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わたしの王子様

 わたしとライルさんが日本からサイネリアに戻って、3ヶ月が経過しようとしていた。

 日本に行っている間に、肩までしかなかったわたしの桜色の髪は伸び、すっかり元の長さに戻っていた。

 わたしは次期女王としてみんなに助けられながら、学びながら、毎日とても忙しい生活を送っている。

 ライルさんはわたしの正式な婚約者となり、わたしの護衛を離れ軍師職に就いた。彼はいずれ宰相になることが決められている。

 そして、わたしの今の護衛はというと……。


「何なんだ。この人選は。俺は未だに納得していないのだが」

 久しぶりに顔を合わせたライルさんは、開口一番、不機嫌そうな表情でそう言った。


 わたしの側には今の護衛であるコレットさんと、カエヒラ様の元で魔術を学び直したキリクが控えている。


「カエヒラ様曰く、魔術と武術の強固な守りだそうです」

 わたしは答えた。


「そうかもしれないが、いくらなんでも人格に問題がありすぎるだろう。よりにもよって」

「ライル様、私は姫様のお側に居られるだけで幸せです。二度と同じ過ちを犯しません。次期女王に不埒な真似などどうしてできましょうか?」

 コレットさんが頭を下げる。


「君主に対して不埒な真似などという言葉が出てくる時点で可笑しくはないか?」

 キリクは呆れた顔で言った。


「過ち、私はしっかり覚えておりますけど」

 お茶を用意していたエチカさんがコレットさんに冷たい目を向け、さらに言葉を続ける。


「ライル様、ご安心下さいませ。城内では私がおかしな真似をしないようコレット様をきっちり見張っておりますから。外出時は、キリク様、お願いいたしますね」

「分かっている。だが、護衛の見張りとはまた滑稽だな」

 キリクは笑った。


「キリク、お前もコレットのことを言えた義理か? 護衛の話が来た時に何で断らない?」

「悪い仕事ではなかったのでな」

 キリクの言葉にライルさんはため息をつく。

 そしてライルさんは再びわたしに視線を戻した。


「それに近頃、何故トキ事務次官まで始終お前の側に付けている?」

「付けて……はいませんが」

「あれではあいつまでお前の護衛と一緒ではないか」

 ライルさんは下方に視線を移す。


 ライルさんとはこちらに戻ってから、お互い忙しくてほとんど会えていない。

 だから今日は一緒にお茶が飲めることをとても楽しみにしていた。


「ライルさん、なんでそんなに怒っているんですか?」

 久しぶりに会えたのに、ライルさんの表情はずっと険しい。


「別に怒ってはいない」

「怒っています」

「……城内が安全なのをいいことに親父は遊びすぎた。昼夜問わずお前に嫌な護衛ばかり付けて」

 ライルさんは渋々口を開く。


「嫌な護衛?」

 聞き返したが、ライルさんは考え込むように黙ってしまった。






 その日の大分深い時間、ライルさんがやってきた。

 わたしの部屋の中・・・・に。


「え? ラ」

 ライルさんはわたしが大声を上げる前に、わたしの口を素早く自分の手で塞いだ。


「大声を出すな。今日の夜の護衛はコレットだろう? 魔力を最小限に抑えれば気づかれない」

「ライルさん、一体どうしたんですか? 普通にドアから入ってきて大丈夫ですよ」

 わたしは言った。


「こんな時間にそんな真似はできない」

「どうしてですか? 何か急ぎの用事があるんですよね?」

「急ぎ……。まあ、確かに」

 ライルさんは右手を振って、部屋に何か魔法をかけた。



「さすがに、俺ももう限界だ」

 彼はわたしの頬に手を伸ばす。


「え?」

「セリア、お前の中に入りたい」

 あ……。

 このセリフ。

 勘違いしたあの日の恥ずかしいやり取りを思い出す。


「それって、あの、わたしのことを理解したいって意味でしたよね?」

「いや、今回はそのままの意味だ。お前と一つになりたい」

 一瞬で体温が上がる。

 そんなこと、急に真顔で言われましても。


 わたしは固まったままライルさんを見つめる。

 でも……。

 急ではないのかもしれない。

 ライルさんは何年もの間……わたしが陽菜ひなでいる間も、ずっとわたしの体を気遣い待っていてくれた。


「……嫌なのか?」

 ライルさんの瞳が大きく見開く。

 わたしは左右に首を振る。


「いいえ。嫌なんて、と、とんでもないです。では、わ、わたしは何をしたらいいですか?」

  ライルさんは笑った。


「何もしなくていい。ただ頷いてくれれば、それだけで」

 わたしはこくりと頷く。

 ライルさんはわたしをそっと抱きしめる。

 何も怖くない。

 最初からわたしの王子様は、彼以外ありえなかった。



 わたしはベッドに横たわり、ライルさんを見上げる。

 彼の揺らぐエメラルドグリーンの瞳に、わたしが映る。

 ずっとその美しい瞳を見ていたいけれど、キスの雨が降り、わたしは優しい王子様に身を任せた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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