第22話 見られている側
登録者1372人。
スポンサー42人。
ボランティア9人。
成長は続いている。
だが、この日は違った。
“外”の動きが、明確にこちらを捉え始めていた。
朝。
一通のメール。
件名:ご確認のお願い
送り主は、見覚えのない法律事務所。
正義は一瞬、手を止める。
開く。
《御媒体に掲載されている〇〇市に関するデータについて、一部表現が誤解を招く可能性があるため、ご確認をお願い申し上げます》
文章は丁寧だった。
だが、意図は明確だった。
「……来たな」
正義は小さく呟く。
削除要請ではない。
訂正要求でもない。
「確認」。
だが、その言葉の裏にあるものは分かる。
「見てるぞ」
という意思表示。
――
Slackに共有する。
《このメール来てます》
数秒で反応がつく。
“これ、どう対応します?”
“修正必要ですか?”
“まずいですか?”
空気が少し緊張する。
正義は冷静に書く。
《まず、該当データを再確認します》
事実ベース。
感情は入れない。
――
Sがすぐに動く。
“元データと照合しました。数値自体は問題なしです”
早い。
正確。
だが問題はそこではない。
正義はメールをもう一度読む。
「誤解を招く可能性」
つまり、
“どう見えるか”の話だ。
――
凛に送る。
「法律事務所から来た」
既読。
すぐ返信。
「内容は?」
スクショを送る。
数秒。
「これ、ジャブだね」
「ジャブ?」
「いきなり殴らない。まず様子見る」
正義は画面を見つめる。
「どうする?」
少し間。
「事実に問題ないなら、変えない」
即答だった。
「ただし」
続く。
「説明は強くする」
――
正義はPCに向き直る。
該当ページを開く。
・グラフの前提条件を再記述
・数値の算出方法を明示
・一次資料リンクを強調
さらに一行追加する。
《本データは公開資料に基づき作成しています》
公開。
――
メールを返信する。
《ご連絡ありがとうございます。ご指摘の点について確認いたしましたが、掲載内容は公開資料に基づいております。誤解を防ぐため、前提条件の記載を追記いたしました。引き続きご確認いただけますと幸いです。》
送信。
――
夜。
Slackは静かだった。
だが、その静けさが重い。
誰もが分かっている。
「段階が変わった」
もう、ユーザーだけではない。
組織。
法人。
そして、その先。
正義はダッシュボードを開く。
登録者:1372 → 1458。
増えている。
スポンサー:42 → 47。
数字は、むしろ良い。
だが、それが逆に現実を突きつける。
「影響が出てる」
だから、見られる。
だから、触れられる。
――
そのとき、Slackに新しいメッセージ。
“さっきの件、大丈夫なんですか?”
正義は少し考えて、書く。
《大丈夫です。事実ベースで対応します》
短い。
だが、それ以上でもそれ以下でもない。
――
深夜。
メールの返信が来る。
《ご丁寧なご対応ありがとうございます。内容については引き続き確認させていただきます》
それ以上は書かれていない。
だが、それで十分だった。
終わっていない。
続いている。
――
正義は椅子にもたれ、天井を見る。
「これが普通になるのか」
圧力ではない。
だが、圧力の前段階。
RE:PUBLICは、
無視される存在ではなくなった。
そして——
無視されないということは、
常に見られるということだった。
登録者1458人。
スポンサー47人。
成長は続く。
だが、その先にはもう、
「安全な領域」は存在しなかった。




