失言?
「セリア姫様、ライル様、申し訳ございませんでした」
シンリーさんは、蒼ざめた表情でわたしたちに頭を下げた。
「シンリー、気にするな。ここ数年クライに任せて放置してきた俺が悪い。トマス殿の手前、彼女を宿から追い出すわけにもいかなかったのだろう?」
「……はい、左様です。ライル様が当宿にお越しになる予定はないとお伝えしたのですが、カタリナ様はいつまでも待つと10日ほども滞在され、お付きの方は呆れて先に帰られました」
「お客様とはいえ、あれはなかったです。ライル様ファンの風上にも置けません」
カミラさんが不快さを露わにし、その言葉に同意したエリスさんも強く頷く。
「ですが、そのライル様がビシッと言ってくれてとっても爽快でした」
「エリス……」
シンリーさんが窘める。
「失礼しました」
エリスさんは頭を下げた。
瞬間、わたしはエリスさんに近づき彼女の両手を取る。
「別にそれくらい言っていいと思います。わたしも全く同感です。クライのことを悪く言われて哀しかった。だからすごくすごくすっきりしました」
「ひーめーさーまー」
エリスさんはわたしに抱きつく。
「こらこら、エリス。さすがに毎度毎度、姫様に失礼でしょう?」
そう言ってカミラさんがエリスさんをわたしから引き離す。
「あれ? そういえば、ライル様……」
マニさんはライルさんに視線を向ける。
「あ!!」
マニさんは驚いた顔で叫んだ。
「リングのことでしたら、ライル様を見た瞬間、多分マニ以外みんな気づいていましたよ。騒ぐとライル様が嫌がると思って敢えて触れなかったものを」
エチカさんがため息まじりに言った。
「カタリナ様のことばかり気にして、よく見ていなかったので……。急に騒いですみませんでした」
マニさんは頭を下げる。
「可笑しな気を遣うな。大体、言葉もなしに凝視されている方が気になる」
ライルさんは右手で自分のリングに触れた。
「ではもっと近くで見せていただいても構いませんか!?」
キイロさんが声を弾ませる。
ライルさんは黙って頷いた。
途端にライルさんはみんなに囲まれてしまう。
「わあ、素敵なリング。ライル様、とってもお似合いです。姫様の深い愛情を感じますわ」
キイロさんは自分の両手を前に組んでライルさんを見上げた。
「正面よりも側面に模様を施した見事なセンスです。さらに同色系で色味を変える、色の配合もまた絶妙で」
シンリーさんは冷静に、リングそのものの感想を述べる。
「リズ様の技術はさすがとしか言いようがありません。フェスティバルのことを思い出すと、感慨もひとしおですね」
マニさんは瞳を潤ませている。
「本当にお似合いです。リングが出来上がるまでの姫様の頑張りも見ていただきたかったです。ライル様はお幸せですね」
エチカさんはそう言って笑った。
「あ、姫様。これは非常に重要な質問なのですが、ライル様はどんな表情でこのリングを受け取られたのですか?」
カミラさんが興味津々といった表情でわたしに質問する。
「それがですね」
「おい、流石にもういいだろう」
わたしの言葉をライルさんが遮る。
「では後程ライル様のいないところで」
カミラさんは小声で言った。
「私も、ぜひ詳しくお聞きしたいです」
エリスさんの言葉にみんなも頷く。
「……それはそうと、成り行きとは言え大切なお話を聞いてしまいまして、その件に関してもお詫び申し上げます」
リングのお披露目が(?)一段落ついたところで、シンリーさんはライルさんに向かって再び頭を下げた。
彼は怪訝な表情で首を傾げる。
「クライ様のことです。クライ様はライル様のうつしだったのですね」
「ああ」
ライルさんは短く返事をする。
「それでは、もうお会いすることも叶いませんね。だから姫様の髪にクライ様の髪飾りが……」
シンリーさんは淋しそうに目を伏せる。
「シンリーさんも知らなかったんですね」
わたしは言った。
「わたくしには魔力が全くありませんから」
「じゃあ、マニさんは?」
今度は魔力を持っているマニさんに聞いてみる。
マニさんはゆっくりと左右に首を振った。
「お二人の魔力の質が同じなのは分かりますが、私にはそこまで気付けませんわ」
「普通、ほぼ感情を表さないライル様と感情ダダ漏れのクライ様が同一だなんて誰も考えませんよ」
エリスさんがきっぱりと言った。
「でも、なるほど。そうですかそうですか。あの姫様大好きオーラ全開のクライ様とライル様が同一……」
カミラさんは言いながら頷いている。
「人格は完全に分離していた」
「そうは言いますが、根源の感情は一緒ですよね?」
カミラさんは更に鋭く突っ込む。
「……勘弁してくれ」
ライルさんは上気した顔を背けた。
「絶対零度の冷たさも良かったですが、これはこれで」
そう言って、カミラさんは瞳を輝かせる。
「ああ、尊い。眩暈が……」
エリスさんはその場に崩れた。
「2人とも節度を……」
例によって、シンリーさんが困った顔で注意する。
「クライのこと、失言だった」
ライルさんはわたしの腕を引き、口早に呟く。
確かに、リングのことで注目を浴びることは覚悟して来ただろうけど、他のことでこんなに突っ込まれることになるなんて考えていなかっただろう。
でも失言うんぬんより、みんなクライの姿が見えなければ心配する。真実をいずれ伝えなければならなかったはずだ。
「ライルさんはクライのこと……恥ずかしいって思ってるんですか?」
「そうではない。ただ、これまでのあいつの言動を振り返ると気まずい」
「え?」
「……湯浴みする」
ええ?
湯? お風呂?
なんでいきなりお風呂!?
ライルさんは颯爽と廊下の奥に消えていく。
シンリーさんは頭を下げた。
同じく頭を下げるマニさんとキイロさんの肩は、笑いを堪えるように若干震えている。
エリスさんだけは赤い顔で床に伸びたままでいた。




