表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/70

第18戦 VS東行桜

「しゃる・うィー・花見?」


朝起きた私に母さんが放った一声は、あまりネイティブな発音ではなかった。







「家人さん、明らかに季節間違えてません?」


ユカの吐息は白く、体はかすかに震えていた。

私も大して変わらないが。


「母さんに聞いてくれ・・・・・寒い」


この時期に桜が咲いているわけが無かろうに。

まあ、ここは大和家から10分もかからない位置だからな。

本邸を囲んでいる山に、ちょいと散歩に来ただけだと思えば良いか。


「さあ皆、着いたわよ!」


花の無い桜も、もしかしたら風情かも知れんな。

葉桜という言葉もある事だし。

今の時期は葉ですら無いが。

・・・・・って


『えええええええ?!』


「わあ、すごいですねっ♪」


「すごいきれいです・・・」


「何故咲いている・・・」


そこにはとても大きい桜が満開となっている。

周りはほとんど落葉した木が多いので、一際美しく咲いている。


「あ、そっか。お兄ちゃんは知らないんだっけ」


「どういうことだ?」


「説明しよう!」


「いや、母さんはいい」


冷たくあしらうと、母さんは「いーもん・・・ふんだ・・・」とか言いつつ地面に『の』を書き始めた。

母さんは説明が下手だからな。

理解するまでに、何時間かかるかわからん。


「ということで、父さん頼む」


「あれは東行桜という名前の桜だ。その昔、とてもせっかちな事で有名な東行法師という人物が、その桜の下でモテないことを悔やんで自殺して以来、咲くのが普通の桜より早くなってしまったそうだ」


「笑えるような、笑えんような・・・」


我が家の近くにそんな珍しくてアホみたいな桜があるとは。

私がリアクションに困って間に、渡部がレジャーシートをひいて宴会のセッティングをしていた。


「母さん、昨日も10リットル以上飲んでいたのだから、酒は控えた方が良いんじゃないか?」


「花がある、酒がある、これで飲まずにゃいられんってもんよ!」


「・・・未成年には飲ませるなよ」


止めても無駄だろう。

どうせ母さんが飲みすぎで体を壊すことも無いか。

飛行機からヒモ無しバンジーをしても死ななかったくらいだしな。


「それにしてもせっかちな桜か・・・・金取れそうだな」


「お金はいただいておりませんが、ちょっとした穴場として、通な旅行好きには知られているそうですよ」


たまにそれを見に来た客を大和家に泊めたりもしますよ、と渡部は続ける。

客は大和邸内で道に迷ったりしないのだろうか。


「あ、さっそく通な旅行好きの方が来てますよっ★」


「あれ、橘!?」


「樫野木、どうしたんだこんな所に?」


「・・・橘君・・・」


あ、森もいた。


「いや、うちの叔母さんが(以下少略)」


通な旅行好きは、どうやら林葉達の叔母さんのようだ。

しょっちゅう振られて傷心旅行に行っていたからな。


「・・・それで実は・・・」


「ああ、分かった」


ということは森と樫の木が入・・・・


「ヌヌ〜ん」


「ってヌヌちゃんいつからいたんですか?!」


「いつと言われても・・・」


「ヌ〜ん」


大体ヌヌ猫は私の肩にいつの間にか乗っていたり、ついてきたりしているが。

描写が無いだけで。

今回はバッグの中で丸くなっていた。

我が家の猫はコタツだけでなく、バッグの中でも丸くなるらしい。

流石に宝蓮荘の猫は一味違うな、と考えているとカンナが自己紹介を始めた。


「おにいちゃんのですね、はじめましてボクは妹のカンナです」


なんか友達をやけに強調してないか。

気のせいか?


「よろしくカンナちゃん、私は樫野木欅よ、隣のはリ・・・森林葉よ」


笑顔で樫野木が答える。

ほんの少しの間をおいて、それに林葉が続く。


「・・・はじめまして、家人君のさん・・・」


こっちはこっちで妹を強調しているし。

どうかしたのか?


「家人の父だ、こちらが妻だ」


「・・・はじめまして・・・」


「ないす・テゥ・ミー・テゥ!」


相も変わらず母さんはテンション高いな。

ふぅむ、にしても人数が大分多いな。

整理すると


渡部(使従)

橘蓮(母さん)

橘曲尺(父さん)

橘カンナ(妹)

橘家人(私)

後藤真木(後輩)

向陽由華(友人)

森林葉(秀才)

樫野木欅(同僚)


どう考えても多い。

まあ花見は人数が多ければ多いほど良いだろう。

肝心の桜は一本しか咲いていないが。


「母さん、未成年は勿論、父さんにも酒は飲ますなよ」


「ほぇ?」


父さぁあん!?

もう、遅かったか・・・

あなたの死は無駄にしない。

妙な感傷に浸っていると、何やら後ろからねっとりとした妖気を感じる。

全身から冷や汗を流しながら、ゆっくりと振り向く。

そこには聖母のような笑顔の真木だった。


「先輩、私の料理食べてくださいっ★」


そう言って、真木が差し出してきたのは重箱。

聖母のような笑顔だが、手に持った重箱は悪魔にしか見えない。


≪ギュルリヴォオオオオ・・・・≫


そのおぞましい啼き声に身が固まる。

これを食えと言うのか?!


「さあ、先輩っ☆」


に、逃げたい。

しかし女性の作ってくれた料理を拒否するのは無礼に値する。

私はいつも逃げてばかりいた・・・・

だからもう逃げない!


「いただこう・・・」


わけのわからない覚悟を決め、おそるおそる重箱を開く。

オーラ、いや可視できるほどに濃くなった腐臭がもれる。

腐臭の中から現界したものは・・・


(え、エイリアン?!)


ちょ・・・なんかうごめいている。

手の平サイズの昆虫の進化系のような生き物、十匹ぐらいがワシャワシャと蠢く。

無理無理無理無理無理無理無理!!

すまん、これは無理だ!

先刻の覚悟は、絶対気の迷いだ!!


「家人様」


「え?」


酒に酔い、顔を僅かに赤らめた渡部がそれを口に放り込んだ。

私の意識はそこで途切れた。







橘家人病院搬送

そのときの後藤真木の言葉

「失神するほどおいしかったんですねっ♪」

言うまでもなく、東行桜は西行法師の西行桜のパロディです。

東方や古文の勉強で縁があったので一丁やってみました。

知らない人は調べてみるといいかもしれません。

私自身あまりよく知りませんが・・・

実際の西行桜の下で西行法師が死んだという史実は無い(と思います、きっと)

誰か間違えてたら教えてください。

にしても古文・・・か・・・(遠い目)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ