第23話 取り込まれるということ
登録者1458人。
スポンサー47人。
ボランティア9人。
前日の“確認メール”から一夜。
何も起きていないようでいて、
確実に空気は変わっていた。
朝。
もう一通、メールが届く。
件名:ご相談(非公開)
送り主は、以前連絡のあった制作会社。
正義は少しだけ間を置いて開いた。
《現在進行中の番組企画において、御媒体のデータ活用を検討しております。一度オンラインでお話しできませんでしょうか》
削除でもない。
確認でもない。
「相談」。
正義は画面を見つめる。
「来たな……」
これは圧力ではない。
だが、もっと厄介なものだ。
――
凛に送る。
「制作会社から打ち合わせ来た」
返信。
「受ける?」
正義は少し考える。
断る理由はない。
だが、理由があるからこそ怖い。
「受ける」
送信。
すぐ返信。
「録音しときな」
短い。
現実的だ。
――
夜。
Zoom。
画面に現れたのは三人。
プロデューサー。
ディレクター。
リサーチ担当。
全員、柔らかい口調。
「本日はありがとうございます」
丁寧。
穏やか。
敵ではない。
「RE:PUBLICさんの取り組み、大変興味深く拝見しております」
正義は軽く会釈する。
「ありがとうございます」
プロデューサーが続ける。
「今回、地方行政の特集を検討しておりまして」
来た。
「御社のデータを元に、構成を組めればと考えています」
“元に”。
その一言に、正義は少しだけ引っかかる。
「具体的には、どういった形でしょうか?」
慎重に聞く。
ディレクターが答える。
「視聴者に分かりやすく伝えるために、テーマを絞って」
「例えば、無駄遣いの問題など」
正義の中で、線が揺れる。
「無駄遣い」
その言葉は、RE:PUBLICでは使っていない。
プロデューサーが続ける。
「もちろん、御社のデータはそのまま使います」
「ただ、番組として成立させるために、ストーリーは組ませていただきます」
正義は理解する。
データはそのまま。
だが、文脈は変わる。
「監修という形で入っていただくことも可能です」
柔らかい提案。
だが、本質は一つ。
「一緒にやりませんか」
――
沈黙が数秒。
正義はゆっくり口を開く。
「一点だけ確認させてください」
全員の視線が集まる。
「結論は、番組側で作るという認識で合っていますか?」
プロデューサーは少しだけ笑う。
「はい、テレビはそういうものです」
即答。
迷いなし。
――
正義は頷く。
理解した。
これは敵ではない。
むしろ、合理的だ。
視聴率を取る。
分かりやすくする。
そのために構造を“編集”する。
正しい。
完全に正しい。
だが。
「今回は見送らせてください」
言葉にする。
一瞬、空気が止まる。
プロデューサーはすぐに表情を戻す。
「理由、お伺いしても?」
正義は迷わず答える。
「RE:PUBLICは、結論を提示しない前提で設計しているので」
短い。
だが十分だった。
数秒の沈黙。
「承知しました」
柔らかい声。
だが、その奥にある温度が少し下がる。
「また機会があればぜひ」
形式的な言葉。
通話は終わる。
――
画面が暗くなる。
正義は椅子にもたれ、息を吐く。
「これか……」
圧力ではない。
排除でもない。
取り込み。
一緒にやろう。
ただし、ルールはこちらで。
――
凛に送る。
「断った」
即レス。
「いい判断」
「もったいなくない?」
少し間。
「めちゃくちゃもったいないよ」
正義は苦笑する。
「だよな」
「でも、それでいいならいい」
一言。
それで十分だった。
――
ダッシュボードを開く。
登録者:1458 → 1521。
増えている。
スポンサー:47 → 50。
初めて、50に乗った。
数字は良い。
だが、意味は変わる。
RE:PUBLICは、選ばれる側になった。
そして同時に、
選ばなければならない側にもなった。
――
正義は画面を閉じる。
「全部は取れない」
影響力。
資金。
拡散。
それらはトレードオフになる。
RE:PUBLICは、
どの成長を選ぶのか。
その問いが、初めて現実になった。
登録者1521人。
スポンサー50人。
事業は、伸びている。
だがその先は、
もう“ただ伸ばすだけ”では進めなかった。




