を入れ直す。

 その後も続け、校舎の周りにいる狼を全て処理した。7頭もの狼を大した危機もなく安全に処理できたことで、作戦の成功を実感する。

 そして、狩り組の面々が帰ってきたので、隠れて様子を確認する。校舎の周りをぐるぐる回り、悲しげな遠吠えのようなものを合唱している。

 ふん、存分に悲しめ。狩りをしていいのは狩られる覚悟があるやつだけだぜ。

 その後、奴らが校舎の中に入ってくると言うことはなく。夜、眠りにつくまで監視を続けた。




「上手くいきましたね!優希さんっ」


「あぁ、想定していた通りの戦果だ。上手くいきすぎて怖いくらいだな」


「でも、なにもトラブルがなくて本当に良かったです。私、ずっと心配で心配で」


 今は作戦の反省会を教室でしている。まぁ、全て想定通りの結果だったので、雑談をしているだけだが。


「すごかったです!一瞬でパパパって」


「ね!」


「かっこよかった!」


 いやぁ、こう、少女たちにチヤホヤされると嬉しいものがあるよね、やっぱり。


「優希さんがいてくれて本当に良かった」


 響が腕に掴まりながら褒めてくれる。

 ……なんか妙に距離が近いんだよな。響は一人でモンスターから逃げ回った経験がある。その時の恐怖が残ってるのか、きっと人肌恋しいんだろうと思う。本当によく頑張ったよ、響は。

 響の顔を見てそんなことを考えていると、こちらに気づいて笑顔を見せてくれる。う……無理して気丈にふるまっていないだろうか、涙が出てきそうだ。

 黒宮さんも、こちらをじっと見ている。一番の親友だ、心配だろう。どうか二人で支え合って強く生きてほしい。




  ────── ────── ──────




 私は今、優希さんに笑いかける響を見て、自分に驚いていた。


 最近、妙な感覚になる。上手く説明できないが、相手の思っていることがよく分かる、と言うか。

 他人の気持ちを汲むことが出来るのは素晴らしいと、思うけど、なんかそれとも違うような……。

 外にいた狼の気持ちもよく理解出来た。帰ってきた狼たちが遠吠えをしている時、悲しんでいるということが理解出来たし、その後、ご飯を食べて寝るまでに、すっかり悲しみなんて忘れていることも分かってしまった。

 私達の存在に気づいていないことも。仲間が減ったことにあまり危機感を持っていないことも。


 優希さんの、避難所の人たちが、なにも出来ず食べられてしまったことへの怒りと悲しみ、そして、ここにいるみんなを守ろうと思ってくれていることも伝わった。私のことを、か、可愛いって、思って、くれていることも。



 …………そして、響が、優希さんに、心惹かれていることも。



 私が感じるこれが正しいのかは分からない。でも、当たっていると、強く思う。何故だかはよく分からないんだけど。

 だって響は大変な状況の中、間一髪のところで助けられた。そんなこと優希さんにされたら、そりゃ、好きになっちゃうよ。響が少し羨ましいくらいだ。


「はぁ……」


 ため息が出る。こんなに他人の感情に敏感ではなかったはずだ。いつから?っていったら……多分だけど地震の時、気を失った後からだ。力が強くなったのもそうだし、なにか、体が変になっちゃったんだと思う。

 みんなは違うのかな。もしかしたら優希さんも私の気持ちとかに気づいてて……

 そこまで考えて否定する。優希さんは結構わかりやすい人なのだ。気づいていて、それが態度に出ない人じゃないような気がする。気絶する以前の私でも気づくだろう。

 ふふ、少しあたふたする優希さんを想像して笑ってしまう。

 ……それに響の気持ちに気づかないわけもないだろうし。


「はぁ……」


 再度ため息。苦しい。気持ち悪い。

 私だけみんなの心の中をのぞいてしまっていることに罪悪感を感じる。ずるいことをしている感覚だ。モヤモヤが胸の中をグルグルしている。もういっそ打ち明けてみようか。みんな信じてくれるだろうか。ずっと心の中を見られていたなんて、気持ち悪いと思われないだろうか。

 思考が上手くまとまらない。

 何より怖いのは、優希さんに、………響に、嫌われてしまうことだ。嫌われてしまったら……私は……。





 朝になった。ずっと考えていて眠れなかった。でも、ずっと考えて、どうするかは決めた。


「みんな、少し話があるんだけど、いいかな」


 私の声に反応して注目が集まる。今は狼撲滅作戦の準備中だ。


「私、変な力に目覚めちゃったみたいで……」


 事細かに自分の状況を説明した。半信半疑だったみんなにデモンストレーションもした。優希さんはすごく驚いていた。


「えーと、つまりだ、俺が見ているものを黒宮さんが読み取ると、なにを見ているかが何となく分かるってこと?」


「はい、そんな感じです」


「ほぇーすごいな。……これは?」


「二つ並んだ椅子を見て、足が一つ無くなっている方は、可哀想だなと思っています。」


「ほう、あたりだ。じゃぁ……これは?」


「…………私の胸を見ながら失礼なことを考えています。……優希さん?」


「あーオッケーオッケー。すごいね視覚も思考も読み取れると」


「もー優希さんサイテー」「へんたいっ!」


 私が見えなくなる様にガードしながら、代わりに他の子達が怒ってくれた。とっても失礼なことを考えてた。伸び代は無限大……私もそう思うようにしよう。

 ともかく、優希さんに嫌われなくて本当に良かった。ホッとした。今のも、私が懸念してたことが起きないよう、ワザと変な質問をして、茶化す様にしてくれたのも伝わってきた。他人への配慮と慈しみが感じられる、そんなところが好きだ。

 そして、


 響………。


 顔面蒼白とはこのことだろう。その表情から、ごめん、という言葉が聞こえてくるよう。でも私に謝るのってなんか違うんじゃないかなって気がする。それってなんか、私がズルいよね。

 それに、そんな表情になってくれていることこそが、私のことをすごく思ってくれている証明になっているような気がして、申し訳なくはあるけれど、少し嬉しくなってしまった。



私は、響の心の声を、聞き……?

  ──────??

 ……あれ?読み取れ、ない?響の心が伝わってこない……。


 何故かさっきまで感じていた心を読むイメージが流れてこない。いや、表情からは丸わかりなんだけど、思考を読めている感じではないのだ。

 なぜだろう。この力の事は、昨日初めて認識したものだし、分からないことばかりだ。読めたり、読めなかったりするものなのだろうか。未だに他の人は読めている。優希さんは、私の力をどういう扱いにするかを真剣に考えてくれているのが伝わってくる。

 響に視線を戻す。ダメだ、読めていない。



 ……ずっと響を見ていたからだろうか。

 顔を、逸らされた。


 10年来の親友に、初めて拒絶されたような気がして、心がズキリと痛むのを感じた。心が苦しくなる。

 そっか……。やっぱり、こんな、人に心の中を覗かれるなんて……気持ち悪い、よね……。




 …………イヤだ、嫌われたく、ない……。

 思考が加速していくのを感じた。このまま、嫌われたまま生きていく未来を考えてしまい、心臓の鼓動がバクバクと強くなっていく。もう今までのように一緒にお喋りしたり、笑ったり出来なくなる?

 今までの響との思い出が、走馬灯のように蘇ってきた。そのどれもが、とても素敵で、大切な思い出だ。


 苦しい……。なんでこんなことに……どうしたら許してもらえるんだろう。涙が滲み、前が見えなくなってきた。

 ふと、みんなが私を見ているのに気づいた。

 じっと見つめられていた。なんだろう。不安に心が掻き立てられていると、不意に抱きしめられた。


 響だった。


「大丈夫だよ凛。嫌ったりなんかしないよ。不安にさせちゃってごめん」


「へ?」


 なんのことだろうか?私のこと?さっきの、もしかして声に出ちゃってた?


「あー……。黒宮さん。実は、さっきの、多分心の中で思ってたことだと思うんだけど、全部俺たちにも伝わってた、と思う、というか……その、苦しさとか、不安とか……」


 ……え?……じゃぁ、響に嫌われたくないって思ってたことが、みんなにも伝わっちゃってたってこと?この力ってみんなの心を読むだけじゃなくて、私の心も筒抜けってこと?えと………じゃぁ、優希さんのこととかも………。

 顔が熱くなってくる。絶対今耳が赤くなってる。


「あ、でも多分さっきの一瞬だけだな。さっきの一瞬だけで絶望感が伝わってきて、さ。いやぁすごい破壊力だったよ」


「ほんとだよ。まさか凛が私のことをそんなに思ってくれてるとはねぇ。ひひひ」


 響が茶化しながらも、抱きしめる力を強くしてくれる。

 あ……。今なら響の考えてることが伝わってくる。不安にさせたこととか、顔を逸らしちゃったこととか、すごく後悔してるんだ。私を大事にしようとしてくれてるのがしっかり伝わってくる。

 嬉しい。良かった。響は私を嫌ったわけじゃないことに心底ホッとした。


「その……ごめんね凛」


「ううん、いいんだよ。心を読まれるのって、きっと、とても嫌なことだよね」


 私も、全部みんなに伝わっちゃってたと思って、恥ずかしいやら、情けないやらですごいあたふたしてしまった。

 心に隠しておきたいことなんて、みんないっぱいあるよね。親友に知られたくないことだって。


「でもね、実はさっき、響の心は読めなかったんだ。なんでだろう?」


「へ?そうなの?」


「うん。まぁ顔を見れば、なにを考えてるかくらい分かったけどね」


「あぁー、まぁそうだよね。うん……。実は、凛に話しておきたいことがあって……ごめ ──────」


「謝んないでっ。多分、心を読まなくても全部わかってるから。分かった上で、それでもいいよって思うよ」


 そうだ。同じ人を好きになったからってなんだ。多分、どっちが結ばれても喜べると思う。大好きな人と、大好きな親友が一緒になるだなんて、素敵なことだと心の底から思う。そりゃぁ私だって優希さんと一緒になりたいけど。


「いっぱい話そ。私、響と親友じゃなくなるなんて絶対イヤだからね」


「うん、そうだね。私も」


 そうだ。いっぱい話そう。これからもずっと親友でいたいから。

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