第17戦 VS百薬と百毒の長である聖水
「それでは明けましていただきます!」
皆もいただきま〜す、と母さんに続く。
先ほどまで何も無かった高そうな座卓に、実に美味しそうな御節が並んでいる。
大和家の料理人達の気合が入りすぎてしまったようで、その量はかなり多い。
恐らく全ては食べきれないだろうが、御節は保存が利くから大丈夫だろう。
いざとなったらポチ食べさせれば良いか。
「大和家の方のお正月の席なのに、私達が参加してもいいんでしょうか?」
「ユカがそんなことを気にする必要はないだろう。どうせ大和家の連中は忙しいから出席率も低いしな」
「でも・・・」
「お前は宝蓮荘の住民だから私の家族だ。私の家族だから大和家の家族だ。これでいいだろう?」
「家人さ・・・」
「今夜は飲め飲めぇ、ワシのおごりじゃ〜!」
「・・・・」
「自分の家なのだからおごりも何もないだろ、ジジィ」
「そうか〜飲め、家人!」
「スルーか!」
もう大分酔っているようだ。
顔が天狗のように赤くなっている。
「そういえばジジィ、先刻まで何処へ行っていたんだ?」
「ちょっくらジャッカルを退治しにな」
「ここは日本だ」
そんなホイホイ日本にジャッカルがいてたまるか。
象だったら大和邸にいるが。
前述のポチは、その象の名前だ。
「家人くぅん、この校長めと飲もうではないか〜」
酒臭い吐息が顔にかかる。
何故だか急に服をはだけさせる。
挙句の果てに校長は、うふふと笑いながら私の着ているものを脱がそうとしてきた。
「・・・・」
「家人、無言で校長の頭を座卓に叩きつけ続けるのはやめなさい」
「父さんは少し黙って子供の気持ちを尊重してくれ」
「・・・・程々にな」
何かを悟ったような顔つきで、父さんはあきらめた。
そして父さんは普段から酔っているようなテンションの、更に酔って笑い上戸となった母さんに絡まれた。
南無阿弥陀仏。
「ふう・・・・やはりここは大和家だ」
妙な言葉をぼやきつつ、校長の頭を座卓に叩きつける。
ふぅむ、最初のほうは聞こえていた「ギッ」とか「グバッ」という声が聞こえないな。
どうやら意識を失ったようだ。
流石にやりすぎたかと思うが、校長だから大丈夫だろう。
「家人さぁん・・・」
「暑いですよねっ♪脱いじゃいましょうよ、先輩が★」
「お兄ちゃん・・・ジュル・・・」
「こいつらに飲ませたのは誰だ、出て来い!」
未成年の飲酒は、健康に害する恐れがあるので要注意だ。
私はちょくちょく飲んでいるが、そこには触れないでいてくれると嬉しい。
「アタシに決まってるじゃない!」
「堂々と言うな」
まあまあ、と母さんは笑いながら酒を飲む。
既にビンを10数本飲み干している。
私の肝臓のアルコール分解能力が優れているのは母さんの遺伝のようだ。
「えへへぇ・・・」
ちょ・・・三人とも・・・
「体格よくなってるね、お兄ちゃん・・・・」
「父さん、助けてくれ!」
「にゃ?」
「誰だ」
父さんのキャラが大分崩壊したなぁ・・・
母さんに飲まされて、ぐでんぐでんになっている。
私と違って父さんは酒に弱いからな。
「わ、渡部ぇ!」
「・・・ハッ、ざまあみろ」
だから誰だ?!
渡部はそんなヤツじゃない!
何故皆キャラが崩壊している?!
酒は万病の元どころか、性格崩壊の元だな。
「先輩、いただきます・・・♪」
「何をだよ?!」
「ナニをってねえ、カンナちゃん」
「決まってるよ!」
流石に女性相手に、手を上げるわけにもいかない。
こういうとき都合よく眠った、とかないのか?!
「ハアハア・・・家人さん・・・」
誰かどうにかしてくれ!
「え?」
ガコッ、ドカァ!
畳が抜けた?!
「ハハハハハハ、引っかかったな家人ォ!」
・・・・妙なトラップ仕掛けるなよ、ジジィ。
まあ、助かったから良しとするか。
しかし頭にたんこぶができたか。
痛い。
「というわけで三途の川を下見して来い」
「何を言っ・・・ぐぁ!?」
とりあえず手元にあった校長を投げてみた。
ここまでやると、少し良心が痛むな。
ひどい扱いの校長を押しのけて、ジジィがユラリと立ち上がる
「クハハハハハ!家人よ、今のは宣戦布告と見てよいな?」
「上等ッ!」
互いの拳がぶつかる。
周りは観戦モード。
「フン、足を踏ん張り腰を入れい!」
「くっ!」
「アタシも混ぜて!」
「ぎああああああああああああ!!!?!」
ズガン、ザザザザザ、ボチャン!
母さんの不意打ちを喰らったジジィは吹き飛び、障子を破り、林を通過し、池に落ちた。
「おー、よく飛ぶよく飛ぶ」
また障子の修理代がかかるな。
ジジィは大丈夫だろう。
三途の川の日帰りツアーぐらいは、いったかもしれんが。
「いーえーひーとー?」
手が母さんにつかまれて・・・
全身の全細胞が逃げろと叫んでいる!
もう何がしたいんだ、この人?!
「せぇのぉ」
「話せば分かり合えないことなどない!・・・・はずだ」
「漢は拳で語り合うものだっ!!」
終わった・・・
「大和流亜式、天龍紅蓮獄炎双刃脚、旧暦神無月!」
おかしいって。
空中ジャンプして踵落としはおかしいって・・・
何をどうすれば人間の限界を超越できるんだろうか・・・
「愛の力」
私は意識を手放した。
向陽由華―泥酔
橘カンナ―泥酔
後藤真木―泥酔
大和武―死亡
渡部―精神崩壊
橘曲尺―精神崩壊
橘家人―意識不明
橘蓮―君臨
影が薄かったというより無かったに近い大和家の皆さん―Priceless
ただいま帰りました、お久しぶりです。
2週間ぶりの更新です。
私としては2ヶ月くらいは経った気がします、様な気がします。
随分間が空いてしまったので、登場人物たちはまだお正月です。
・・・・まだ時期的にお正月に当たる話、2つも残ってるので非常に不味い事態となっております。
現実にどうにかして喰らいついていきます。
それと大和家の皆さんは描写がありませんでしたが、実はいたんですよ。
と、言うことにしていただけたら幸いです(オイ