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悪口の代償

 朝食をとった後、ライルさんと再び合流する。

 メル姉からの許可をもらい、ハンナまではライルさんの空間魔法で一瞬だった。


 ハンナへ行くのは今日で三度目。一度目は追われながら。二度目は不安を抱えながら。

 考えてみたら過去2回は全然普通じゃなかった。

 今日は何の心配もない。



 宿に入り、シンリーさんに挨拶をする。

 彼女はすぐにスタッフを呼び、わたしたちは挨拶を交わした。

 みんな元気そう。そしてみんなの制服には前にわたしがプレゼントしたお菓子をモチーフにしたブローチが光っていた。

 変わらない絆を感じられて、なんだか嬉しくなってしまう。


「姫様、実は……」

 シンリーさんが言いにくそうにそう切り出したとき、スタッフとは明らかに異なる女性が広い廊下の奥から現れた。


「ライル君、会いたかったわ」

 女性はそう言って微笑む。

 ラ、ライル君?


「あ、姫様失礼いたしました。お初にお目にかかります。わたくし、カタリナ・ハベルと申します」

「セリア……です」

 彼女はわたしを知っているようなので、名乗る必要はないのだろうけど、一応そう言って頭を下げた。


 カタリナさんはウェーブの強い赤髪に赤茶の瞳。フリルの多い胸の開いた派手なドレスを身に纏っている。

 美人だけれどきつい顔の印象だ。


「王家に仕える事務次官トマス・ハベル殿のご令嬢だ」

 ライルさんが教えてくれた。


「事務次官?」

「城勤めだから、前にメル姫から紹介されていたと思うが」

「ああ、お城のエントランスで……」

 ぼんやりと記憶をたどる。

 でも、あの時は一気にたくさんの人を紹介されたので、トマスさんがどんな方なのかまでは思い出せなかった。



「それで今日はどういった御用で?」

 ライルさんは彼女に尋ねる。


「そんな他人行儀な。もちろんライル君に会いに来たのよ」

「職務中ですが」

「だってこうでもしないと、なかなか会えないでしょう?」

 ずいぶんと親しげな様子だ。

 カタリナさんはライルさんと個人的に付き合いがあるのだろうか?


「カタリナ様とライル様は同窓でございましたね」

 シンリーさんがやんわりと口を挟む。


「同窓?」

 わたしは尋ねる。


「そうですわ。ライル君とわたくしは同じ魔術学校でしたの。まぁ彼は特待生で職務もありましたから、ほとんどご一緒に学ぶことはありませんでしたけど。ところで……」

 急に彼女は周囲を見回す。


「今日はライル君にくっついている変な子は居ませんのね」

「変な子?」

 わたしは聞き返す。


「青い髪の少年のことですわ」

「……青い? クライのことですか?」

「姫様もご存知でしたのね。名前なんて知りませんけど、ライル君に話しかけるといつもいつも邪魔してきて、全く失礼な子でしたわ」

「クライのこと、そんな風に言わないでください!!」

「姫様?」

 カタリナさんは怪訝な表情でわたしを見つめる。


「ああ……さすがにあの変な子も姫様の前では場を弁えて殊勝にしているのですね。本当に嫌な子ですわ。権力や地位で人を判断して。でもわたくしのことをよく知らないようですわね。そりゃあ姫様には劣りますけど、わたくしだって名家の出身。あんな変な子に舐められる覚えはありませんの」

 この人は……何を言っているの?

 怒りで体が震える。


「クライはとても優しい子です!! 権力や地位なんかで人を判断したりしません!! クライは……」

 消えてしまったクライの姿が頭の中を駆け巡る。

 手は自然と自分の髪飾りに触れていた。

 感情が高ぶって、上手く言葉が出てこない。


「……もういい」

 制するように、ライルさんは右手をわたしの前に差し出した。


「カタリナ嬢、あいつならもう居ません」

「そう。なら良かったわ。姫様も無事見つかったことだし、これでもう何も障害はなくなったわね」

「障害?」

「ええ。だってもうライル君は職務上の罪悪感から頭を悩ますこともなく、自分の幸せだけを考えられる。ついでにあの変な子まで居なくなってくれて、これでわたくしとライル君の間の障害は何もなくなったわね」

 カタリナさんは頰を薔薇色に染め、嬉しそうに笑っている。

 ライルさんは呆れた顔でため息をついた。


「学生時代から貴方が俺に好意を持ってくれていたのは分かっていました。俺はもっと早くに自分の口から気持ちを伝えるべきでした」

「いいのよ。課せられた職務を全うするまで、わたくしだっていつまでもライル君を待つつもりだったのだから」

「そうではありません。クライが拒否してきた貴方を俺が受け入れるはずもないでしょう?」

「はい?」

 裏返った声とともに、極端なまでにカタリナさんの眉が吊り上がった。


「滑稽な」

 そう言ってライルさんは笑う。


「あ、あの? ああ、あの変な子はライルくんの大切なご友人だったのね。ご友人を悪く言った事は謝ります」

 ライルさんはゆっくりと左右に首を振った。


「全く、見当違いも甚だしい。貴方にそれ相応の魔力があれば、クライが俺と同じものだと理解できたはずです。大体魔力もないのに親に甘え、高等な魔術学校に通うなんて意味が分からない。もう子供ではないのですから、ご自分の道を改めて見つめ直してはいかがですか?」

「ーーっ!!」

 カタリナさんは目を白黒させ面食らっている。


「どうぞお引き取りを」

 ライルさんはそう言って頭を下げた。


「し、失礼しますわ」

 カタリナさんは宿を出ていく。


 自業自得とは言え、彼女は大勢のギャラリーがいる中で恥をかかされる形になってしまった。

 でも、正直すっきりした。

 優しいクライを変な子呼ばわりした罪は重い。

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