第二十話 母ちゃんの作るシチューの温もり 〜バルフ編〜
〜バルフの視点〜
――――始まりの大地ストファー、犬鬼族の村周辺――――【現在時刻、14時55分】
「バウ? ガウバウ! 『おっ? あの村は!』」
「あっ! どうやら、やっとバルフさんの”故郷の村”に辿り着けたみたいだねぇ〜っ!」
バルフの村を発見した歩夢は、一目散に隣に居るバルフに向かって涎を垂らしながら話し掛ける。
「バルフさんっ! 村に着いたら、バルフさんのお母さんが作ってくれる《ドラゴン肉入りの絶品シチュー》が食べれるんだったよね〜っ!」
ジュルリと、歩夢は舌舐めずりをする。
すると、そんな歩夢の姿を見た雅隆が、歩夢に向かって注意の言葉を投げ掛ける。
「おやおや、歩夢殿。 その涎は後でキチンと拭くので御座るよ?」
「は〜い! まったく、雅隆君は真面目なんだから……」
和やかなムードで談笑を交わしながら、歩夢達は犬鬼族の村の下へと辿り着く。
――――犬鬼族の村――――【現在時刻、15時5分】
バルフの故郷の村に訪れた歩夢と雅隆は、興味深そうに辺りをキョロキョロと見回した。
「へぇ〜此処が、バルフさんの家が在る村かぁ〜っ!」
「ふむふむ、割と”人間の文化”と大差が無い様に見えますなぁ〜!」
「バウ。 ギャオバフガオ、ガウガフガウバウ。 ガウ、バウガウガウギャオ。 『うっし。 んじゃお前達は、此処の”入口付近”で待っててくれ。 今、村の奴等にお前達が”危険な人物じゃない”と説明するからさ』」
「オッケー! それじゃあ、僕達は此処で待ってるからねぇ〜っ!」
こうして、久し振りに故郷の村にへと帰って来たバルフは、村の皆に大きく手を振りながら挨拶を交わす。
「バフ、ガオン〜! バフバオキャウガウ〜! 『お〜い、みんな〜! ”客人”を呼んでるからお前等も歓迎してやれなぁ〜!』」
すると、そのバルフの声を聞いた村の者達が、一斉にバルフの下へと駆け付けた。
「ギャ!? バフバオ!? 『え!? 客人だって!?』」
一言目を発したのは、《犬鬼族No.7》の称号を誇る『プラシド』と言う名の、”白色の仮面”を着けた犬鬼族の男だった。
〈おぉ、プラシドじゃねぇかよ! 相変わらず仮面なんか着けて格好付けやがってよぉ〜っ!〉
懐かしい顔ぶれを見たバルフは、次第に晴れやかな表情を浮かべていく。
「バウ! バルフガフガオ! ギャフギャオガウバウバウ! 『お! バルフじゃねぇかよ! お前が来客を連れて来るなんて珍しいな!』」
二言目を発したのは、《犬鬼族No.11》の『マノロ』と言う名の”特に個性の無い”男。
〈おっ! 久し振りだなぁマノロ! まぁ、お前との思い出は特に何も無いけどな……!〉
「バウ、ギャウギャウバウ? ガウガオガオバウバウキャオン……? 『で、その人達は私達の言葉が通じるの? 私達ですら”人間の言葉”を理解出来ないのに……?』」
心配そうな顔を浮かべているのは《犬鬼族No.13》の『ユホ』と言う名の可愛らしい風貌の女性。
〈ユホ! 少し見ねぇ内に、また”美人さん”になりやがったな! その丁寧に整えられた”毛艶”は何時見ても堪らねぇぜッ!〉
ニヤケ面を浮かべながら、バルフはユホに向かって、歩夢の”スキル”【慈愛の涙】についての説明を行った。
「ガヴバウギャン。 ガウ、バフワウガウギャヴィン、ギガギャンバフバウッ! 『その事なら心配すんなよユホ。 ”チビの方の客人”は【慈愛の涙】と言う名のスキルの御蔭で、俺等の言葉が理解出来るみてぇだからなっ!」
「バオ〜! ガオバフゥ〜ッ! バウバ〜ウ! ギャオガウガオバウバウー! 『へぇ〜! そうなのねぇ〜っ! 凄〜い! 便利な能力を持ってる人間も居るものねー!』」
〈おしっ! んじゃあ、村の奴等の警戒も解いた事だし、改めて歩夢と雅隆を俺の”実家”に案内すっかな!〉
村の者達の客人に対する警戒心を無事に解いたバルフは、村の入口付近に待たせていた歩夢と雅隆の下に行くと、二人の手を掴みながら実家の場所に向かって連れ出した。
「わわっ! いきなりビックリしたぁ〜! えっと、もう村の中に入っても良いのかな?」
すると、バルフは顔をクイッと前方に動かしながら、歩夢に自身の実家の場所を伝えた。
「バフ、ガウガウバオ。 『ほらよ、あれが俺の家だ』」
「へぇ〜! 彼処がバルフさんの家なんだねー! なんだか、”日本の家”と遜色ないねー!」
すると、その歩夢の言葉を聞いた雅隆も、興味津々にボソッと呟いた。
「むむっ……。 確かに、この村の種族は人語が話せないで御座るが……”文化レベル”は日本人と一緒と言っても過言では無いですなぁ……」
すると、犬鬼族の村が意外と発展している事に対して不思議そうな顔を浮かべている歩夢が、バルフに向かって問い掛けた。
「ねーねー! バルフさん! 犬鬼族って、どうしてこんなに凄いのー!? 何か”秘密”があるのかい!?」
〈あぁ? 秘密だぁ〜? んなの、急に言われたってなぁ……。 まぁ、一応それっぽい事は言っとくか……。 俺も、”うろ覚え”だがな……〉
すると、バルフは歩夢からの質問に対して、自身が知り得る情報の全てを話し出した。
「ガウー……。 バウバウガウガウギャオ―――以下省略。 『んー……。 秘密って訳じゃ無いんだが……。 実は俺がまだ”ガキ”だった頃に、俺達の村が《悪鬼旅団》とか《夢幻旅団》とやらに襲われてたんだが、其処にたまたま慈善活動をしている《英傑旅団》の団員の”No.1”から”No.14”の団員達が居てくれてよ? そいつ等が代わりに、悪鬼旅団と夢幻旅団の事を追い払ったらしくてな……?』」
すると、その話を聞いた歩夢は感銘を受け始める。
「ヘ〜! どうやら、この世界には色んな”旅団”が存在するんだね〜! それに、守ってくれるなんて良い旅団の人達も居るんだねぇ〜!」
「……ギャウン、ガオバウガウガウ―――以下省略。 『……とは言え、最終的には此処の”犬鬼族の村以外の種族の村”は残念ながら滅ぼされたみたいだけどな……。 特に人語を喋れる”獣人族”の奴等は、ほぼ全員が”奴隷”にされちまったらしいからな……』」
「奴隷かぁ〜……。 やっぱり、異世界と言えば奴隷みたいなイメージが有るからねぇ……。 僕も奴隷にならない様に気を付けないと!」
歩夢は気を引き締めながら、再びバルフに質問を投げ掛ける。
「それで、悪鬼旅団と夢幻旅団との争いが終わった後の話を聞かせてくれるかなぁ〜? それから、英傑旅団とどうなったのぉ〜?」
「バウガオバウ、ギャウンガオガオ―――以下省略。 『抗争が終わった後に、俺達一族は”英傑旅団の団員達”から武器の扱い方とか、料理の作り方とか、木材を使って建築する方法とか色んな事を詳しく教わってなぁ……。 だから、人間達と似てる文化になったんじゃねぇか? まぁ、相変わらず誰も人語を理解出来ていねぇがな……』」
「へー! どうやら、英傑旅団ってのは、完全に”正義の味方の集団”なんだねー! うわぁ~、何だか格好いいなー!」
すると、バルフの言葉が通じない為に、蚊帳の外になっている雅隆が、歩夢に対して聞き返した。
「む? 歩夢殿その……英傑旅団と言うのは何ぞや……?」
「あ! え〜っとね! 雅隆君にも解り易く説明するとね? その英傑旅団ってのは良い人達の集まりで、そしてその良い人達が犬鬼族の皆と一緒に協力して、この村の今の文化を作ったんだってさー!」
「ほぉ! それは素晴らしいですなぁ! 拙者も、是非ともその英傑旅団の方々と御会いしてみたいで御座るなぁ……!」
すると、そんなこんな話をしていると、やがてバルフの実家の前に辿り着いた様子だ。
「バウ、ガウガウギャオ、バウバフギャオ? バウガウガウギャオ? 『おっと、楽しそうに話している所で悪いが、この目の前の家が俺の実家だぜ?』」
「あ、本当だ! よ~し、それじゃあ早速シチューを食べるぞぉ〜っ!」
シチューの事が待ち切れない様子の歩夢は、足早にバルフの家に上がった。
――――バルフの実家、玄関――――【現在時刻、15時14分】
「ふーっ! やっとバルフさんの家に着いたね〜っ!」
すると、歩夢達は玄関に上がった瞬間に何やら”良い匂いが”立ち込めている事に気が付く……。
「くんくん……っ。 この芳しい香りは”シチュー”……っ!?」
「ガオ、ガウガウバウワウ! 『おっ、もしや母ちゃんのシチューが出来上がったみてぇだな!』」
バルフは、チラッとキッチンを覗き込むと、其処で料理をしている”母の姿”を見付けた。
「お! 母ちゃん準備が良いなぁ! 今から作って貰おうとしてたってのに、もうシチューが出来上がるじゃねぇかよ!」
「おや? お客さんかい……? 珍しいねぇ……アンタが客を連れて来るなんてねぇ……」
優しそうな笑みを浮かべながら、バルフの母は歩夢と雅隆の姿を眺めた。
「ヘヘっ……! どうやらコイツ等が、母ちゃんの《特製ドラゴン肉シチュー》を食いたいらしくてよぉ! だから食わしてやろうかなって思ってよ……!」
「あらあら……。 アンタがそんな”優しい事”を考えるなんて……台風でも来るのかしらねぇ……?」
「ヒデェ言い草だが……。 まぁ、そんなロクでもねぇ俺も”今日で変わった”って事だよ……! それよりも聞いてくれよ! この歩夢って奴は”俺等の言葉”が分かるんだぜー!」
「あらあら、それはそれは、凄い事じゃないのよ〜」
バルフの母が歩夢の下に近寄ると、歩夢は照れ臭そうに頬を掻いた。
「ヘヘ、ほらほら! そんな照れてねぇで、歩夢も早く母ちゃんに挨拶してやんなっ!」
と、バルフに言われた歩夢は、バルフの母親に向かって自己紹介を行った。
「ど、どうも! 初めまして……! 僕の名は『餅木歩夢』と言います! シ、シチュー! 楽しみにしてますよ!」
「あらまぁ! どうも丁寧に此方こそ初めましてぇ……。 あらあら、それにしても貴方可愛いわねぇ……! えっと”僕っ子の女の子”? それとも”女装をしている男の娘”かしら?」
「ぼ、僕は男の娘です……!」
「あ〜らぁ! 坊やとっても可愛いわねぇ……! よーし! おばさん張り切ってシチューを作って上げるからね!」
「はいっ……! ありがとうございますっ!」
〈母ちゃん……。 相変わらず、”可愛らしいモン”に目が無いみてぇだな……〉
すると、犬鬼族の言語が解らない為に、またしても蚊帳の外になっている雅隆は、寂しそうに歩夢に話し掛ける……。
「歩夢殿……。 言葉が解らない拙者の代わりに、拙者の事をバルフ殿の母君に紹介して欲しいで御座るよ……」
「あ、うんっ! 分かった! それでね、僕の隣の彼は『大宮雅隆』君って言うんだよ。 彼はこの村の種族の言葉が解らないから、優しく接してあげてね!」
「えぇ。 分かったわよぉ……! ふふふ、それじゃあ、みんな”成長期”だと思うから、シチューは大盛りにしてあげるからねぇ〜っ♪」
「やったーっ! 大盛りシチューだーっ! やったね、雅隆君っ! 大盛りにしてくれるってさ〜!」
「むむっ!? それは誠で御座るか!? 万歳ッ! 万歳で御座るよ〜ッ!」
と、雅隆と歩夢は万歳しながらシチューが出来上がるのを、バルフに案内されたテーブルの前で待ち続けた……。
――――バルフの実家、リビングルーム――――【現在時刻、15時22分】
「は〜い。 ちょっと待たせちゃったけど、出来たわよぉ〜。 まだ出来立てホカホカだから、口の中を火傷しないようにゆっくり食べてね〜っ♪」
と、美味しそうなドラゴン肉入りのシチューが、歩夢達の目の前のテーブルの上に一つずつ置かれてゆく。
「おおっ! 母ちゃんありがとな! うほー! 美味そ〜っ!」
「やったーっ! いっただきまーす! あむっ、あむっ! ん〜! 熱っついけど美味し〜い〜!」
やっとの思いで、特製ドラゴンシチューを食べる事が出来た歩夢は、ついつい嬉しそうな声を漏らしてしまう。
「うむ! 実に美味で御座るな……! 特に、この口の中に入れた瞬間にホロホロッと溶けてゆく、このお肉が堪らなく美味しいで御座るなー!」
歩夢と雅隆は、生まれて初めて食べた”ドラゴンの肉”の味に対して、僅かな感動を覚えていた……!
「ヘヘっ……! どうだ? 初めて食うドラゴンの肉は……! この世界では、普通のドラゴンは何の力も持たない”只の家畜”同然なのさ! ぶっちゃけると、ドラゴンは俺達”犬鬼族”と比べても圧倒的に弱ぇしな!」
「ヘ〜っ! そうなんだ〜! 勝手に自分の中でドラゴンは強いってイメージがあったけど、この世界だとドラゴンの扱いは僕達の世界で言う所の”牛と豚と鳥”と余り変わらないんだね〜っ!」
「おっ! お前達の世界ではブタとウシとトリってのが居るのか! 因みにこの世界だと、食用の主な肉類は、”ドラゴン”と”モノフ”と”ベルマ”って奴だな!」
と、詳しくバルフから、この世界の食料の話を聞いた歩夢は、続け様に質問を送る。
「へ〜! じゃあこの世界でミルクを出す生物はいるの? 後、卵を産む生物とか!」
「あぁ、ミルクを出すのはさっき言ったモノフって奴がいるな……! イチゴオレとかフルーツオレとか俺が大好きな飲料系は大体モノフの乳から絞って取られてるな! それで、卵を産むのはドラゴンくらいだなぁ……因みにドラゴンの卵もすげぇ美味ぇぞ!」
「なるほど! フルーツオレが有ると言う事は、この世界には”果物”があるんだ! それで、イチゴの他にどんなフルーツがあるの?」
「えーと、イチゴと、リンゴと、ブドウと、オレンジと、バナナとか色々あるぜ!」
すると、そのバルフから発せられた言葉を聞いた歩夢は、驚きの声を上げた……。
「えっ!? そんなに有るの!?」
すると、その驚いている歩夢に対して、バルフが補足を入れてくれた。
「まぁ因みに、このフルーツは全て昔に異世界から来たって奴が、世界中で勝手に持ち込んだ種を撒いて勝手に育ったっていう奴らしいから、これ等は元々お前達の世界にあった奴と一緒だと思うぜ?」
「うん確かに、林檎とか葡萄とかは元々僕達の世界に有った物と一緒だよねっ! へぇ〜、なっるほどね〜! と言う事は、元々農業をしてた人が、たまたま果物の種を沢山持ってる状態で”異世界転生”しちゃったって事なのかなぁ〜?」
「まっ、そこら辺の昔の出来事は、俺もそこまで詳しく知らねぇから何とも言えねぇけど、恐らくそう言う事なんじゃねぇかな? ってよりも、ほらっ! 喋ってばっかねぇで、早くシチューを食っちまおうぜ! じゃねぇと冷めちまうぜぇ?」
「うんっ! それもそうだね! あむっあむっ、バクッバクッ!」
と、バルフに促されるままに、歩夢は再びシチューをモグモグと食べると、余りもの美味しさに涙が溢れ出そうになった……。
「うぅ……美味しいよぉ……。 僕、シチューが大好物で……。 それで、こんなにも……美味しいシチューを食べれるなんて……! 感極まって……泣きそうだよぉ……。 うぅ……」
「うむ! 拙者も歩夢殿の気持ちが良く分かるで御座る……! 拙者も泣き出しそうになるぐらい、このシチューは正に”絶品”で御座るよ……!」
「あらまぁ、歩夢くんと雅隆くんったらそんなに喜んでくれて……! ふふっ、作った私も嬉しくなっちゃうわねぇ……!」
〈おっ! 母ちゃんも喜んでくれてらぁ!〉
「ははっ! どうだ! 泣きそうな程に美味ぇだろ!? まだまだ有るから、ドンドンッと食って良いぜ〜ッ!」
「うえ〜ん……嬉しいよ〜! うえ〜ん……っ!」
すると、歩夢は大好物の絶品シチューを食べた事によって、余りもの感激に遂に”泣き出し”始めた……!
すると、その瞬間に歩夢の”スキル”が発動する……!
【慈愛の涙】には、異種族との会話を翻訳する事以外にも、スキルの取得者が泣くと、何処からともなく誰かが助けに来てくれると言うスキルの効果が有った事を、うっかり歩夢は忘れていたのだった……。
ガヤガヤ……ガヤガヤ……!
すると、途端に外の様子が何やら”賑やか”になっている事にバルフは気が付く……。
「……ん? なんだ? やけに外が騒がしいな……?」
「あらあら……? 誰かがこの村に”侵入”して来たのかしらねぇ……?」
「うぅ……ヒック……! うえ〜ん……このシチュー、本っ当に美味しいよぉ〜……!」
「歩夢殿、口の周りに沢山シチューが付いているで御座るよ……」
そんな、他愛ない話を歩夢達が続けていると、突如として”二人組の男女”がバルフの家に押し入って来た……!
『此処に助けを求めている人は居らぬかー!』
『此処に助けを求めている人は居りませんかー!』
「……ふえ?」
〈え? と、突然……誰だ?〉
すると、バルフの家に無理矢理押し入って来た謎の男女は、泣いている歩夢の姿を見付けるや否や、瞬時に歩夢の下へと駆け寄って来る……!
「おおっ! 御無事で何よりです……! 安心して下さいッ! 僕達が来たからには、もう安心ですよ……!」
謎の男が歩夢を介抱すると、もう一人の女はバルフ達の顔をギロッと鋭い目付きで睨みながら凄んだ……。
「えっ!? なに、なんなのっ!?」
あたふたしながら歩夢は、困り果てた表情を浮かべる……。
「もしや貴様らか? こんな幼気な子供を泣かせた”外道”はッ……!」
〈な、何だコイツ! いきなり俺達を外道呼ばわりしやがって!〉
バルフは、苛ついた様子で負けじと二人組を睨み付けた……。
すると、漸く自身のスキルの所為で、とんでもない事になって仕舞ったと悟った歩夢は、直ぐに二人の男女に向かって弁明を行った。
「まっ、待って下さい……! ぼ、僕はッ! このシチューが美味しくって、それでついつい涙が出て仕舞っただけで……。 そう! これは所謂、”嬉し泣き”ですよ! 嬉し泣き!」
すると、その歩夢の話を聞いて、やっと事情を理解した様子の二人組は、バルフ達に向かって平謝りをしながら謝罪をする。
「なっ!? そ、そうでしたか! 良かった……! 無事ならば何よりですよ……! 此方も”早とちり”して、大変申し訳御座いませんでした……!」
「と、所で……。 何方様で御座るか……? 突然現れて……?」
突如として現れた謎の男女に向かって、雅隆は怪訝な顔を浮かべながら問い掛けると、その雅隆の言葉に対して二人の男女は素早く応えた。
「はッ……! し、失礼ッ! 僕の名は《英傑旅団団員No.22》の『ジルバー』と申します……ッ!」
「あ、はいっ……! わ、私の名は《英傑旅団団員No.23》の『サヨコ』と申します……! み、皆様方! 私の勘違いで外道呼ばわりして仕舞い……誠にすみませんでしたぁ……ッ!」
〈マジかよ……。 コイツ等も《英傑旅団》なんかよ……。 まぁ、だとするなら良い奴等なんだろうな……〉
すると、必死にペコペコと平謝りを行っているサヨコとジルバーに対して、バルフが首を傾げながら話し掛ける……。
「所で、お前達はさっきから”人語”で話しているのか……? それとも”俺達の言語”で話しているのか……? お前達の言ってる言葉が、何故だか雅隆にも俺にも”聞き取れてる”みてぇだが……?」
すると、バルフからその事を聞いたシルバーは、咄嗟に説明を行う。
「あ、はいっ! 実はですねーっ! えっと、僕達の首元に着けている”首輪”を良く見て頂けると解るかと思いますが、この特殊な首輪は、どんな種族の言語だろうと勝手に言葉を”翻訳”してくれると言う素晴らしい機能を搭載しているんですよー!」
「はぁッ!? 言葉を勝手に翻訳……だとッ!?」
「はい、そうなんです! 詰まり、この首輪さえ付けて仕舞えば、誰でも”言語の壁”をぶち破る事が出来るんですよ〜っ! なので僕達は、不自由無く他の言語の種族達と会話が出来るんですよねー!」
すると、その事を聞いた雅隆は、嬉々としながら二人に問い掛けた。
「おお! それは誠で御座るか……! それならば、図々しいとは思いますが是非とも拙者にも……! その”首輪型の翻訳装置”を譲って下さらないかな〜……っと思うのですが……。 駄目……ですかなぁ?」
雅隆は苦笑いを浮かべながら、必死にジルバー達に頼み込む……。
「う〜ん……。 然し、この機械はつい最近発明されたばっかで、僕達も残り”数10個”程度しか持っていないんですけど……。 まぁ、然しこれも”何かの縁”ですし、そこの眼鏡の人と其処の二人の犬鬼族にも特別に差し上げましょう!」
「え!? 雅隆だけじゃなく、俺達も貰って良いのか……!?」
「えぇ、勿論良いですよ。 そもそも勝手に貴方の家に押し掛けて来たのは僕達の方ですし……。 これは、ほんの”お詫びの気持ち”ですよ! はいどうぞ! これで他の種族達とも会話が出来る様になると思いますよ〜!」
と、ジルバーから翻訳機能が備わった首輪を受け渡された雅隆とバルフは、早速自身の首元に着けてみる事にした。
「ほほぉっ! では早速、首に装着してっと……」
「おおッ! 雅隆も首に付けたか……? うっし! お〜い雅隆〜! 俺の言葉が理解出来るかー?」
すると、そのバルフの声を聞いた途端、雅隆は思わず驚きの声を上げた。
ついさっき迄の間、全く解らなかった筈のバルフの言葉が鮮明に聞こえ始めたのだ……!
「……!? おおッ! 拙者にも……わ、解るで御座るよ……! バルフ殿も、拙者の言葉が理解出来るで御座るか……?」
そして、その雅隆の返答を聞いたバルフも思わず驚きの声を上げる。
「おお〜ッ! 俺も雅隆の言葉がバッチリと解るぜ……! へへへ、母ちゃん母ちゃんッ! こ、この首輪すげぇよ! やっぱり《英傑旅団》ってすげぇんだなぁ……ッ!」
「あらあら〜本当ねぇ〜っ! しかも、雅隆くんったら意外と”イケボ”だったのねぇ〜! おばさん惚れちゃうわよぉ〜……! キャッ!」
「おいおい、母ちゃ〜ん……。 いい歳して何やってんだよ……ったく。 あっ! えと、英傑旅団の皆さん、俺達にこんな”便利な首輪”を下さって本当に有り難うな……ッ!」
バルフは誠心誠意込めて、全力でジルバーとサヨコに対して感謝の言葉を述べると、ジルバーは照れ笑いを浮かべながら鼻の下を擦った。
「いえいえ、此方こそ勝手に家に押し入ってすみませんでした……! それでは僕たちは、この辺で失礼致しますね!」
すると、自身のスキルの効果に対して、少しだけ不安感を覚えた歩夢が、ボソッと呟いた……。
「ん〜。 だけど僕のスキル【慈愛の涙】は、”嬉し泣き”した時も誰かが助けに来ちゃうのはちょっと不便だなぁ……」
「まぁ、強力なスキルは、たまに”デメリット”もありますからねぇ〜……。 さてと……それでは、皆様……さようなら!」
「私達は、この辺で”パトロール”していますから、何か御用がお有りであれば何時でも声を掛けて下さいねー! それでは……バイバ〜イ!」
英傑旅団の二人は、歩夢達にそう言い放つや否や、再び何処かに向かって走り去って行った……。
そんな二人の後ろ姿を見送ったバルフ達は、にこやかに話を続ける。
「まっ、色々あったが! これで俺達は歩夢の”通訳”が無くても、お互いに話せる様になったって事だな!」
「えぇ! これで拙者も、バルフ殿と直接会話が出来るで御座るな……!」
「あぁッ! へへへ、やったな雅隆……!」
そして二人はガシッと握手を交わす。
すると、そんな二人の姿をバルフの母が微笑ましい表情で眺める。
「ふふふ、”男同士の友情”も良いけど、先ずは御皿の中に残っているシチューを食べ終わってからにしたらぁ〜?」
まだシチューを食べ終えていなかった事を思い出したバルフ達は、思わずハッとする。
「あ、俺とした事が完っ全に忘れてたぜ! よしっ……そんじゃ改めて、頂きまーすっ!」
「拙者も頂くで御座る〜! あむっバクッ!」
「バクッバクバク……! 美味しぃ〜っ♡ バルフのお母さんッ! シチューおかわりっ!」
「ふふっ、どんどん食べてね〜♪」
「バクバクッ! 因みに、母ちゃんの名前は『ドガイゴス』っつー名前だからなー! バクッもぐもぐ」
「い……意外と”威圧感”のある名前で御座るな……」
「バクッバクッ。 えへへ~、ドガイゴスさーん! おかわりーっ!」
「ふふっ、喉に詰まらせない様に良く噛んで食べてねぇ〜♪」
かくして、再び歩夢達は仲良くシチューを食べ続けるのだった!
【現在位置】
【バルフの家】
【現在の日時】
【4月7日 19時37分 春】
【餅木歩夢】
【状態】:大満足
【装備】:フリフリのワンピース 鞄
【道具】:鞄の中に様々なコスプレ服
【スキル】:慈愛の涙
【思考】
1:ご馳走さま〜!
2:ふぅ〜食べた食べた〜……。
3:う〜ん……お腹いっぱいになったから眠たくなって来ちゃった〜…。
【基本方針】:色んなモンスター達と仲良くする。今日の所は取り敢えず寝る。
※英傑旅団に対して強い憧れを抱き始めました。
【大宮雅隆】
【状態】:幸福
【装備】:眼鏡 漢字一文字で忍と書いている白い服 リュック 首輪型の自動翻訳装置
【道具】:リュックの中に様々なコスプレ服
【スキル】:永遠の瞬間移動
【思考】
1:う〜む……中々に美味で御座った……!
2:一先ず、なんとか無事に明日は迎えられそうで御座るな……!
3:然し、明日以降はどうするで御座るかねぇ……。
【基本方針】:一文無しなのでお金を稼ぐ。バルフの家で寝泊まりする。
※翻訳装置の御蔭で、バルフと会話が出来る様になりました。
【バルフ】
【状態】:満足
【装備】:威嚇用の爪と牙 首輪型の自動翻訳装置
【道具】:母ちゃんの写真
【スキル】:勇気の咆哮
【思考】
1:はぁ〜。 やっぱり母ちゃんの作る飯は美味ぇなぁ〜!
2:くわぁ〜……! 腹一杯になったから眠くなって来たな〜……。
3:やっぱ、コイツ等と一緒に旅がしてぇな〜……。
【基本方針】:歩夢達に一緒に旅をしようって誘われたら遠慮なくOKする。もし誘われなかったら自分から改めて仲間に入れてくれと懇願する。
※翻訳装置の御蔭で雅隆と会話が出来る様になりました。
【ドガイゴス】
【状態】:朗らか
【装備】:エプロン 首輪型の自動翻訳装置 双翼の腕章
【道具】:おたま
【スキル】母の愛【効果】:真心込めて作った物が素晴らしい出来栄えになる。料理は絶品に、編み物はお店で売れる程のレベルに達する。
【思考】
1:ふふふ、みんなウトウトしちゃって可愛いわねぇ……。
2:こんな所で寝ると風邪引くわよぉ……。
3:でもみんな寝る前にお風呂に入って歯磨きもするのよぉ〜?
【基本方針】:歩夢達をお風呂に入れる。歩夢達に歯磨きをさせる。歩夢達にぐっすりとベッドで眠って貰う。
※翻訳装置の御蔭で雅隆と会話が出来る様になりました。
【現在位置】
【犬鬼族の村】
【プラシド】
【状態】:感謝感激
【装備】:至福の仮面 青色のマント 至福のレイピア 首輪型の自動翻訳装置
【道具】:万能薬2個
【スキル】神の声【効果】:自身が仕える神々の声を聴く事が出来る。
【思考】
1:何やら怪しげな二人組から首輪型の翻訳装置を頂いたぞ!
2:これで、私の他の種族の”仲間達”の話も通じる事となった!
3:やりましたよ! ラリア様! リオワ様!
【基本方針】:瘴気の男神ラリアと終末の女神リオワに仕える。
【マノロ】
【状態】:健康
【装備】:生命のピアス 鋼の手斧 首輪型の自動翻訳装置
【道具】:霊薬3個
【スキル】消えゆく思い出【効果】:自分に関する記憶を他人の脳内から消し去る事が出来る。
【思考】
1:…………。
2:………………。
3:……………………。
【基本方針】:無し
【ユホ】
【状態】:ワクワク
【装備】:愛のショットガン 愛のリボン 首輪型の自動翻訳装置
【道具】:歌の練習用のマイク
【スキル】心を震わせる美声【効果】:自分の歌声で、他人の感情を動かす事が出来る。
【思考】
1:やった! 翻訳装置を英傑旅団の人達から貰っちゃった!
2:これで、他の種族の方達にも私の美声を届ける事が出来るわねっ♡
3:待ってなさい”世界”ッ!
【基本方針】:トップアイドルになる。
【現在位置】
【犬鬼族の村周辺】
【ジルバー】
【状態】:パトロール中
【装備】:英傑旅団の団員服 英傑の剣と盾 首輪型の自動翻訳装置
【道具】:首輪型の自動翻訳装置数個分 財布
【スキル】目覚める正義の心【効果】:このスキルを習得した瞬間に、急激に誰かを救いたいと言う気持ちで溢れ返って来る。常に正義の心に目覚めている為、何度倒れても諦めずに立ち上がる事が出来る様になる。
【思考】
1:うーむ、先程ついつい犬鬼族の村の人達にも自動翻訳装置を差し上げて仕舞ったが……。
2:まぁ、”悪用”はされないだろうし大丈夫でしょう……!
3:さぁ……! パトロールだ……!
【基本方針】:世界中をパトロールする。悪鬼旅団と、嘗て自分も所属していた夢幻旅団の団員を一人も残さずに倒す。
※バルフ以外の村の者達にも自動翻訳装置を手渡しました。
【サヨコ】
【状態】:パトロール中
【装備】:蒼色の和服 英傑の剣と盾 首輪型の自動翻訳装置
【道具】:首輪型の自動翻訳装置数個分 財布
【スキル】渦巻き斬り【効果】:まるで渦を巻くように敵を複数回斬りつける事が出来る。峰打ちは出来無い。
【思考】
1:然し、あの子可愛かったな〜……! あ〜ん、名前、聞きそびれちゃったな〜……。
2:まっ、いつかまた会った時に聞こうかな〜。
3:そう言えば、此処の近くの教会に”ネリアスのお墓”があるんだっけか……? パトロール中だけど……後で御参りにでも行ってみようかな……。
【基本方針】:世界中をパトロールする。ネリアスのお墓に行ってみたい。もし今も元気に生きているのならアビウスとアケミと鯛造とも再び出会いたい。
※バルフ達以外の村の者達にも自動翻訳装置を手渡しました。
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