第15話 どこで線を引くか
登録者318人。
スポンサー22人。
ボランティア6人。
数字は伸びている。だが、正義の中では別の問いが膨らんでいた。
「企業広告、どうするか」
凛との会話から、頭の中に残り続けているテーマだった。
その夜、正義は初めて“内部ミーティング”を開いた。
Slackで呼びかける。
《今後の方針について、30分だけ話したいです》
参加したのは4人。全員ボランティアメンバーだ。
画面越しに、少し緊張した空気が流れる。
「今日は、方向性の話をしたいです」
正義はゆっくり話し始める。
「RE:PUBLICは今、市民スポンサーで回してます。でも今後、企業からの関与が来る可能性があります」
一瞬、沈黙。
一人が口を開く。
「企業広告って、入れるんですか?」
正義は少しだけ言葉を選ぶ。
「まだ決めてない。ただ、選択肢としてはある」
別のメンバー。
「入れたら、一気に伸びますよね」
現実的な視点だ。
広告代理店にいる正義は、その意味をよく知っている。資金が入れば、開発も、人も、広告も加速する。
だが同時に、制約も入る。
「その代わり、制約も増える」
正義は続ける。
「例えば、特定のテーマに触れにくくなる可能性がある」
また沈黙。
今度は、最初に参加表明してくれた学生が話す。
「僕は、今のままのほうがいいです」
「理由は?」
「データをそのまま出すのが価値だと思ってるので。誰かの意向が入ると、意味が変わる気がします」
正義は頷く。
もう一人のメンバー。
「でも、資金ないと続かないですよね」
現実と理想。
どちらも正しい。
正義はノートに線を引く。
「じゃあ、一旦こうします」
全員が画面を見る。
「企業広告は受けない。その代わり、市民スポンサーを拡張する」
「拡張?」
「機能ごとに課金設計をする。例えば、データダウンロード、詳細分析、自治体優先リクエスト」
メンバーの表情が少し変わる。
「それなら、透明性は維持できますね」
「そう思う」
正義は続ける。
「ただし、ルールは明文化する。企業からの依頼が来た場合の対応も含めて」
会議は30分で終わった。
だが、その30分で方向は決まった。
――
ミーティング後、正義は一人でPCに向かう。
《RE:PUBLIC運営方針 v1》
・企業広告は原則受けない
・市民スポンサー中心モデル
・分析内容はスポンサーの影響を受けない
・例外条件は公開する
文章にすることで、曖昧さが消えていく。
そのとき、メール通知が届く。
件名:コラボのご相談
送り主は、地方系メディア企業。
《御媒体のデータ活用について、協業可能性を検討したいです》
正義の手が止まる。
タイミングが良すぎる。
さっき決めたばかりの方針。
「……試されてるな」
ダッシュボードを見る。
登録者:334人。
少しずつ、確実に伸びている。
Slackには新しいメッセージ。
“新しい自治体データ、明日公開できます”
チームも動いている。
正義はメールを閉じた。
まだ返さない。
「線は引いた」
理想だけではない。だが、理想を捨てないための設計。
RE:PUBLICは、ただのメディアではない。
どこで線を引くか。
その選択の連続だった。




