☆永遠の一番【ジェイド&メル】
セリアがサイネリアを去って半年後、めでたくカナン国の第2王子ジェイド・ロータスとナギ国の第1王女メル・ナナハンとの婚儀が行われる運びとなった。
婚儀と同時に、ジェイドはカナンの新しい国王となる。式典にはカナンを除く4国の国王たちが来賓として出席していた。
式典が無事に終わった後、国王たちは順に新カナン王、新カナン王妃と会談する場を設けられた。
そして、長年遺恨あるソンワ国の国王、サンガ・ハイドの番になった。
「ご成婚おめでとうございます。おめでたい席に何ですがご心痛お察し致します」
サンガは開口一番、皮肉めいた口調でそう言った。
「何のことでしょう?」
ジェイドは動じず、淡々と返す。
国の遺恨以前に、元々ジェイドのサンガに対する印象は良くない。
サンガは40手前の好戦的で屈強な男だが、口調が粘着質で厭味ったらしい。外観に不釣り合いな口調は気味の悪さを感じさせ、真意も読み取れない。
ジェイドが5国の平和同盟を結ぶに当たって障害があるとすれば、彼に他ならなかった。
「噂で聞いたのですが、あの切れ者のトキ王子は魔物の子だったというではないですか。王家の血を汚し、世界征服を目論む破壊者にでもなるつもりだったのでしょう。やはり魔物というのはまともでない精神も受け継がれるのでしょうねぇ」
「そんな言い方はやめてください。魔物の子であろうと兄は父が認めた王家の人間です。それにこれからも僕の兄であることに何ら変わりはありません」
ジェイドは、穏やかな表情のまま強めの口調で返した。
「まあ、お優しいことですねぇ。それにしたって、ジェイド国王がカナンの国王になられて本当に良かった。私も別に、大国相手との争いなんて望んではおりませんでしたから。魔術の盛んなナギも味方につけて、今や怖いものなしでしょう? ただ一つ忠告です。トキ王子を処分しておかないと寝首をかかれることになり兼ねませんよぉ。式典でお見掛けしましたが、禍々しいオーラは変わらないようですからねぇ」
「さすがに無礼ではありませんか?」
ジェイドは、鋭い視線でサンガを凝視する。
「……そうですね。大変失礼いたしました。ですが、カナン国やサイネリアを思い老婆心で言ったまで。ロータス家を貶めようとかそういった意図ではありません」
サンガは一応といった形で浅く頭を下げた。
そして、ジェイドの隣に座るメルに目を向ける。
「そちらのお美しいナギの姫君、貴女もとんだ災難でしたねぇ」
「災難?」
メルは怪訝な表情で聞き返す。
「亡くなられた……これは失礼。見つからない妹君の代わりに自国の女王の座を捨てて嫁がねばならなくなったそうで。しかもジェイド国王は今も貴女の妹君を愛しておられるのでしょう? まあ王族には多々あることですが、愛のない相手と一生を添い遂げるというのは辛いことです」
「ずいぶんこちらの事情に詳しいのですね」
メルはサンガに作り物のような綺麗な笑みを向け、言葉を続ける。
「愛のないとおっしゃりますが、サンガ王は愛についてお詳しそうですね」
「それは、まぁ……」
「そういえば、どうして本日、マチ王妃はご一緒じゃないのかしら?」
「ああ、申し訳ございません。王妃は体調がすぐれず」
サンガは気まずそうに目を伏せた。
「そうでしたか。王妃にはどうかお身体をお大事にとお伝えくださいませ。でも、側室が十人以上もおられるサンガ王でしたら、愛には様々な形があることを理解していただけますよね? 私はジェイド陛下を心より尊敬し、愛しております。カナンに嫁げて幸せです」
「メル姫……」
「陛下、もう姫ではありません。どうかメルとお呼びください」
ジェイドは小さく頷く。
「僕もメルを愛しています」
「はぁ……ああ、なぁるほど。男ならもう会うことのできない初恋の君より、目の前の美女に心を奪われて当然ですよねぇ」
「いいえ、セリア姫のことは幼き頃より少しも変わらず愛しています」
ジェイドの言葉にサンガは目を見開く。
「清廉潔白そうに見えて、これはなかなか。ジェイド国王は私なんかよりずっと多くの側室を持ちそうですねぇ」
サンガはいやらしくジェイドではなくメルの表情を伺う。
「まさか」
ジェイドは答える。
「おや、カナンでは側室を持つことは許されていませんでしたかぁ?」
「側室など必要ありませんから。僕にとってセリア姫は特別な存在です」
「とにかく私たちは愛し合っておりますので、妙な同情などお止めください」
メルはきっぱりと言った。
サンガは最後まで気味の悪い笑みを浮かべ、小さく何度か頷くとその場を後にした。
全ての会談が終わり、部屋はジェイドとメル、二人きりになった。
「陛下、先ほどは……嬉しかったです」
「え?」
「嘘でも愛してるって言ってくださって」
「嘘ではありません」
「……そうですか。では、一つ確認したいのですが、私とセリア、どちらを一番愛していますか?」
ジェイドはメルの顔をじっと見つめる。
「それはセリア姫に決まっています。だってメルの一番も僕じゃなくてセリア姫でしょう?」
メルは笑った。
「その通りです。私もセリアが一番です。そして、セリアが一番じゃない陛下は陛下ではありません。私はセリアを一番に愛している陛下を愛しているのです」
ジェイドは頷く。
「姫は元気にしているでしょうか?」
そう言って、ジェイドは目線を遠くに向けた。
「ライル、無意識にセリアを哀しませるようなことをしていないといいけれど……」
「そんなことをしていたら許しませんよ」
「それは、勿論私もです。ライルのこと、今度こそ本当に、本気で殴るわ。陛下、実はカエヒラ様と計画していることがあるんです。転移スポットをもっと改良できないかと思って」
「転移スポット?」
「ナギ国内を短時間で移動できる装置です。カナンの科学力とナギの魔力があれば、距離があるカナンの王宮とナギのお城も繋げられるはずです」
「王宮? お城?」
「繋げればいつでもセリアに会えます」
メルは少女のような無邪気な笑みを見せる。
「それは素晴らしい!!」
ジェイドは勢いよく立ち上がる。
「早くセリアに会いたいですね」
メルの言葉にジェイドは笑って頷いた。




