第20話 拡大の副作用
登録者1187人。
スポンサー34人。
ボランティア10人。
増えている。
確実に、順調に。
だが正義の中にあったのは、達成感ではなかった。
「なんか、違うな……」
ダッシュボードを閉じる。
数字はいい。
だが、体感がズレている。
チャットを開く。
新しいユーザーの発言。
“このデータ、〇〇批判にまとめてもいいですか?”
“動画に使ってもいいですか?”
“分かりやすく解説していいですか?”
正義はスクロールを止める。
「いいんだけど……」
違和感の正体は、そこだった。
第1章の頃。
ユーザーは「知りたい」と言っていた。
だが今は違う。
「使いたい」と言っている。
データを。
構造を。
RE:PUBLICそのものを。
――
Slackでも変化が起きていた。
“〇〇市、もう少しインパクトある見せ方にしません?”
“タイトルつけた方が伸びると思います”
“比較対象増やした方がバズります”
正義は画面を見つめる。
間違っていない。
全部正しい。
だが。
「それ、どこまでやる?」
誰も悪意はない。
むしろ善意だ。
伸ばそうとしている。
だが、その方向は少しずつ変わっている。
「分かりやすくする」と「強くする」は違う。
その境界が、曖昧になり始めていた。
――
夜。
凛に送る。
「ちょっと変わってきた」
すぐに返信。
「何が?」
「ユーザーの使い方」
少し間。
「当然でしょ」
「当然か……」
「広がるってそういうこと」
短いが、核心だった。
「でも、ズレる」
正義は打つ。
「最初にやりたかったことと」
既読がつく。
少し長めの返信。
「正義、それ止める?」
画面を見つめる。
止める。
つまり、制限する。
使い方を。
拡散の仕方を。
それは、成長を止めることに近い。
「……いや」
指が止まる。
「止めない」
送信。
すぐに返信。
「なら、設計しな」
――
設計。
正義はノートを開く。
・使われ方のガイドライン
・グラフの利用条件
・出典表示ルール
・文脈変更への対応
「制御じゃなくて、誘導か」
完全に止めることはできない。
なら、方向を作る。
――
そのとき、Slackに通知。
“〇〇市のグラフ、YouTubeで10万再生いってます”
正義は画面を見る。
動画を開く。
タイトル。
《【衝撃】〇〇市、税金の闇がヤバすぎる》
サムネイル。
赤文字。
強調。
断定。
だが中身は、RE:PUBLICのグラフ。
「……来たな」
再生数は伸びている。
コメント欄も伸びている。
だが、そこにあるのは、
「理解」ではなく「熱」だった。
――
ダッシュボードを開く。
登録者:1187 → 1294。
一気に伸びている。
スポンサー:34 → 38。
数字は、さらに良くなっている。
だが。
正義は静かに呟く。
「これ、俺が作りたかったものか?」
答えは、すぐには出ない。
ただ一つ分かるのは、
拡大は、純度を保たないということ。
RE:PUBLICは、もう“形を選べる段階”ではない。
形は、外からも決まる。
「それでも、やるか」
正義はもう一度、同じ言葉を繰り返す。
違うのは、その意味だった。
第1章の「やる」は、挑戦だった。
今の「やる」は、選択だ。
何を守って、何を捨てるか。
その設計を、自分で決める。
――
登録者1294人。
スポンサー38人。
RE:PUBLICは、さらに広がる。
そしてその広がりは、
もう、元には戻らない。




