第19話 広がるほど歪む
登録者1034人。
スポンサー30人。
ボランティア10人。
数字は、止まらなかった。
前日のグラフ投稿は、さらに拡散を続けていた。
YouTubeでも、いくつかのチャンネルが取り上げ始めている。
だが、その広がり方は、正義の想定とは少し違っていた。
朝、スマホを開く。
通知が溜まっている。
その中に、一つの投稿が目に入った。
《〇〇市、教育費削減している証拠》
貼られているのは、RE:PUBLICのグラフ。
だが、違う。
文脈が違う。
「……それじゃないだろ」
正義は思わず呟いた。
そのグラフは、報道回数と議会質疑の乖離を示したものだ。
教育費の増減そのものを断定するものではない。
だが投稿は、断言している。
削減している、と。
リプライ欄を見る。
《やっぱりそうか》
《メディアは隠してる》
《拡散しよう》
拡散されている。
意図しない形で。
正義はすぐに元データを開く。
数値は正しい。
だが“読み方”が違う。
「これ、どう止める……」
凛に送る。
「データ、違う使われ方してる」
返信は早かった。
「止められないよ」
短い。
「でも誤解される」
「される」
即答だった。
「情報出した時点で、解釈はコントロールできない」
正義は言葉を失う。
分かっていた。
だが、実感はしていなかった。
――
昼。
Slackでも同じ話題が出ていた。
“これ、訂正出した方がいいですか?”
“SNSで回ってます”
チームがざわついている。
正義は少し考えて、書き込む。
《公式としては、解釈は提示しない方針を維持します》
数秒の沈黙。
一人が返す。
“でも誤解広がりますよね?”
正義は画面を見つめる。
その通りだ。
だが、ここで“正しい解釈”を提示し始めたら、
それはもう別のものになる。
「どこまで踏み込むか」
第15話で決めたはずの線。
だが、現実は揺さぶってくる。
正義は続ける。
《ただし、一次情報と前提条件は追記します》
《判断はユーザーに委ねます》
完全放置でもない。
完全訂正でもない。
その中間。
――
夕方。
正義は該当ページを修正する。
・繰越金の扱いを明記
・前年比の定義を追記
・グラフの前提条件を追加
そして一行。
《本グラフは政策評価を目的としたものではありません》
公開。
――
夜。
ダッシュボードを見る。
登録者:1034 → 1121。
増えている。
だが、違和感がある。
これまでの成長とは違う。
質が違う。
チャットに新しいメッセージ。
“このグラフ、〇〇批判に使えますね”
正義は画面を見つめる。
それは、最初に避けようとしていた使われ方だった。
データは、誰のものでもない。
だが、誰かの武器にはなる。
――
そのとき、別の通知。
件名:テレビ番組制作の件
送り主は、制作会社。
《御媒体のデータを元に、特集企画を検討しています》
正義の手が止まる。
「……早いな」
1000人を超えたばかり。
だが、もう次のレイヤーが来ている。
――
深夜。
登録者:1187人。
スポンサー:34人。
数字は順調だ。
だが、正義は画面を見つめながら、静かに呟く。
「これ、もうコントロールできないな」
拡大は、成功ではない。
変質だ。
RE:PUBLICは、ただの可視化ツールではなくなり始めていた。
影響を持つということは、
誰かの意図に乗るということでもある。
正義は目を閉じる。
「それでもやるか」
答えは、決まっていた。
やるしかない。
ただし——
もう、最初と同じやり方では通用しない。
RE:PUBLICは、
次のフェーズに入った。




