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赤碕姫香とジャンヌ・ダルク  作者: 本渡りま
EPISODE Ⅰ 出会い編 後編
22/22

第4節Ⅰ「朝霧の誓い」

 ――ピクリと、全身に神経が伝わったような衝動が、体中を駆け巡っていた。


「……ぅ……?」


 目を開ける……でも、真っ暗で何も見えなかった。網膜が逝かれたのか……と思った私は目を瞑りなおしてまた開いた。けど、まだ真っ暗だった。


(なんで――あ、そうか……ここはすばるの部屋だもんな)


 網膜が逝かれているのではないか……という事はなく、すばるの部屋で寝ていることを思い出した。

 この部屋は太陽の光が差し込まないから、昼なのか夜なのか判らなくなってしまう……。いい加減……太陽が当たる部屋に引っ越せよ……。


「うぅ……ッ!? 頭いてぇ……」


 ピキリッ……と電流が走ったような痛みが、脳全体を麻痺させる。なんだこの痛みは……? いや……昨日、酒を飲んだせいか……。二日酔いになってしまった……。


「あぁ、くっそ……焼酎をストレートで飲んだのがいけなかったのかなぁ……? うっぷ……二日酔いだよぉ……頭いてぇ……」


 呻いても何も始まらないことに気づいた私は騒ぐのをやめ、起き上がって床下部屋から出た。


「うわっ……眩しぃ……」


 くらっとするような眩い光が目に差し込む。それが影響で、また頭が痛くなってきた。


「くそ……目が、頭が、痛いよぉ……」


 眩暈が起こしたようにふらふらと歩く。店の入り口のいつも座る場所に寝転んだ。

 朝の光が眩しくて、磯が香る風が清々しい……と元気があるときはそんな気分だが、生憎その磯風が逆に気分を損ねるものとなってしまった。

 そんな最悪の目覚めの中で、何か大切な事を忘れているような――。


「あ、そういや……ジャ――シャルの存在忘れていた」


 ジャンヌ――もといシャルの事を頭痛のせいで存在忘れていた。シャルの姿が見当たらなかったけど、一体どこに行ったんだろう……?


(そういや、名前が分かったのに今更本当の名前を呼ぶのはなんだかしっくりこない……)


 たった二日なのに……癖がつくのって本当に早いんだな……と、そう思った。


「おぉい……ジャンヌ~いるかぁ?」


 とりあえず今まで通り、名前を呼んだ。すぐに来ると思うけど……。


「―――――――――――――」


 空返事だった。いったいどこにいるんだろうか?


「ジャンヌ……どこだぁ?」


 仕方がなく起き上がって、ジャンヌがいるか確認しに店内を見回した。


「――――」


 いない……そう言えば、昨日の夜からすばるの姿も見当たらない。店をほったらかして言った何処で油を売っていやがるんだ?



「くそっ……何やっているんだ、あいつらは……すばるはともかく、ジャンヌはどこに行ったんだ……?」


 正直、昨日みたいに西園寺の刺客に襲われる可能性だってある。いや、もう襲われているかもしれない……。


「こうしちゃいられねぇ……探すか」


 ささっと着崩れした部分を直して、店から飛び出した。

 この近くにいればいいのだが……と不安になりながら内心でつぶやいた。


「あ、姫香さん。おはようございます!」


 目の前からジャンヌが現れ、思いっきりズゴォッと顔面から滑ってしまった。

 突然何気ない顔で現れて、しかも普通に挨拶するなんて……でもそれが普通な行動か。


「ひ、姫香さん、大丈夫ですか?」


 ジャンヌは、思いっきり滑りこけた私を介抱する。


「あぁ……掠り傷程度だから大丈夫。てか、ジャンヌはどこに行っていたんだ?」


「すばるさんに頼まれて近くの店で買い出しに行ってきました」


 確かに大きな紙袋を隣に置いている。中身は朝食用のパンと店で使う小麦粉だ。証拠としては成り立っている。そして、買い物のメモとは違う二つに畳んだ紙が数枚あった。


「なぁ……この紙はなんだ?」


 そう言って私はこっそり手に取る。


「ダメです!」


 ふふと微笑みながら、ぱちんと私の手を叩きはらった。余程、やましいモノの情報でも書かれているのだろうか……?


(いや、違う……もしかしたら、な)


 昨日の報告書が脳裏によぎった。母親の情報をまだ探していると書かれていたから、多分その情報のメモかな?


「……母親、必死に探しているんだろ?」


「え?」


 予想通りの反応……思わず口に滑ってしまったが、やはりあの紙に書かれているのは母親の情報だろう。


「素直になって探したらどうだ。期間に縛られているなら次に生かして情報をかき集めるのはいいが、今すぐ会いたいなら命令無視してまで探したほうがいいぞ。そうでもしないと、きっと後悔すると思う」



 勿論、私のわがままも含まれている部分もある。だけど後悔するよりは断然いいと思う。私だってそう、妹たちに会うためにここにいる。数か月前に突然衝動的に妹たちに会いたい問う気持ちが芽生えて、必死に働いて金を作って長野の地元にいる妹たちに絶対会う。即決で決めた事だ。

 うだうだ悩んでいるより、早く行動すれば良い方向へ行けるはずだ。


「…………………」


 その言葉を聞いたジャンヌは地面に向けてうつむいてしまった。


(しまった、言い過ぎたか?)


「まあ、そんな事もあるって。そうだ、紙袋持っていくよ」


 少しでも機嫌を良くしようと目の前にある紙袋を手に取った。


「ありがとう、姫香さん」


 先ほどまでの俯いた様子はどこへやら、いつの間にか明るい笑顔に戻っていた。


(まあ、いっか)


 とりあえず機嫌も良くなったし、見つかってよかった。一石二鳥だ。


「そういや、すばるに頼まれて買い出し行ったって言っていたけど、当の本人のすばるはどこに行ったのかしらない?」


「私が出かける前までは店に居ましたけど、それ以上は――」


「そっか……全く、すばるは何やっているんだ?」


「さあ?」


「ま、いっか。とりあえず飯食おう」


 そう言って、いつも座る場所で朝食のパンを手に取った。

 ぱくりとパンを食べる。うん、うまい。このパンは近場の西洋店で販売される数量限定のフランスパン。香ばしい小麦粉を贅沢に使ったパンで、亜米利加の一部地域しかこの香ばしい小麦粉の原料の小麦は作っていないという。


「そういえば、パンで朝食取るの久々だなぁ……」


「そうなんですか? 私はほぼ毎日パンですけど」


「そうなのか? 私なんてほとんどすばるが作ったおむすびばっかりだったけどな」


「おむすび……ってなんですか?」


「おむすびっていうのは、まあ、お米を丸く固めてその中に具材などを入れる……簡単に作れるご飯だよ」


「簡単に……私にも?」


「そう、誰でも作れる簡単料理だよ。今度作ってみるか」


「うん、作ってみたい」


「わかった、米があるときに一緒に作ろう」


 そう言って、私は残りのパンを押し込むように口に突っ込んで食べつくした。


「さて……今日はどうする? 西園寺はお前を殺そうとしてくるし……」


「え……西園寺殿が……私を?」


 昨日から命を狙われているのは知っているけど、その刺客を輩出しているのが西園寺だっていう事をまだ彼女は知らなかったっけ……。


「まあ、その……だな。単刀直入に言うとだな、西園寺はお前を殺そうとしているんだ。多分、何らかのモノを見てしまったせいで」


「何かって……そうだ。私あの時、見とれていたものがあったような……」


「え……? じゃあ、西園寺邸で何を見たの?」


「何って……普通に庭とか屋敷の一部を眺めていましたけど……? あと、鎖の部屋にあった水晶玉に見惚れていました……」


「そ、それだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 思わず大声を出してしまい、それにびっくりして悲鳴を轟かせたジャンヌ。


「やはり……西洋からの密輸入していたのは本当だった……それが偶然にもジャンヌの目に焼き付けてしまった……」


「え……?」


「……ここじゃ、分が悪い。床下部屋で話そう」


 そろそろ漁船が帰ってきて、港が賑わう時間帯になる。流石にここで話すわけにはいかない。どこからか刺客がまた襲ってくるかもしれない。

 場所を床下部屋に移動し、部屋を明るくしてから話を続けた。


「簡単に説明するとだな、西園寺木見助はこの街じゃちょっとした商人だ……まあ、ジャンヌなら知っていると思うが。で、ここからが本題だ。西園寺は数年前から黒い噂が流れているんだ」


「黒い噂?」


「密輸している。そして密輸に関わった人全員が謎の失踪を遂げている……、という噂がね。まあ、警察も動いてはいるんだが西園寺は国を動かす力を持った商人だ。それにビビッて全く捜査も手を付けられねぇって話だよ」


「えぇ……父さんは悪徳商人と取引していたんだ……」


「まあ、世界から見ればいい商人だと思われているけど、こっちから見ればクソ以下のゲス商人だ」


「……私、一体どうすればいいのでしょう。船は明日まで来ないし……命を狙われるとするなら……」


 おどおどした様子で困っている。言っちゃ悪いが、とてつもなく可愛い。今すぐでも彼女に襲い掛かりたいぐらい可愛い!

どうする……そんなの決まっている。ジャンヌを守るのは私しか居ないのだから。


「……それなら、私が守ってやるよ」


「え?」


「え、じゃないだろ。元々、アンタを護衛するために西園寺に雇われたんだ。たとえ、依頼主が裏切っても最後までしっかり守ってやる」


「そう、でしたね。……では改めて。私を最後まで守ってください」


 その言葉は、結婚式場で夫婦の永遠に誓うような、約束の誓い。澄んだ瞳に誓って、私は彼女の最強の盾になる。何があろうとも、必ず母国の船に乗せるまで……。


「あぁ……必ず。このロザリオに誓って――」


 懐から取り出したロザリオをジャンヌの前にかざす。


「ええ……、最後までよろしくね。姫香さん」


 私と同じようにジャンヌも懐からロザリオを取り出し、私の前にかざした。


「なぁ、思ったんだけど。ロザリオを相手にかざすとなんかいいことでも起こるのかな?」


「さあ?」


「さあって……。……知っているんじゃないの?」


「知りません。基本ロザリオをかざす人なんて見た事無いですよ」


 がーん、とショックを受けた。じゃあ、私って意味のない事をしていたの……?


「……ふふっ、嘘ですよ。古言い伝えですが、ロザリオをかざすと願い事や誓い事が必ず順守されるって……」


「な、なんだぁ……知っていたなら、先にそう言ってよー」


「ごめんなさいね。ふふっ」


 ジャンヌが面白おかしく笑っていた。……思わず、私までつられるように笑ってしまった。


「まあ、とにかく今日はどうするか……。じっと動かないという手が一番安全だが、家にいずっといても嫌だろ?」


「まあ、そうですね。家の中にいても退屈ですし……それにここに居るという事にいつ気づかれてもおかしくはありません」


「そうだな……家にいても、必ずバレないと限らない」


「……変装していくとか、どうでしょう?」


「その手ならアリだな。知り合いに、着物店があるからそこで変装していこう」


 そうと決まればさっそく行動だ。床下部屋から出て、知り合いの着物屋に向かった。

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